IonQ、2023年にデータセンター向けラックマウント型量子コンピューターを発売予定

量子コンピューティングのスタートアップIonQ(イオンキュー)は12月9日、今後数年間のロードマップを発表した。9月のIBM(アイビーエム)からの同様の動きに続くものだが、その内容は控えめに言っても、かなり意欲的なものだ。

今年初めのTechCrunch Disruptイベントで、イオンキューのCEO兼社長であるPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏は、わずか5年後にはデスクトップ型の量子コンピューターが手に入ることを示唆した。これは、全く異なる方式の量子テクノロジーを使用していることも多い同社の競合企業からは聞ける話ではないだろう。しかし、イオンキューは、2023年にはデータセンター向けにモジュラー型のラックマウント量子コンピューターを販売できるようになり、2025年までに同社のシステムは、さまざまなユースケースで量子の幅広い優位性を実現できるほど強力なものになるだろうと言う。

今日の発表に先立って行われたインタビューで、チャップマン氏は、同社が2021年に向けて取り組んでいるハードウェアのプロトタイプを見せてくれたが、それはワークベンチに収まるものだった。実際の量子チップの大きさは、現在50セント硬貨の大きさだ。同社は、システムを動作させるすべての光学系を統合した1つのチップに、実質上、同社のコアテクノロジーを実装しようと試みている。

画像クレジット:イオンキュー

 

「それが目標だ」と同氏はチップについて語る。「2023年になればすぐに、別の方法でスケールアップすることができる。そして、台湾の誰かに量産を頼んで1万個作ってもらえばいい。製造でもスケールアップが可能になる。当社が開発しているハードウェアの中にあるもので量子的なものは何もない」と同氏は述べたが、イオンキューの共同設立者でチーフサイエンティストのChris Monroe(クリス・モンロー)氏はすぐにそれに割って入り、「原子を除いてはそうだ」と付け加えた。

これは重要なポイントだ。同社のマシンのコアテクノロジーとしてイオントラップ型量子コンピューティングに賭けたおかげで、イオンキューは、アイビーエムなどがマシンを機能させるために必要とする、低温度に悩まされる必要がないからだ。一部の懐疑論者は、イオンキューのテクノロジーはスケールアップが難しいと主張しているが、チャップマン氏とモンロー氏はそれをあっさりと否定している。事実、イオンキューの新しいロードマップでは、2028年までに数千のアルゴリズム量子ビット(algorithmic qubit、誤り訂正処理のために、10倍から20倍の物理量子ビットで構成されるイオンキュー独自の指標)を持つシステムを目指している。

「2024年の初めに約40量子ビット(アルゴリズム量子ビット)に達した時点で、おそらく機械学習において量子の優位性が見られるようになるだろう」とチャップマン氏は説明する。「ある程度広範な分野で量子の優位性が得られるのは、大体72量子ビットに到達した時ではないかというのが共通認識だろう。つまり、2025年だ。2027年に入れば、数百量子ビットに達するだろう。もしかしたら[2028]年には数千量子ビットに達するかもしれない。そして今や、完全なフォールト・トレランスに乗り出しつつある」。

イオンキューは量子アルゴリズムの実行に使用できる量子ビットをアルゴリズム量子ビットと呼んでいるが、その増加数は、徐々に大きくなっていくだろう。業界の人間は「論理量子ビット」について話す傾向があるが、イオンキューの定義は少し異なる。

異なる量子システムを比較する方法について話していると、チャップマン氏は「忠実度は十分ではない」と指摘する。搭載するのが72量子ビットであろうと7200万量子ビットであろうと、そのうちの3量子ビットしか使えないのであれば意味がない、と同氏は言う。「『1000量子ビットに達する予定』と書かれたロードマップを見ても、『それで?』となるだけだ。当社であれば、個々の原子を使っているので、ガスの小瓶を見せて、『見てくれ、1兆量子ビットある、すぐに計算に取り掛かれるぞ!』と言うことができる。しかし、それではあまり実用的ではない。そこで、当社のロードマップでは使用できる量子ビットについて説明しようと試みたわけだ」。

