Apple Musicはヒットとなるか?競合サービスとの比較で見る、強みと弱点

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Spotifyを倒すことになるのか?それともPing 2.0か?Appleはオンデマンド音楽ストリーミング事業に進出すべく、本日ようやくApple Musicを公表した。次の問題は果たしてApple Musicが一般向けにヒットし、ストリーミングサービスを初めて利用するユーザーを大量に惹きつけ、そして他の競合サービスからユーザーを奪うことができるかどうかだ。あるいは、フォルダーのどこかにしまわれ、存在すら忘れられてしまうその他大勢のAppleアプリになってしまうのか。

以下の表はAppe Musicと競合サービスの比較一覧だ。ローンチ情報から、強みと弱点の分析を加えた。

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強み:オンデマンドストリーミングサービス
音楽ダウンロードの売上が急激に落ち込む一方、ストリーミングサービスは急速に拡大している。Appleは、iTunesの販売モデルをストリーミングによるサブスクリプションモデルに変更するために手を尽くしてきた。そうしなければ、日々の利用率と売上の減少を見届けるリスクを負うことになるからだ。

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弱点:ローンチ日
全世界が注目する中、Appleは新しい音楽アプリを早速ダウンロードして今すぐ使い始めてほしいと言うこともできただろう。しかしそうは言わず、6月30日のローンチまで待ってほしいと言った。それまでにこのサービスを忘れてしまう人もいることだろう。新しい端末の販売なら発表からローンチまでに時間があっても問題にはならない。誰もが何百ドルを費やして、これから手に入れる新しいピカピカのガジェットについて話をし、手に入れたのなら皆に見せびらかすだろうから。しかしソフトウェアはモバイル端末の中に隠され、無料トライアルを始めたことを大々的に宣言する人はいないだろう。

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強み:利用可能な端末と地域が広い
Appleは、Android端末とWindowsパソコンでもApple Musicを利用可能にするという賢い動きを見せた。しかし「秋」までローンチされない。それまではiOS、MacとApple Watchでしか利用できない。ここでもやはりAppleがストリーミングアプリを世界規模の現象にしたいのなら、統一されたクロスプラットフォームサービスを今日ローンチした方が強い影響力があっただろう。しかし、Spotifyは58カ国で利用できるのに対し、Apple Musicは100カ国で利用できる。オフラインモードに曲を同期できるのも良い。

強み:無料トライアル
誰でも3ヶ月Apple Musicを無料で試すことができるのは良い。検索ボックスから探すだけで、ほとんどどんな曲でも聴くことができるサービスを多くの人が初めて体験することになる。初日からApple Musicがユーザーに課金したのなら、ローンチした直後には撤退に追い込まれただろう。

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弱点:無料の広告表示モデルはない
無料トライアルの問題は、再生リストを作成してサービスに自分の好みを教えるといった、視聴体験をパーソナライズする手間をかけることをユーザーに躊躇わせてしまうことだ。Spotifyは、無料で利用できる、機能が制限された広告表示のあるバージョンを提供することで、気軽に音楽を視聴し始めるユーザーを獲得し、有料登録に結びつけることで大きく成功した。Spotifyの有料登録ユーザーの80%は、無料モデルからサービスを利用し始めていたという話をSpotifyから聞くことができた。

影響は大きくなかったiAdもあるが、そもそもAppleは広告企業ではない。よって、広告表示の無料モデルがないことは予想できたことだ。しかし、それでもBeats1のラジオ放送、iTunes Radio、Apple Music Connect以外に、有料登録に消極的な人を囲い込む方法を提案できたと思う。曲数や利用時間に上限を設けたり、モバイルでの機能を限定したりすることで、部分的にでも継続的に無料でアクセスを提供するクリエイティブな方法が考えられただろう。3ヶ月後には有料登録するか、サービスを使うのを止めてラジオに移行するしか選択肢がない。これは、有料登録の見込みが少ない若いユーザーを遠ざけてしまうかもしれない。彼らは、重要なネットワーク効果とバイラル効果をもたらすかもしれないにも関わらずだ。

