Infinity Ventures LLP(IVP)といえば、アーリーステージ以降の企業に対して数千万円から数億円の規模で資金を提供してきた独立系ベンチャーキャピタルだ。彼らが新たにスタートアップを対象にしたインキュベーションプログラム「TechTemple」を開始した。IVPでは2013年に同名のコワーキングスペースを中国・北京にも設立している。
課題になっていた創業期スタートアップとの接点
Infinity Ventures LLPは2009年より、ベンチャー投資を開始。また同時に、招待制イベントの「Infinity Ventures Summit(IVS)」や500人の学生が参加するワークショップなどを展開。「本業以外でもスタートアップのエコシステムができてきた」(Infinity Ventures LLP共同代表パートナーの小野裕史氏)状況だという。
だが一方で課題となってきたのが創業期のスタートアップとの接点作りだ。先日成果発表の場であるデモデイを開催したばかりのMOVIDA JAPANのほか、インキュベイトファンド、サムライインキュベート、Open Innovation Lab(Onlab)、最近ではフランス通信企業Orangeの日本拠点であるオレンジ・ジャパンなど、創業間もない起業家のインキュベーションを手がけるプレーヤーは増えている。その一方で「アーリーステージに大きな金額で投資をする」というイメージの強いIVPは、そういった創業期の起業家と接点を持ちにくかったのだという。
とは言え、IVPが投資をすべきステージに成長した頃には、バリュエーションや条件面での折り合いも難しい。IVS内のプレゼンイベント「Launch Pad」でスタートアップとの接点を持っていたが、それについても「今までは生かしきれていなかった」(小野氏)という。
先日ノボット創業者であり、米国でCHANOMAを立ち上げた小林清剛氏とも話をしたのだけれども、Y Combinatorなどでも同じような状況になっているそうで、デモデイを開催する時点ではすでに条件面で出資が難しくなケースも少なくないという。日米問わず、投資家がイケてる起業家を早期に取り合う(とは言い過ぎかも知れないが)状況は加熱しているということのようだ。
条件は「デモがあればOK」。ただし年間5社程度の少数精鋭
TechTemlpleでは、最低500万円からの創業資金のほか、オフィススペース(現在は東京・五反田にあるfreeeのオフィスの一部を提供している)や各種パートナーによる支援プログラムを1年間提供する。採択するのは年間5社程度の少数に設定。Launch Padの登壇に関しては、シード権(あくまで登壇前の最終審査へのシード権であり、すべてのプログラム採択者が登壇できるわけではないそうだ)も与える。大規模なデモデイなどは予定しないが、前述のとおりLaunch Padでの登壇や、IVPのファンド出資者などに向けて説明の場を用意するとのこと。
応募条件は、「最低限デモがあること」(小野氏)とのことで、法人登記の有無も含めて細かい条件は設定していない。また、ほかのプログラムと併せて参加してもよいという。ただし500万円からの投資を受け入れる必要がある。注力領域なども設定しないが、500万円という金額を考慮すると、ハードウェアベンチャーの採択は難しいかもしれない。
第1号の「門下生」は画像共有アプリ開発のEmakiに
採択までのフローはまず、TechTempleのウェブサイトにてエントリーした内容の書類審査から始まり、面談による1次審査とビジネスプランのレビューを経て最終審査となる。プログラムの採択企業は「門下生」呼ぶそうだが、その第1弾に選ばれたのは、写真共有アプリを提供するEmakiだ。
同社の手がける「Emaki」は、あらかじめアプリ上で友人とグループを作成していれば、写真を撮影するだけで当該グループにほぼリアルタイムで共有されるというアプリ。例えば、親しい友人からそれほどでもない知人までがいるFacebookでは、どんな写真でも気軽にアップロードできるわけではない。だが、一緒に旅行をしたメンバーには、旅行の写真はすべて共有したいと思うはずだ。Emakiはそれを実現してくれるアプリだ。同社は今後TechTempleにてサービスの開発を続けるとしている。