同氏はまた、アイビーエムや量子エコシステムに参加する他の企業が支持している量子ボリュームは、あるポイントでの数値が高くなりすぎるため、特に有用ではないと主張する。しかしイオンキューは、基本的にはまだ量子ボリュームを使用しているものの、アルゴリズム量子ビットを特定のシステムの量子ボリュームの二進対数として定義している。

イオンキューが32アルゴリズム量子ビット(現在のシステムは22)を達成できれば、現在のシステムでの400万量子ボリュームに代わり、42億量子ボリュームを達成することが可能になるという

モンロー氏が言及したように、同社のアルゴリズム量子ビットの定義には、可変誤り訂正も考慮されている。誤り訂正は量子コンピューティングの主要な研究分野であることに変わりはないが、当面はゲートの忠実度を高く保つことができるため、まだ心配する必要はないとイオンキューは主張する。そして、既に初めてのフォールトトレラントな誤り訂正処理を13対1のオーバーヘッドで実証している。

「当社の方式のエラー率は、もともと非常に低いため、現時点の22アルゴリズム量子ビットであれば誤り訂正を行う必要はない。しかし、[99.99%]の忠実度を得るために、多少の誤り訂正を含めるつもりだ。それはいつでもできる。簡単な調整のようなものだ。どの程度の誤り訂正が必要かというと、オールオア・ナッシングではない」とモンロー氏は説明する。

イオンキューは、「他の方式では、ゲートの忠実度や量子ビットの接続性が低いため、1つの量子ビットの誤り訂正を行うには、1000、1万、あるいは10億量子ビットが必要になるかもしれない」との考えを率直に話す。

イオンキューは同日、これらすべてを実践し、システムの比較が容易になるとするAlgorithmic Qubit Calculator(アルゴリズム量子ビット計算機)を公開した。

近い将来、イオンキューは、誤り訂正のために16対1のオーバーヘッドを使用する予定だ。つまり、1つの高忠実度のアルゴリズム量子ビットを確保するために16の物理量子ビットを使用するということだ。そして、約1000論理量子ビットに達する時には、32対1のオーバーヘッドを使用する予定だ。「量子ビットを追加すると、忠実度を上げる必要がある」とチャップマン氏は説明する。つまりイオンキューは、2028年の1000量子ビットマシンのためには、3万2000物理量子ビットを制御する必要があるということだ。

イオンキューは、自社方式のスケールアップに技術的なブレークスルーは必要ないと長い間公言してきた。実際、同社は、1つのチップに多くのテクノロジーを搭載することで、特別なことをしなくてもそのシステムは、より安定したものになると主張する(結局のところ、ノイズは量子ビットの大敵だ)。また、レーザービームを遠くまで飛ばす必要がなくなることも、安定する理由の1つだ。

チャップマン氏は、些細なことでもためらわず宣伝するが、同社は近日中に量子コンピューターの1台を小型飛行機で飛ばして、システムの安定性のデモンストレーションを計画しているとさえ述べている。しかし、注目に値するのは、イオンキューが短期間でシステムをスケールアップすることに、競合企業よりもはるかに強気であるということだ。モンロー氏も同様の認識だが、現時点では基本的な物理学の話だと主張する。

「特にソリッドステートプラットフォームでは、物理学の面で素晴らしい仕事をしている」とモンロー氏は言う。「毎年少しずつ進歩しているが、10年後のロードマップは、ソリッドステート(固体)量子ビットをベースにしたもので、物質科学のブレークスルーに依存している。達成は可能かもしれないが、確証はない。しかし、原子の物理は上手くまとめられているし、当社は工学的な進路に非常に自信を持っている。なぜなら、実績のあるプロトコルと実績のあるデバイスに基づいているからだ」。

「当社には製造の問題がない。100万個の量子ビットが欲しいって?問題ない。すぐにやってみせるさ」とチャップマン氏は冗談交じりに話した。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:IonQ 量子コンピュータ

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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