Googleはウェブのプライバシーとフィンガープリントの新たな対策を提案

Google(グーグル)は米国時間8月22日、ユーザーをウェブ上で追跡することを難しくする、新しい長期的な取り組み発表した。完全に実現されれば、オンラインのマーケティングや広告業者にとって打撃となる。この新しい提案は、ChromeにおけるCookie(クッキー)の取り扱い方法を変更し、ユーザーがCookieによる追跡をブロックしやすくするという計画に続くもの。

今回の新たなオープンスタンダードの提案は、Chromeの抜け穴をふさぐ方法を考察し、デジタル広告エコシステムが、そうした対策を回避できないようにすること狙っている。そして近いうちに、ユーザーの匿名性を確保しつつ、どれだけの情報を共有することができるのか、ブラウザーで調整できるようなオプションが実装されることにつながる可能性もある。

この数カ月の間にGoogleは、ユーザーのプライバシーを保護しながら、ある程度のパーソナライズを可能にする「プライバシー・サンドボックス」(Privacy Sandbox)について話題にし始めた。

「私たちはセキュリティに関して非常に高い評価を受けています。(中略)私たちは、ウェブというものを前進させることによって、そうした評価を獲得してきたと信じています」と、Chromeのセキュリティとプライバシーを担当するGoogleのエンジニアリングディレクターを務めるJustin Schuh(ジャスティン・シュー)氏は語った。「私たちは多くの利益を提供し、多くの異なる分野に取り組んでいます。現在、私たち成しが遂げようとしているのは、基本的にプライバシーについても同じことを達成することです。ウェブ上でプライバシーがどのように守られるべきか、ブラウザーとウェブが標準的に、もっとプライバシーを重視したものになるか、といったことについても、同じように大きく、大胆なビジョンを持てるか、ということです。

Googleが今、技術面で提案しているのは、以下のようなもの。ユーザーのマシンが、そのユーザーのものであると特定することを可能にするフィンガープリントを防ぐために、プライバシー・バジェット(予算)というアイディアを導入する。これにより、ブラウザーは、ウェブサイトがAPIを利用して、ユーザーを大まかなグループに分類するのに必要なだけの情報を取得することを許可する。ただし、ユーザーの匿名性が侵される領域には踏み込ませない。サイトがこのバジェットを使い果たすと、ブラウザーはそれ以上のAPI呼び出しには応答しなくなるという仕組みだ。

一部のブラウザーには、すでに非常に制限のきついCookieブロック機能が実装されている。Googleは、これは意図しない結果を招くとして異議を唱えている。その代わり、合意に基づく一連の標準が必要であると主張している。「他のほとんどのブラウザーベンダーは、オープンウェブに真剣に取り組んでいると思います」と、シュー氏は言う。そしてGoogleは、これをオープンな標準にして、ウェブのエコシステムの中の他のメンバーと協力して開発していきたいのだと強調する。

「意図的なものではないとしても、誤った情報が溢れているのは確かです。たとえば、サイトがどうやって収益化しているのかとか、サイト運営者が実際にどこから資金を得ているのか、といったことに関する誤ったデータがあります」と、シュー氏は主張する。実際Googleは、ユーザーがCookieをブロックすると、サイト運営者は平均で広告収入の52%を失うという調査結果を発表している。その数字は、ニュースサイトではもっと大きいものとなる。

さらにGoogleは、すべてのサードパーティのCookieをブロックすることは、現実的な解決策ではないという。なぜなら、デベロッパーはそれに対抗し、フィンガープリントを使って、ユーザーのマシンを識別する方法を編みだすに違いないからだ。自分の意思でCookieの利用をやめて、ブラウザーから削除することはできても、フィンガープリントを自ら防ぐことはできない。ユーザーのマシンには、そのためのデータは何も保存されていないからだ。ただし、定期的にマシンの構成を変更したり、インストールするフォントの種類を変更したり、その他ユーザーのマシンであることを特定できるような特徴を常に変化させていれば、フィンガープリントはやりにくくなる。

Googleが考えているのは、基本的に、広告エコシステムのインセンティブ構造を変えること。ブラウザーのCookieとフィンガープリントの制限を迂回しようとするのではなく、プライバシー・バジェットを、Federated Learning(連合学習)やDifferential Privacy(差分プライバシー)といった業界の取り組みと組み合わせることで、ユーザーのプライバシーを尊重しながら、サイト運営者にも損害を与えず、必要なツールを広告業者に提供することを目指している。そのような転換は簡単ではなく、何年もかかるであろうことを、Googleも率直に認めている。

