IBMは米国時間3月29日、量子コンピュータのプログラミングに関する初の開発者認定を開始すると発表した。
量子コンピュータはまだ初期段階にあるとはいえ、業界の識者の多くは、今こそ基本的なコンセプトを学ぶべきだというだろう。量子コンピュータのハードウェア面では、すぐに直感的に理解できるものはほとんどないが、実際に使われているソフトウェアツールは、現在業界で活躍している人々が開発したものがほとんどであり、ほぼすべての開発者にとって身近に感じられるはずだ。
正式名称「IBM Quantum Developer Certification(IBM量子開発者認定)」は、当然ながら、IBM自身のソフトウェアツール、特に量子コンピュータ用のSDK(ソフトウェア開発キット)である「Qiskit(キスキット)」に焦点を当てている。Qiskitはすでに60万回以上もインストールされており、非常に人気が高いことが証明されている。2020年、IBM Quantum(クァンタム)とQiskitのチームが量子サマースクールを開催した際には、約5000人の開発者が参加したという。
しかし、開発者はQiskitの基本(量子回路の定義と実行など)を知るだけでなく、量子コンピューティング自体の基本も学ぶ必要がある。ブロッホ球、パウリ行列、ベル状態などを理解すれば、Pearson VUE(ピアソンVUE)プラットフォームで実施される予定の認定試験を受けるのに十分な準備が整うだろう。
IBMでQuantum Education and Open Science(量子教育とオープンサイエンス)のグローバルリードを務めるAbe Asfaw(エイブ・アスファー)氏は、これが計画されている一連の量子開発者認証で最初の段階にすぎないことを明かした。
「私たちが構築しているのは、複数の階層からなる開発者認証です」と、同氏は筆者に語った。「今回発表したものはその最初の段階で、開発者に量子回路の扱い方を案内するものです。Qiskitを使ってどのように量子回路を構築し、それをどのように量子コンピュータ上で実行するのか。そして、量子コンピュータ上で実行した後、その結果をどのように見て、どのように解釈するのか。それが、私たちが開発している今後の一連の認証の段階となり、これらの認証は、最適化、化学、金融などの分野で検討されているユースケースに与えられます。その人が量子回路を扱えると示すことができれば、これらの仕事をすべて開発者のワークフローに統合することが可能になります」。
量子回路を構築するためのスキルや直感を身につけるには時間がかかることもあり、IBMはかなり前から開発者に向けた量子コンピューティングについての教育に力を入れてきたと、アスファー氏は強調した。また、オープンソースのQiskit SDKには、開発者が回路レベル(古典的なコンピューティングの世界でC言語やアセンブリで記述するのに近い)とアプリケーションレベル(こちらでは多くのことが抽象化されている)の両方において作業するために必要な多くのツールが統合されていることも、アスファー氏は言及した。
「これは、現在クラウドやPythonで開発している人が、これらのツールを実行することで、容易に量子コンピューティングをワークフローに組み込めるようにするためのものです」と、アスファー氏はいう。「正直なところ、最も難しいのは、量子コンピューティングが今日、現実のものであり、量子コンピュータを使って仕事ができるという安心感を与えることだと思います。それはJupyter Notebook(ジュピターノートブック)を開いてPythonでコードを書くのと同じくらい簡単なことなのです」。
アスファー氏は、IBMがすでに量子コンピューティングに興味を持つ(パートナー企業の)開発者のスキルアップを支援していることに言及した。だが、これまでは非常に場当たり的なプロセスに過ぎなかった。今回、新たに導入される認定プログラムによって、開発者は自分のスキルを正式に証明することができ、自分のワークフローの中で量子コンピューティングを活用できる立場にあると示すことが可能になる。
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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:IBM、量子コンピュータ
画像クレジット:IBM Research / Flickr under a CC BY-ND 2.0 license.
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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hirokazu Kusakabe)