App Storeトップセールス常連ゲームの「運用スケジュール」を分析してみた

編集部注:この原稿は、スマートフォン向けゲームなどを手がけるワンオブゼムでDivision Managerを務める高橋遥人氏による寄稿である。同社は「ガチャウォリアーズ」をはじめとするゲームを提供する一方で、他社の人気ゲームの運用方法を分析するサービス「Sp!cemart(スパイスマート)」を手がけている。本稿では同サービスによる分析レポートを紹介する。前回の記事では、「パズル&ドラゴン」(以下、パズドラ)と「モンスターストライク」の運用方法、およびApp Storeトップセールスの1位と2位の逆転現象が発生した背景を分析した。今回はApp Storeトップセールス常連ゲームの「運用スケジュール」について紐解いてもらった。

ゲーム会社の実力が如実に表れる「運用スケジュール」

運用スケジュールとは、ガチャやセール、PvP(person versus person)と言われる対人戦などのイベントが、どのような日程で実施されているかのスケジュールを指す。単純にスケジュールと言ってもその実施方法は多岐にわたる。筆者としては、運用スケジュールはゲーム各社の運営・開発チームの実力が如実に表れるものだと考えている。

具体例を説明するにあたってわかりやすいのは、パズドラの曜日イベントだろう。曜日イベントとは各キャラクターの「進化素材」が手に入るもので、月曜日以外の火曜日から金曜日まで開催されている。このため、「月曜は曜日ステージがなく、それ以外の平日は進化素材が手に入る」というスケジュール感がユーザーに浸透していると想定される。

東京ディズニーランド(TDL)に代表されるテーマパークでも「スケジュール・季節感」は非常に大切にされている。我々はTDLに足を運ばなくても、9月と10月にはハロウィーンイベントがあることを知っているし、同様にクリスマスイベントの時期もおおよそ察しがつく。それがTDLへ足を運ぶ動機にもなっている。

それでは、スマートフォンゲームの世界はどうなっているのだろうか? ここからは具体的に月ごとの各ゲームのスケジュールを見ていく。

【1】ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル

最初に紹介するのが、KLab社が提供する音ゲー「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」だ。運用スケジュールは非常にわかりやすい。毎月15日と最終日の16時から新クリエイティブ追加のガチャイベントが始まるのだ。それに伴い、App Storeのトップセールス(売上)ランキングも上昇している。

下記の図はSp!cemartでラブライブの運用スケジュールを分析したものだ。青い折れ線グラフはApp Storeゲームカテゴリのトップセールスランキング、オレンジの折れ線グラフはゲームカテゴリの無料ランキングの順位、Descriptionとはイベントの概要を指している。

(引用:Sp!cemart)

ガチャイベントが毎月同じスパンで繰り返されるため、ユーザーは毎月15日と月末前後には告知がなくても「ラブライブ」に戻ってくる。ラブライブは特にコアなユーザーが多く、ガチャイベント限定のサイドストーリーもキャラとの「絆ポイント(ステージをクリアすると貯まってくポイント)」を貯めると見ることができるので、コンプリート欲が非常に上手くかき立てられていると推察できる。

【2】ドラゴンポーカー

次に紹介するのがアソビモ社が提供するリアルタイムポーカーカードゲーム「ドラゴンポーカー」だ。同ゲームもラブライブと同様に、スケジュールをかなり意識していることが下記の図から見て取れる。ドラゴンポーカーのポイントは「毎週金曜日」である。

(引用:Sp!cemart)

ドラゴンポーカーは毎週金曜日(実施しない週もあり)の15時〜16時でメンテナンスを行い、その後にガチャイベントを開催している(メンテナンスは上記記載の時間よりも長いこともある)。App Storeのトップセールスを見ると、イベント実施前は毎回40位前後だが、実施後は2位や3位まで一気にランクアップするのが特徴である。

オレンジの線はFreeランキング(無料ダウンロード数)の推移であるが、このランキングも5月9日、16日に一気に上昇しているため、「リワード広告(ユーザーがゲームをダウンロードした際に、サイト内ポイントなどが付与される広告)」などの施策を行っていることが伺える。リワード広告でDAUを増やし、売り上げを上げるサイクルを非常にうまく回しているように見受けられる。

【3】三国インフィニティ

最後にポケラボ社が提供するトレーディングカードゲーム「三国インフィニティ」だ。三国インフィニティはセールイベントの量が非常に多いことに加え、ガチャイベントやPvB(Person versus Boss)と言われる、プレイヤーがボスなどを倒しアイテムをゲットするマラソンイベントを行っているのが特徴だ。

(引用:Sp!cemart)

イベントのスケジュールを見るとわかりやすいが、月に大きく3つのタームが存在する。毎月初旬、中旬、下旬と分けてイベントを実施している。その切り替えのタイミングも見事だ。これだけ多くのイベントを追加しているにもかかわらず、11時から12時までのたった1時間でメンテナンスを行い、スムーズに切り換えている。

もう1点、上記の図を見ていただいてもわかるが、プッシュ通知の配信数が月初に集中している。つまり、三国インフィニティは特に「月初ターム」のイベントを重要視していることが伺える(他の月も同様である)。

ユーザーの「スケジュール感」と息を合わせた運用が効果的

先にも記載したが、運用スケジュールを最適化することによって、ユーザーは「告知がなくても」ゲームを再起動するきっかけになっていると想定できる。ユーザーが抱く「スケジュール感」と息を合わせて運用スケジュールを組むことが、一定の効果を生み出すのは間違いないだろう。

その一方で、そうはうまくはいかない現状もある。新しいクリエイティブやステージの追加には、現状のApp Storeの仕様だとアプリのアップデートが必要不可欠だからである。つまり、運用はアップデートスケジュールに大きく影響されてしまうということだ。冒頭で、ゲーム運営は運営・開発チームの実力が如実に表れる、と記載したがその理由が上記である。
 
運営を成功させるためには、運営および開発の息がぴったり合い、さらに売り上げも上昇させるチームの認識が必要であると考える。運営および開発も、ゲームというくくりでなく、あくまでユーザーへのエンターテインメントの提供と考え、市場拡大に貢献していきたいものである。


投稿者:

TechCrunch Japan

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