「これは数年におよぶ旅になるでしょう」とシュー氏は言う。「私が言えるのは、これによってインセンティブ構造を変えることができるという非常に強い自信があるということです。そして、ユーザーのプライバシーを保護するために、非常に強力な手段を講じることに尽力しており、ユーザーのプライバシーの悪用と戦うことに全力を注いでいます。(中略)しかし、それを実現するためには、プラットフォームを前進させ、プラットフォームが本質的にはるかに堅牢なプライバシー保護機能を提供できるようにする必要があります」。

現在、ほとんどの大手IT企業は、ユーザーがオンラインでのプライバシーを維持できるよう支援する責任があることを理解している。しかし同時に、パーソナライズされた広告を実現するには、対象のユーザーについてできるだけ多くのことを知る必要がある。Google自身も、その収入の大部分を、さまざまな広告サービスから得ているのだ。こうした取り組みは、Googleの社内に、何らかの緊張をもたらすのではないかと想像できる。しかしシュー氏によれば、Googleの広告部門とChromeチームは、お互いに独立しているのだという。「結局のところ、私たちはウェブブラウザーを作っているのであり、ユーザーの支持基盤を気にかけています。何かを決定する際には、ユーザーのメリットが最大となるようにするつもりです。そこで、すべてがうまく収まるように優先順位をつける必要があります」と、シュー氏は述べた。彼はまた、広告部門も、ユーザーから見た透明性と、ユーザーによるコントロールについて、非常に強い責任感を持っていることを明かした。もしユーザーが広告のエコシステムを信頼してくれなければ、それはそれで問題だというのだ。

当面の間は、ユーザーが実際に試してみたり、部分的にChromeブラウザーに組み込まれたりするものはなさそうだ。今のところ、これは単なる提案であり、Chromeチーム側が検討を始めるための試みに過ぎない。ただし近い将来、同社がこれらのアイディアのいくつかを実験し始めることは期待できるだろう。

広告業者とサイトに対して提案されたCookieの使用方法の変更が、すぐに実現可能なものではないのと同様に、これはGoogleににとっても、かなり長期的なプロジェクトとなりそうだ。Googleは、より抜本的な対策を講じるべきだと考えるユーザーもいるだろう。その技術力を使って、広告エコシステムがユーザーを追跡することを止めさせることができるはずだ、という考えだ。Cookieがだめならフィンガープリント、それがだめなら、また別の何かを、広告業界の技術者は生み出してくる。ただ、もしGoogleの概算が正しければ、強制的な措置を取れば、サイト運営者を窮地に陥れることになる。収益が50%も減ることに対処できるサイトは、ほとんどないはずだ。Googleが単独でこれを実行に移すことを望まない理由はわかる。それでも同社は、こうした変更をもっと積極的に推進できるだけの市場ポジションを持っているのも確かだろう。

一方Apple(アップル)は、広告ビジネスに対して何の既得権も持っていない。そしてSafariの最新リリースで、これに関してすでにドラスティックな動きを見せている。同ブラウザーは、フィンガープリントを含め、何通りもの追跡技術をブロックするようになっている。広告業者に遠慮する必要は何もないのだ。これが、サイト運営者に及ぼす影響は、GoogleのCookieに関する調査結果を見ればわかる。

その他のChromeの競合となるブラウザーを見ても、たとえばFirefoxはフィンガープリント防止技術の追加を開始している。新興ブラウザーのBraveも、すべてのサードパーティのコンテンツに対してフィンガープリント保護機能を組み込んでいる。一方、Microsoft(マイクロソフト)の新しいEdgeは、追跡防止については、今のところCookieの扱いに注力している。

Chromeが中道路線を見つけようとすることは、今やユーザーがこぞってプライバシーを保護してくれるブラウザーを選ぼうとしている中、後手に回るリスクを冒すことになる。特にこのところ、競合ブラウザーが再び勢いを増しつつある中ではなおさらだ。

画像クレジット:SERGII IAREMENKO/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Getty Images

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

投稿者:

TechCrunch Japan

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