2017年夏、TechCrunchはCloudflareと2人の弁護士の争いについて書いた。Cloudflareはサンフランシスコに本拠を置くインターネットセキュリティおよびコンテンツ配信ネットワーク企業。係争相手の弁護士らは過去に多数のテクノロジー大企業を代表して知的財産の訴訟に関与したことがある。弁護士らはボストンとシカゴに拠点を置くBlackbird Technologiesを設立後すぐに特許をかき集め、Cloudflareを含む多くの企業を相手に特許侵害訴訟を仕掛けた。
この訴訟は、Cloudflareがどのように対応したかを除けば、あらゆる点で典型的だった。Cloudflareはいわゆるパテントトロール(編集部注:特許を盾に特許権を侵害している可能性のある企業などから損害賠償金やライセンス料などをとる組織や人のこと)の通常のターゲットのように密かに示談に持ち込むことはせず、すべてをオープンにして反撃すると決めた。たくさんのブログを書き、TechCrunchのようなメディアと話をし、そして最も重要なのは先行技術を見つけてくれそうな相手なら誰とでも接触した。狙いは、BlackbirdがCloudflareを訴えるために確保した特許を無効にするだけではなく、Blackbirdの特許すべてを無効にすることだった。Cloudflareは宣戦布告したのだ。
Cloudflareは勝利を収め、功績を残した。少なくともCloudflare自体に対する訴訟は最終的に却下された。同社は11月3日に発表した事後分析で、Blackbirdの特許を無効にする先行技術発見に懸賞金をかけたゲームプランなど詳細を説明した。
懸賞プロジェクトには、49の特許に155人から275の応募があり、26の特許で複数の応募があった。応募のうち約40%がCloudflareの訴訟に関連していたが、他の企業、例えばNiantic、Lululemon、New Balanceを守るものもあった。NianticはCloudflare同様Blackbirdを撃退しようとしている。LululemonとNew BalanceはBlackbirdから「一体型収納ポーチを備えたスポーツブラ」関連特許をめぐって訴えられていた。
CloudflareはBlackbirdの創設者である弁護士に対し、職業倫理に関する苦情申し立てを行った。弁護士の職業行動規範は、自分自身の利益のために訴因を作り出すことを禁止している。申し立ての今後の展開は全くわからない。注目に値するのは、Blackbirdの創設者の1人Chris Freeman(クリス・フリーマン)氏が大手法律事務所のKirkland & Ellis出身で、現在はシカゴの訴訟ファンドに在籍している点だ。
Cloudflareの勝利はメディアにあふれる悪いニュースの中で気持ちの良い話だが、この先どう展開するのか。
Cloudflareに不正義と戦い続けて欲しい向きも多いと思われるが、期待するとがっかりするだろう。Cloudflareは当初から、Blackbirdとの係争が終われば、パテントトロールにはもう関わらないと明らかにしていたし、同社のゼネラルカウンセル(法務の最高責任者)であるDoug Kramer(ダグ・クレイマー)氏からも先週末に確認が取れた。彼が言うように、Cloudflareの「十字軍」活動は、他のより差し迫った問題(9月の公開を含む)を考えればこの先ずっと続ける性質のものではなかった。
それでも、バトンタッチするのは簡単ではない。クレイマー氏は「特許訴訟の対象になっている会社のゼネラルカウンセルやCEO、また知的財産専門の弁護士から、『貴社の役割を引き継いで懸賞に小切手を切るほかに我々にできることは何か』といった電話を多くもらった」と述べた。彼らは当然のことながら、Cloudflareが学んだことに便乗しようとしている。「我々のようなやり方は他に見たことがない」とクレイマー氏は語った。
11月3日のCloudflareのブログの投稿では、単にBlackbirdに対する勝利について自慢したかったわけではない。「Cloudflareが大いに頼ったコミュニティに感謝したい気持ちが強かった。我々のようなやり方もあるということをはっきり示したかったこともある」とクレイマー氏は述べた。同氏は他の企業が自身の戦い方を確立するだけでなく、Cloudflareの方法も参考にして欲しいと考えている。
誰もが戦う意志を示すわけではない。クレイマー氏が言うように企業が特許訴訟で訴えられると「選択肢は悪いものしかなく、大半の企業が最もましな選択肢を取る」、つまり小切手を切って示談に持ち込む。そしてBlackbirdのような企業がますます勢いを増す。「彼らが抵抗に直面することはほとんどない」
クレイマー氏は、狙われた企業が事態を速やかに収拾しようとしがちな点を非難する気はない。Cloudflareのように、戦うと決めた場合でも訴訟には数年かかることがあり、数百万ドル(数億円)ではなくても数十万ドル(数千万円)の費用がかかることはある。「訴訟は大成功だったが、それでも小切手を切るより高くついた」
だが、もし特許を本来の目的で使いたいなら、多くの企業が行動を起こす必要がある。クレイマー氏は「もっと抵抗する」ことが一つの方法だと言う。同氏は「非常に活気があり、賢く、思慮深い従業員や社外の人間でパテントトロールに対抗するチームを作る」など、方法はいくつかあると語った。
別の対抗策としては、マサチューセッツ州上院議員であるEric Lesser(エリック・レッサー)氏のような政治家がしているように、パテントトロールを州の経済に対する脅威とみなし、パテントトロールの追放やその侵害請求の無効化を試みる方法もある。
味方になってくれるエンジニアもいる。自社の商品やサービスを生産するのではなく、ライセンスや訴訟によって利益を得るパテントトロールのような企業の台頭を嫌うエンジニアは多い。また実際のところ、すべての企業がCloudflareのような財務力を備えているわけではない。同社は、公開前に投資家から3億ドル(約330億円)以上を調達した。加えてBlackbirdとの戦いのために匿名の寄付者から5万ドル(約550万円)を受け取った。たとえそうした資金ががなくても社外コミュニティからのサポートは大変役に立つ、とクレイマー氏は説明した。
「我々は、特許を取得して使用料を要求したり損害賠償の訴えを起こすような輩に悩まされている人が多いことを知った。同僚、友人、志を同じくしてビジネスに携わる人、縁があってテクノロジー企業で働く人たちなどだ」
特許訴訟件数が着実に増加する中、完璧な解決策は存在しないが、どんな小さな事であっても、どんな支援者からであっても、提供される有用な情報はすべて役立つ。クレイマー氏は「Cloudflareがこういう類いの特許訴訟をすべて解決したわけではなく、問題は依然存在している。だが我々は世間の感情を味方にできた。世の中には支援する味方がいるという証拠になれば良いと思う」と語った。
画像クレジット:mith Collection / Gado / Getty Images
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(翻訳:Mizoguchi)