GoogleがGmailとInboxを分けた理由

編集部注: Marat RyndinはUX・ビジュアルデザイー、ライター、およびアプリ/IT/サッカー/音楽の中毒者。かつてGoogleおよび様々なスタートアップで働き、エベレストのベースキャンプに登ったことがある。

数年前、GoogleのGmailチームがスタンドアロンのメールアプリ ― 最近公開されたInbox ― の開発を始める決定を下したちょうどその頃、大きくデザイン変更されたGmailが公開された。それはあらゆるGoogle製品と同じく、すべての新機能が、そしてこのデザイン変更に限って、多くの高度な機能の削除が、「ドッグフード」としてまずGoogle社員によって試された。

Gmailチームがフィードバックを待つのに時間はかからなかった。そしてそれは、芳しいものではなかった。変更は騒動を引き起こし、Gmail製品・デザインチームの下した判断はことごとく否定された。「君たちはGmailを完全に破壊した!」「なんだこのクレイジーなデザイン変更は?」などの言葉が、Googleのレストランから社内のオンラインフォーラムまで、至るところで発せられた。

Googleエンジニアたちは、エンジニアに典型的な強迫神経症的やり方で、社内のGoogle+やフォーラムに長文記事を掲載し、サポートされなくなったユースケースを、どんなに細かいものであっても残らず列挙した。エンジニアが毎日使っている機能を奪うほど恐ろしいことはない。さらに、文字をアイコンに変え行間を広げる決定が下されると、Googleエンジニアたちの怒りは頂点に達し、Gmailチームのオフィスを、よろいかぶとを身にまとい、たいまつと剣を持って襲撃する準備が整えられた(その手の代物を所有しているGoogleエンジニアが多いことに驚くだろう)。

これに対し、Gmailデザインチームのトップは、「あなた方は典型的ユーザーではない」と題するプレゼンを行った。この大虐殺を生で見る幸運に恵まれなかった人は、社内Google+でアーカイブ版を見ることができる。

プレゼンテーションは、デザイン・製品チームの下したあらゆる決断の理由を細部にわたって説明し、Gmailユーザーの圧倒的多数が決して使わなかった高度な機能を削除する決定を支持する、大量のユーザビリティー調査結果を示した。これらの機能は、ユーザーインターフェースを不必要に複雑化するものであり、殆どのユーザーはシンプルなメールクライアントを欲しがっている、と彼は指摘した。

あらゆる決定は、典型的Gmailユーザーは1日に5通ほどしかメールを受け取らず、その殆どがプロモーション的な内容で返信を必要としない、という大前提に基づいていた。対照的に、典型的Google社員は1日平均450通のメールを受け取り、その殆どが少なくとも読む必要のある重要なものであり、その大部分が返信を必要としていた。

Gmailチームの決定を支持する大量の具体的データが盛り込まれていたにもかかわらず、彼らのプレゼンテーションが批判を鎮めることはなく、むしろ火に油を注ぐ結果となった。タイトルも「意図的に怒りをかき立てている」と非難され、多くの技術屋と同じく、日々のメールの山を処理するためにあらゆる高度な機能を使っているGoogle社員たちの怒りをさらに募らせた。

最終的に、妥協が成立した。Gmailは、膨大なユーザーベース(月間アクティブユーザー数億人)向けに合理化、最適化されさままとし、一部の高度な機能は、本当に必要なユーザーのために、(十分隠された形で)残されることになった。

それと平行して、Gmailチームは、日々大量に流れ込むメールを処理しなければならない上級ユーザーに特化してデザインされたスタンドアロンアプリを一から開発し始めた。こうしてInboxは生まれた。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


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TechCrunch Japan

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