Google関連会社のSidewalk Labsがトロントのスマートシティプロジェクトで前進

Googleの親会社であるAlphabet(アルファベット)の子会社のSidewalk Labs(サイドウォークラボ)が、トロントにあるウォーターフロントの1区画を網羅するスマートシティ開発の壮大なビジョンを提案してから2年間、プロジェクトは論争と批判に悩まされてきた。

世界で最も革新的なテクノロジー企業の子会社が、トロントのキーサイド地区の12エーカー(約4万9000平方m)でプロジェクトを進めている。持続可能性に配慮した設計と都市計画に組み込むテクノロジーの最先端の考え方を実証する場にするという。その同じテクノロジー企業が、検索およびマッピングテクノロジーによって、我々の生活をデジタル面(と物理的な面)からほぼ完全に掌握できる一企業によるパノプティコン(英国の哲学者ベンサムが考案した、中央の塔から全体を一望できる円形刑務所になぞらえている)の開発に重要な役割を果たしている。

トロントの市民が生活する人工的な環境に同社が何の制約もなくアクセスできてしまうのは行きすぎではないかと、トロントだけでなく世界中のプライバシー擁護団体の多くが考えている。

抗議の声があまりに大きくなってきたため、プロジェクトは困難な状況に陥っているようにもみえた。Sidewalk Labsによれば、ひるがえって同社の存在意義が問われかねない事態になりそうだった。トロントでの仕事は早くも同社の輝かしい成果になるはずだったからだ。テクノロジーを人工的な環境に統合することで住民に利益をもたらすことが実証できればば、それは大きな成果だ。

だがWaterfront Toronto(プロジェクトを監督する規制機関)がSidewalk Labsと契約を締結し、プロジェクトは前進することになった。契約によって同社の開発範囲を制限するとともに、トロントの国会議事堂に隣接する12エーカーの区画の建設で同社が各監督機関としっかり連携するよう担保した。

「Waterfront Torontoの理事会による本日の決定に勇気づけられた。Waterfront Torontoと重要な問題について歩調をあわせるに至ったことをうれしく思う。Waterfront Torontoおよび政府のパートナーとして革新的で誰も排除しない地域社会を築きたい」とSidewalk LabsのCEOであるDan Doctoroff(ダン・ドクトロフ)氏は声明で述べた。

同社は前進させるために重要な点で譲歩した。同社が6月に提出した当初計画では、入札対象の12エーカーを超えて開発範囲を拡大する用意があった。 土地のリードデベロッパーになることも狙っていた。ここに至ってSidewalk LabsはWaterfront Torontoのカウンターオファーに同意し、開発は市が当初「ベータサイト」に指定していた12エーカーに制限されることになった。

さらに同社がWaterfront Torontoに歩み寄り、Waterfront Torontoがデベロッパーを選ぶ公的調達プロセスを主導することにも同意した。最終的にはSidewalk Labsがインフラの設計と建設を主導することもなくなり、今後はWaterfront Torontoが進めることになった。

「トロントで2年間、2万1000人以上の住民と協力して計画を立ててきた。我々は次回の公開協議やその先の評価プロセス、また世界で最も革新的な地域社会の建設計画を続けられることを楽しみにしている。我々はここトロントで誰も排除しない地域社会を形にすべく取り組んでいる。通勤時間を短縮し、住宅をより手に入れやすい価格にし、新しい雇用を創出し、地球がより健康に暮らせる場所になるよう新しい基準を作ることができると考えている」。

Sidewalk Labsとトロント市の合意に含まれておらず出口が見えない問題の1つが、同社が集めるデータだ。同社は意図をもって新たなコミュニティを作る。その住民と訪問者のデータを同社は間違いなく収集することになるが、そのデータがどう扱われるのかについて合意できていない。

データのプライバシーがプロジェクトの最大の懸念の1つだった。同社はある時点で、キーサイドでのデータ収集を分析、承認する独立した諮問機関を置くことを提案した。だが同社と諮問機関のアドバイザーらが対立し、専門家の一人として関与していたAnn Cavoukian(アン・カブキアン)博士が仕事から離れることになった。カブキアン氏はどんな組織であれデータは収集する前に匿名化すべきだと考えていたが、Sidewalk Labsは第三者のためにそのような約束をする意思はなかった。

データ収集に懸念があっても、都市計画の実験にはメリットがある。テクノロジーの力で建設、発電、エネルギー効率、交通管理、電気通信などの効率性を改善すれば、他の開発でも使えるロードマップが作れるかもしれない。それはいいことだが、そういった進歩は個人のプライバシーをさらに損なってまで達成すべきものではない。

Sidewalk Labsがトロントにその針をしっかりと通すことができれば、テクノロジーで先を行くコミュニティのキルトを世界中で織り成すチャンスがいよいよ高まることになる。

画像クレジット:Sidewalk Labs

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。