Birdスクーターが危険な歩道走行を正確に検知し、ゆっくり停止させる新機能を発表

共有型マイクロモビリティを運営するBird(バード)は、スクーターのADAS(先進運転支援システム)化に乗り出した。Birdは、3年間の研究を経て、スクーターの歩道走行を検知し、ゆっくりと停止させることができる新技術を発表した。

この新技術は、現在、ミルウォーキーとサンディエゴで数百台のスクーターに搭載して試験的に運用されており、2022年初頭にはマドリッド、さらに数カ月後には世界の他の都市にも導入される予定だ。Birdのチーフ・ビークル・オフィサーであるScott Rushforth(スコット・ラッシュフォース)氏は、すべての新車にこの技術が搭載されることになり、現在から2022年初めにかけて「数万台から数十万台」の歩道検知機能付き車両が製造ラインから出荷されるだろうと述べている。

この新機能は、世界中の都市で最も不愉快で危険な、共有型マイクロモビリティの問題を解決するために設計されたもので、無線半導体や高精度測位モジュールを製造するスイスのu-blox(ユーブロックス)との提携により実現した。Birdによると、両社は共同でu-bloxのZED-F9Rモジュールの独自バージョンを開発し、特に共有型マイクロモビリティ業界のニーズに合わせて調整が施されたという。

ラッシュフォース氏はTechCrunchの取材に対し「このモジュールはGPSセンサーからの入力情報を用います。またデュアルバンドのGPSセンサーを使用しているため、GPSの中でも最も優れた性能を誇ります。その上に加えたのがRTKと呼ばれるシステムで、これはリアルタイムキネマティクス(real-time kinematics)の略です。さらにその上に、センサーフュージョンを用いたシステムを追加しました。このシステムは、車輪の移動距離やスクーターが傾いている角度など、車両自体からのデータだけでなく、これらすべてのデータを取得し、GPSの位置情報と融合させることで、GPS信号がうまく機能しない場合でも、車両の位置を極めて正確に把握することができるのです」と語っている。

歩道を走っているライダーは、モバイルアプリケーションと新しい16ビットのカラーディスプレイを介して、違反行為を音声と映像で警告されることとなり、その後スクーターはスロットルを外してスムーズに停止する仕様だ。

Birdは、2019年からさまざまな歩道検知技術を検討してきたというが、それは決してBirdだけではなかった。マイクロモビリティのライダーアシスタンスシステムの世界では、2つのグループがあるようだ。1つ目のグループは、超精密な測位とセンサーフュージョンに頼って、悪質な乗車行動を検出し、それをリアルタイムで修正する技術に頼るグループだ。Superpedestrian(スーパーペデストリアン)は最近Navmatic(ナブマティック)を買収し、同社の代表的なソフトウェアを同様の方法で活用している。

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もう一方のグループでは、Spin(スピン)Voi(ボイ)、そして最近ではHelbiz(ヘルビズ)などが、Drover AI(ドローバーAI)やLuna(ルナ)などのスタートアップと協力して、歩道や自転車レーン、歩行者などを検知するカメラを搭載している。

コンピュータビジョン企業は、位置情報を利用したスクーターのADASは、都市の峡谷や地下駐車場のようなGPSのない場所では役に立たないとしばしば主張してきたが、ラッシュフォース氏はその主張に反対している。同氏によると、u-bloxのモジュールは進化したデッドレコニング(推測航法)機能を搭載しているという。これは、基本的には以前にとらえた位置を使用して移動体の現在の位置を計算するプロセスだ。GPSが出発点となる可能性が高いため、車両が衛星の受信を完全に失った場合でも、他のセンサーに頼って、どの方向にどれだけ進んだかを判断することができる。

Birdによると、このモジュールは、車輪の速度、加速度、空間的な方向性、運動学などのデータを処理し、それらを融合することで「恐ろしいほど正確な」位置情報とセンチメートルレベルのマッピングを導き出すそうだ。これらの情報は、車両の回路基板を経由して、同社独自のOSであるBird OSに送られ、Bird OSがデータをどう扱うかを判断する。

これにより、Birdの車両は、市が定めたエリア内に正確に留まることができるだけでなく、高い位置精度を持つことで、関連するさまざまな他の機能にも対応することができる。

「もし、このような追加技術なしで、GPSだけでエリアにいると、駐車場の外にいるのに、車両はその中にいると認識してしまうかもしれません。だからこそ、このように高い精度が得られれば、駐車場での体験が確実に向上するはずです」とラッシュフォース氏はいう。

また、マイクロモビリティ企業の最大のコストの1つであるオペレーションも、車両の位置を正確に把握することで、ゴミ箱の後ろに隠れているかもしれない車両を探す時間や、GPSでは北西に位置しているのに実際には南西の角に位置しているかもしれない車両を探す時間を削減することができ、大きなメリットを得ることができるだろう。

「車両の位置を正確に把握することで、我々のビジネス全体が測定可能な形で改善されると言っても過言ではありません」とラッシュフォース氏は語る。

Birdによると、カメラを使ったものやウルトラワイドバンド(無線技術の一種で、短距離・広帯域の無線通信を行う)など、いくつかのソリューションも検討したが、拡張性の点でこのソリューションが最適であると判断したという。

ラッシュフォース氏は「これで、あまり訓練をしなくても済むソリューションができました。バックエンド側で歩道の位置データを表示するだけで、すぐに拡張することができ、1台あたり10~12ドル(約1100〜1300円)程度の追加費用で済みます」。と語る。

一方、カメラを使ったソリューションでは、ハードウェアとサービスのコストが車両1台あたり約200ドル(約2万2000円)になり、時間の経過とともに1台あたり80ドル(約9000円)まで落とせる可能性はあるが、利益を上げる方法をまだ見いだせていないビジネスにとっては、かなりの金額だ。

「もし私が未来を読める水晶玉を持っているとしたら、今後24カ月の間に誰もがこの方法を真似するだろうというと思いますよ。費用対効果を考えれば、これしかありませんから」とラッシュフォード氏は語っている。

画像クレジット:Bird

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Akihito Mizukoshi)

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TechCrunch Japan

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