Facebookの特許条項のリスクを嫌い、WordPressがReactライブラリの利用を止めることを発表

人気のウェブパブリッシングソフトウェアWordPressの共同創業者Matt Mullenwegは、この先開発コミュニティはFacebookのReact JavaScriptライブラリの利用を中止する方向へ進むと発表した。Facebookが発表したオープンソースライセンス内の条項を懸念してのことである。

9月14日(米国時間)に投稿されたブログ記事で、Mullenwegはその経緯を説明している。彼は公式にReactをWordPressに適用することを望んでいたし、彼が創業したWordPress.comの運用会社Automaticは、WordPress.comのインターフェイスを書き直したCalypsoに、既に数年前からReactを利用していた。そしてWordPressコミュニティもGutenbergコアプロジェクトにReactを使いはじめていたところだったのだ。

しかし彼は、Facebookの特許条項を見てその気持を変えた。このライセンスは最近、Apacheソフトウェア財団(ASF)によって禁止ライセンスリストに加えられた。

現在、React特許条項が含まれているASFの「Category X」リストには次のように書かれている:

FacebookのBSD+Patentsライセンスには、ソフトウェアの下流の消費者に対してライセンサーをライセンシーよりも有利な立場として扱うPATENTSファイルが含まれている。このためユニバーサルドナーであるための、Apacheの法的ポリシーに違反している。FacebookのBSD+Patentsライセンスの条項は、ALv2の条項のサブセットではないため、ALv2としてサブライセンスすることはできない。

先月Facebookは、このASFの決定に反応してブログ記事を書いた。そこでFacebookは同社がパテント条項の背後にある「理由を上手く説明できていなかった」ことを認めた。その上で、これはFacebookのビジネスが「 益のないパテント訴訟のターゲットになった」ために、必要な措置であると主張した。

私たちは、ソフトウェアを3条項BSDライセンスでリリースする際に、明確な特許許諾を加えることを決定した。これはBSD+Patentsライセンスとして知られるようになっている。この特許許諾では、もしあなたがたがこのライセンスでリリースされたソフトウェアを使用している際に、私たちを特許侵害で訴訟した場合には、その特許許諾を失うことを謳っている。このライセンスが広く採用されれば、採用する者たちにとって益のない訴訟を減らすことが可能になると信じている。そしてこの可能性を皆と協力して探究することを望んでいる。

当社は特許を含むサードパーティのIPを尊重し、他の人びとが私たちのIPを尊重することも期待している。BSD+Patentsライセンスは、私たちのチームにオープンソースに対する有意義な貢献をする余地を与え、軽薄な訴訟との戦いに費やす時間を削減することを意図したものである。

それでもなお、Mullenwegは彼の懸念は払拭されていないと述べた。そして彼は、良心にかけて、広範囲に使われているオープンソースのWordPressソフトウェアのユーザーたちに、特許条項とそれに伴う法的リスクを継承することを要求することはできないと書いている。よって彼はReactを捨てることにした。

「Facebookの条項は、企業が取る他の多くのアプローチよりもはるかに明瞭であると思いますし、Facebookはオープンソースの貢献者としても優れていると考えています。しかし、私たちは取り組むべき多くの課題を抱えていますし、Facebookの特許条項が妥当であるということを世界に向けて説得することは、私たちの役割ではないのです。それは彼らの仕事です」と彼は書いている。

彼は、この決定は、Gutenbergにとって少なくとも数週間の遅れを招くだろうと述べた。別のライブラリを使って書き直すために、そのリリースは来年に延びるだろうということだ。

Calypsoの書き直しに関しては、「これはもっと長くかかるでしょう」と述べ、以下のように付け加えた。「Automattic自身はまだ特許条項に問題を抱えてはいませんが、コアとの長期的な一貫性は、Automatticのビジネスに対して、書き直しによる短期的な負担以上の価値があります。WordPressコアのアップデートは全てのウェブサイトの4分の1以上に影響を与えます、この全てに特許条項を継承させることは私が望むものではありません」。

私たちはFacebookにコメントを求めた。何らかの回答が得られた場合はこの記事を更新する。

特許条項に伴うリスクと考えられているものは、もしReactのユーザーが、Facebookの特許を侵害したり、特許侵害訴訟を起こした場合Facebookがどのように特許ライセンスを取り消すかを規定するものだ。

したがって、企業、特に特許ポートフォリオが大きい企業は、FacebookのReactフレームワークを組み込んだオープンソースソフトウェアを使用しているかどうかに懸念を抱くことだろう。たとえAutomatic自身は良いと考えていたとしても。

この特許条項に関する最も激烈な批判者の中には、Reactを「オープンソースコミュニティに投入された『トロイの木馬』だ」と呼ぶ者もいる。

ASFの動きを受けて書かれたHacker Newsでは、開発者のKevinfloがその懸念を以下のようにまとめている「たとえ私たちが彼らの行動を最も好意的な眼で眺めたとしても、そして仮にこの条項が誰かが主張するように張り子の虎であったとしても、それは関係ないことです。これはオープンソースのやり方ではありません。もしプロジェクトのライセンスが放射性物質なら、何年も議論する必要はありません。特に自分のような素晴らしいツールを使いたいだけの個人開発者たちは。私たちはただそれを使えるようになっているべきです。なぜならそれはオープンでああって、それがオープンの意味することだからです。これはクローズドのものよりずっと悪いものです。オープンだと偽ったクローズドなのです」。

Florenzano(kevinflo)は、Reactから離れるというこの決定を祝福している…

これがどれほど大きな意味をもつかは強調しきれません、特許条項のために@automattic@reactjsから離れることにしました https://t.co/QNbpGLUue5

Mullenwegは、Reactに代わるライブラリをまだ決定していないが、その決定は「主に」技術的判断に基いて下されるだろう、と付け加えた。

「私たちは、Reactの利点の大部分をもつものを探しますが、多くの人びとを混乱させ、脅威となる特許条項の手荷物は必要としていません」と彼は述べた。そして「これまでこの件に関して、時間を割いて意見を述べてくれた人たちに感謝します。私たちはいつでも耳を傾けています」と付け加えた。

彼のブログ記事に対するコメントは、大部分がその動きを支持している。あるコメンテーターはそれを「厳しいが重要な決定」と呼び、他の人たちは「賢明」で「良い」決定だと呼んでいる。

とはいえ過剰反応に対して警告を書き込むものもいる「過度に反応するのはやめましょう。ここ5、6年の間、WPの生態系には十分な混乱と混沌が見られてきました。Facebookのビジネス規模と範囲はこの条項を恐ろしいものにしてしまいます。なので彼らは最終的には、それをあきらめなければならないでしょうから」。

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(翻訳:Sako)

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TechCrunch Japan

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