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弱点:価格
Apple Musicは月額10ドルだ。他のSpotifyといった独立系サービスと同様の価格だ。Appleはレコード会社を説得し、彼らに支払う金額を抑えることができなかったようだ。しかし、Appleの本当の失敗はサブスクリプションの費用を補助しないことに決定したことだろう。結局の所、Appleは購入されたコンテンツから得られる数ドル単位の利益で、会社が成り立っているのではない。彼らはデバイスの売上で、何十億単位の金額を得ているのだ。世界で最も有名なオンデマンドストリーミングサービスが使えるとなれば、iPhoneの販売を後押しすることになるだろう。サービスが低価格、あるいは無料で利用できたのなら、さらにそれは現実味を増す。iPhone、iPad、MacBook、Macの購入に、無料で6ヶ月、あるいは12ヶ月間のサービスを付けるとなれば、それはデバイスの購入を後押しする賢い施策と言えるだろう。音楽は常にあるものであるし、この競争に勝つために彼らの1980億ドルの資金のいくらかを投じるのは良い選択だと思う。

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強み:ファミリープラン
Appleは6アカウントまで加入できる、14.99ドルのファミリープランで親を取り込むことに力を入れている。10ドルのサブスクリプション料がかかるSpotifyアカウントを解約し、Apple Musicを子どもたち全員と、更に両親までもリーズナブルな価格で利用できると訴求することができる。(Sportifyの料金体系は、2アカウントで15ドル、5アカウントで30ドルだ。)

弱点:独占的なコンテンツの欠如
Appleが他に投資できた方法としては、ユーザーが確実に欲しいと思うコンテンツをApple Musicに囲い込むことだ。ザ・ビートルズやテイラー・スイフトの楽曲を提供できたのなら、ユーザーがApple Musicにサインアップあるいは、他社から乗り換える魅惑的な要素となるだろう。Appleはそのような独占的にApple Musicで利用できるコンテンツの存在を口にしていない。

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強み:Beats1 Radio
オンデマンドストリーミングサービスの最大の問題は、ユーザーは何を検索して聴けば良いか分からないことだ。彼らが力を入れている、24時間放送の人の手で運営されるBeats1ラジオステーションは気軽に音楽を楽しみたいリスナーがエンターテイメントとしてストリームするのに適したアーティストを見つける機会を提供する。また、iTunes Radioもまだ生きている。Beats1に埋め込まれているのだ。無料ユーザーを含め、誰でもそれぞれのユーザーに特化したPandoraスタイルのiTunes Radioを利用できる。自分で編曲したくないユーザーでも、音楽を流し続けることができるのだ。

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今後の経過次第:Connect
AppleはPingをConnectと名前を変更し、再登場させる。Connectは、Apple Music内のタブからアクセスでき、音楽、写真、動画やテキストの投稿を見ることができる。アーティストとファンとのつながりをAppleが保有できるよう設計されているが、そのような関連性はTwitterやFacebookといったサービスで既に出来上がっているのが課題だ。

Connectが成功するか失敗するかの判断はまだ難しい。それはアーティストが実際に、Connect専用のコンテンツを作成したり、そこでファンとの交流に時間を割いたりするかどうかにかかっている。他のソーシャルメディアで投稿した内容を同期させるかもしれないし、全くConnectの存在を忘れてしまうかもしれない。Appleがアーティストに対し、ユーザーがストリームする音楽を探すタブで発見されやすくするといった優遇措置を提供し、Connectの利用を促すことも考えられる。しかし、友人の投稿を見るという日常的な動作がなければ、Connectタブにユーザーを誘導するのは難しいかもしれない。また、ユーザーの聴いている音楽を読み取り、自動でアーティストがフォローされるのではなく、ユーザーがフォローするアーティストを手動で登録しなければならない。このことからもアーティストはConnectという新たなフィードに投稿するのを手間に感じるかもしれない。

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最終的な評価:悪くない。
Apple Musicは申し分ないストリーミングサービスだ。他の競合と比べて、大幅に優れているのでも、劣っているのでもないだろう。Appleが今後どのようにマーケティングするかで結果が変わってくる。

Appleが、iTunesのクロスプラットフォーム対応を充実させ、iOSに予めインストールし、端末の購入には無料でサービスを付与したり、著名人と独占契約を獲得するのに動けば、Appleよりリソースの少ないSpotifyや音楽をさほど優先していないと思われるGoogleを軽く超えることができるかもしれない。

しかし、ユーザーに登録を促す無料バージョンや一つのアカウントからでも手軽に利用できる価格、そして目を引くプロダクトのイノベーションが無いのなら、まだ利用していない人や既に他のストリーミングサービスを利用している人をApple Musicに惹きつける要素に欠けるだろう。今月末のローンチ後、サービスを実際に試してみたら、もう少し状況が分かるだろう。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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