私たち自身の遺伝機構を計算機やストレージの形で利用するとき、それを私たちが未来を生きている兆候だと捉える見方は、もはや新しいものではない – しかし、誤解してはならない。この分野はまだ始まったばかりで、沢山の驚異がこの先に待ち構えているのだ。例えば、今日紹介する驚異は、DNAを利用した完全にアナログで正確な算術計算だ。
DNAによって行われる計算なら、定義によって、なんでもアナログなのではと思う人もいるかもしれない、しかしそうではない。実際には、DNAは既にある意味デジタルであるため、こうした目的のためには有用なのだ。DNAが情報をエンコードする方法である塩基対をコドンとして配置するプロセスは、私たちがバイト列を構成するためにバイナリシンボルのシーケンスを利用する方法に驚くほど似ている。
こうした予め備わったデジタルアナログ性を使えば、お望みなら、DNAを私たちが既に開発したプログラミング様式に自然に当てはめることができる。しかしそれが唯一の方法ではない。
John Reif教授と大学院生Tianqi Songが率いる、デューク大学のコンピュータ科学者たちは、DNAがスイッチや論理ゲートで構成されるコンピューターを模倣することなく、数学的関数を実行することができることを示した。
DNA鎖はもちろん、二重に構成されていて、対応する塩基 – アラニンとチミン、グアニンとシトシン – が互いに自然に結合している。そして、マッチング塩基対が多いほど、より良いフィットが得られる。これにより、お互いに予測可能な方法で組み合わさる様々なDNA鎖を作ることが可能になる ‐ こちらの方があちらよりよくフィットするので置き換わり、3番目はこれと置き換わるが他のものとは置き換わらない、など。
こうした部品を十分に手に入れれば、それらがどのように組み合わさるかのロジックの構築を始めることができる。これがチームのやったことだ。入力鎖を制御して最終濃度を観測することによって、加算、減算、そして乗算を行うプロセスを構築した ‐ より複雑な演算もこれから追加される。
さて、これはデジタルコンピューティングを置き換えるものではないし、DNAを利用したデジタルコンピューティングを置き換えるものでもない。単純な計算にも何時間もかかるし、ロジックの調整は容易ではない。
「現代のPCや従来の計算デバイスと競うことは、考えることすらできません」と、デューク大学のReif教授はニュースリリースの中で注意を促した。しかし、彼は続けて「とはいえ非常に単純なDNAコンピューティングだとしても、医学や科学へ巨大な影響を与える可能性があります」と語った。
演算は遅いかもしれないが、これらの操作は、簡単に複製されたほんの一握りの鎖を使って行われている。一方デジタルコンピューターの模倣にははるかに多くの分子機構が必要であり ‐ また非常に脆弱なものである。鎖が通常の遺伝的プロセスによって妨害されないように、注意深くコード化することができるので、アナログDNAコンピューティングは体内の自然環境内で行うことができる。
血流中を泳ぐDNA計算機が恒常的に薬剤のレベルを計算しつつ、あるレベルを下回った際にタンパク質シグナルを活性化することができる。また特定の(たとえば癌細胞)を検出するために作られた特別な分子に結合された鎖が、医師に警告を発したり、自分の体の免疫反応にトリガーをだしたりするプロセスを始めることもできる。
国立科学財団(NSF)のファンドを受けたこの研究は、Synthetic Biologyジャーナルに掲載されている。
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(翻訳:Sako)