一時はスマートフォンのトップ・ブランドの一角を占めたHTCの企業価値が事実上、ゼロになった。今年に入って株価は60%も下落していたが、週明けにさらに9.8%下げ、ついに現在の時価総額がHTCの手持ちキャッシュの額より低くなった。株式市場はキャッシュを除くHTCの工場、ブランドその他一切の資産の価値をゼロとみなしているわけだ。
さらに悪いことに、HTCのOne Maxをアンロックするための指紋認証データが暗号化されず、だれでも読める状態で格納されていることが発見された。セキュリティー上、最悪の違反である。ハッカーは簡単に /data/dbgraw.bmpファイルを読みだして認証データを得ることができる。
一言でいって、HTCはまずいことになっている。
われわれのJon Russell記者も書いているとおり、HTCも対策を取らなかったわけではない。しかしHTCやSamsungは低価格モデルで新興中国勢との競争にさらされており、フラグシップモデルではiPhoneという強力きわまりないライバルが存在する。
2006年にHTCが携帯電話を製造し始めたとき、市場はいくつかのセグメントにはっきり分かれていた。ひとつはキャリヤの援助で事実上無料で提供されるベーシック・モデルで、搭載されたJavaプログラムができることといえば電話帳の管理くらいだった。中位のモデルはHTC WizardやSamsung Blackjackなどで、無数の新製品が毎月発表されていた。最上位にはビジネスパーソンの向けのBlackberrykeがあり、やがてiPhoneが登場し、GalaxyのようなAndroidのフラグシップモデルがその後を追った。携帯電話入門者向けの安価でベーシック製品から、マニア向けの高機能上位モデルまで、価格による住み分けができていた。
しかし現在の市場は「iPhoneとそれ以外」に色分けされている。スマートフォン市場は全体として飽和点に近づいている。製品アップデートのサイクルも長くなっている。中間価格帯の市場が事実上消滅し、ユーザーは高価なモデルを長く使う層と、恐ろしく安い機種を買う層に二極化した。
今週、HTCはワンツーパンチを食ってしまった。株価の続落と製品の脆弱性の発見はさらなる株価の下落を招き、フランド・イメージも低下するだろう。 HTCはMotorolaを見習って真っ逆さまに転落するのをなんとか食い止めることができるかもしれない。しかし市場には無数のスマートフォンが溢れており、ビジネス環境は非常に厳しい。
[原文へ]
(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)