Mac用の仮想PC環境ソフトウェアでおなじみのParallelsは、Mac版のParallels Desktopと同様に、Chromebook上でもWindowsとそのアプリケーションを利用可能にするソフトウェアソリューション、Parallels Desktop for Chromebook Enterpriseを米国時間10月20日付けでリリースした。
ハイスペックのChromebook Enterprise専用
長い製品名の最後にEnterprise(エンタープライズ)と付いていることからもわかるように、これは企業向けの製品。残念ながら今のところ個人のユーザーは対象としていない。この「Enterprise」という語は、製品名全体を修飾しているというよりは、「Chromebook Enterprise」という、企業向けのハイスペックなChromebookを意味している。Chromebookの動向をなんとなくでも気にかけている人なら、最近になって様々なメーカーから、これまでよりかなりレベルの高いハードウェアを備えたChromebookが発売されるようになったことにお気付きだろう。つまり、今回発表されたParallels Desktopは、そうしたハイエンドChromebook向けのソリューションということになる。
このところGoogleは、Chrom OSの機能を強化して企業ユーザーのニーズを満たすために、Chrome Enterprise Upgradeを展開している。そのためのデバイスが、ハイエンドのPC並のスペックを実現したChrombook Enterpriseであり、それによってWindowsやその上のアプリケーションを利用可能にするための切り札として登場したのが、今回のParallels Desktop for Chromebook Enterpriseだと理解できる。Googleの戦略と、高性能Chromebookを供給するPCメーカー、そして仮想化ソフトウェアでWindows PCとのギャップを埋めるParallels、三つ巴の壮大なプロジェクトというわけだ。
これまで教育市場を中心に展開してきたChromebookには、大別してARM系のCPUを搭載したものと、Intel系のCPUを搭載したものの2種類があった。Chromebook用のParallels Desktopということで、ARM系の機種でも動くのかという期待を抱いた人もいたかもしれないが、これはIntel系専用。しかも上で述べたように、Chromebookとしてはかなりのハイスペックを要求する。Parallelsでは、推奨条件として以下のようなスペックを挙げている。
- CPU:Intel Core i5/同Core i7
- メモリ:16GB以上
- ストレージ:128GB以上のSSD
また、各社のChromebookのハイスペックモデルが、以下のように具体的な推奨デバイスとして挙げられている。
HP
- HP Elite c1030 Chromebook Enterprise
- P Pro c640 Chromebook Enterprise
- Google Pixelbook
- Google Pixelbook Go
Acer
- Acer Chromebook Spin 713
- Acer Chromebook Spin 13
Dell
- Dell Latitude 5300 2-in-1 Chromebook Enterprise
- Dell Latitude 5400 Chromebook Enterprise
Lenovo
- Lenovo Yoga C630 Chromebook
ASUS
- ASUS Chromebook Flip C436FA
また、システム要件としては、Windows 10のライセンスはもちろん、企業のIT管理者がChromebookを集約的に管理するためのGoogle 管理コンソールが不可欠となっている。なお価格は、1ユーザーあたり年間7389円(税別)と定められている。
世界初のChrome OSネイティブアプリ
Parallels Desktop for Chromebook Enterpriseは、簡単に言ってしまえば、Parallels Desktop for MacをChromebookに移植したもの。Parallelsは、長年に渡って主にWindowsの利用をターゲットにした仮想環境ソフトウェアをMac用に開発し、改良を重ねてきた。Chromebook版には、そうした開発の積み重ねから得られた成果を、最初から土台にしてスタートできるという大きなメリットがある。本物のPCのハードウェアとの互換性については、最初からかなり高いレベルの動作が期待できるはずだ。もちろん一般的なWindowsの機能と、その上のアプリケーションの動作も、安定したものが得られるだろう。
仮想PC環境としての基本的な機能や操作は、Mac版のParallels Desktopを使ったことのある人にとっては、かなり自然なものに感じられるはず。Chrome OSとWindows間でのクリップボードの共有、ユーザーフォルダーの共有、プリンターの共有、Windows画面のダイナミックなリサイズ、フルスクリーンのサポート、リンクやファイルを開くアプリをOSをまたいで設定、Windows環境のサスペンドとリジュームといった機能は、当たり前のように使える。
ただし、Chromebook版の最初のバージョンでは、ChromebookのCPUが内蔵するGPUを直接使うような3DグラフィックスAPIや、Chromebook上のUSB、ビデオカメラ、マイクのサポートは見送られている。Chromebook上で本格的な仮想環境を動かすこと自体初めてのことなので、まだ実現が難しい部分が残っているのだろう。こうした未サポート部分は、将来のバージョンで実現するとしている。主な用途としては、ビジネス系のアプリケーションの利用が中心となると考えられるので、GPUサポートののプライオリティは、さほど高くないのかもしれない。しかし、ビジネス用に特別なUSB器機を接続して使う用途も考えられるし、昨今ではWindows上のコミュニケーションツールの利用が必須というリモート環境で使うことも考えられる。少なくともUSBやカメラ、マイクのサポートは早期に実現すべきだろう。
Chrome OSのアプリと言うと、常にインターネットに接続したオンライン状態でないと使えない、あるいは機能が制限されるという印象も強いかもしれない。しかし、Parallels Desktopは完全なオフライン状態でも問題なく動作するという特長も備えている。もちろん、オフラインの間は、ネットワークにアクセスできないが、それは本物のPCを使う場合でも同じだ。
Parallelsでは、Chromebook用のParallels Desktopが、Chrome OS用として世界初のサードパーティ製のネイティブアプリだとしている。これまでのサードパーティアプリは、すべてChrome OSの機能拡張として動作するものばかりだったからだ。Chrome OS上でのネイティブ動作は、この種の仮想環境ソフトウェアを可能な限り効率的に動かすために不可欠な措置だったものと考えられる。このような低レベルで動作するソフトウェアの開発には、Googleによる例外的なサポートが必要だったのは明らかだ。これはGoogleが、Chromebookをエンタープライズ分野に浸透させるための不可欠なピースの1つとしてParallelsを選択し、確実なWindowsアプリの動作を実現するため、技術的にも深い協力関係を築いて開発を進めた成果だろう。
なお、現在TechCruch Japanでは、実機によるレビュー環境を準備中だ。実際に動く環境が整ったら、Chromebookの実機上でParallels Desktopを動かし、Windows使ってみた上でのレビュー記事を掲載予定だ。
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カテゴリー:ハードウェア
(翻訳:Dragonfly)