マーケティングプラットフォーム「b→dash」を提供するフロムスクラッチは5月16日、シリーズCラウンドで産業革新機構、楽天ベンチャーズ、既存株主などから合計で約32億円を調達したと発表した。
フロムスクラッチは2015年5月に約3億円を、続いて11月に約10億円を調達しており、同社の累計調達金額は約45億円となっている。
フロムスクラッチが手がける「b→dash」は、企業のマーケティングプロセス全体のデータを統合し、一気通貫で分析するSaaS型のマーケティングプラットフォーム。ウェブでの集客から顧客管理まで、マーケティングの「入口から出口」までを一元管理することができる。
データの取得はもちろん、取り込み、統合、加工、そしてデータの活用に至るまでのすべての機能をオール・イン・ワンで提供していることがb→dashの最大の特徴だ。これまでに、キリン、エイチ・アイ・エス、岡三オンライン証券などが同プラットフォームを導入している。
料金はプラットフォーム開発費用が約500万円〜、月額費用が60万円〜となっている。これは前回の取材時(開発費用が100万円〜、月額費用が50万円〜)から値上げされている。
月額費用が数万円のマーケティングツールも存在するなか強気の価格設定だとも言えるが、フロムスクラッチ代表の安部泰洋氏は「簡単に言ってしまえば、この値段設定でも受け入れられると考えたから。マーケティング活動をしっかりと行っている企業では、そのために様々なツールを使うと1年で3000万円ほどかかる場合が多い。データ統合基盤の構築なども含めると、さらに費用がかかる。一方のb→dashでは、ケースごとに異なるが年額1000万円ほどですべてを完結できることもある。データの取得から統合、活用までを1つで実現するソリューションとして考えれば、結果的に全体の費用を節約でき、十分に受け入れられる価格だ」と話す。
前回の10億円に引き続き、32億円という大型調達を完了したフロムスクラッチ。今回調達した資金は主にプラットフォームの追加開発に使うとしている。その具体的な内容として同社が挙げたのが、安部氏が「b→dashの本質的な強み」と話す”データ統合の強化”、そして”データ処理能力の強化”と”人工知能の開発”だ。
3つのコアコンピタンス
データ処理能力の強化について安部氏は、「今後、MAプラットフォームがオンプレミス型からクラウド型に移行していくのは確実。しかし、クラウド型には『データの処理能力が低い』という課題がある。そこで私たちは、大量のデータをクラウド上で瞬間的に処理できるようなエンジンやアーキテクチャを実現するための研究開発を行う」と話している。
そして、安部氏が特に強調して話すのが人工知能の開発だ。b→dashの最大の特徴はマーケティングの入口から出口をカバーしていることだというのは先ほど述べた通り。だからこそ、フロムスクラッチはWebの行動データから購買データにいたるまで様々な種類のデータを持つ。そのビッグデータを”餌”にして人工知能をトレーニングすることで、精度の高い予知機能(例えばある顧客にどの営業員を担当させるべきなのかなど)を提供できると同社は語る。
「今後、フロムスクラッチのコアコンピタンスは、データの統合技術と高速処理技術、そして人工知能の3つになる。今のb→dashは、『コアコンピタンス×日本(地域)×マーケティング(事業領域)』として捉えることができるサービスです。今後、このコアコンピタンスに様々な地域や事業領域を掛けあわせていくことで、様々なサービスを実現していく」と安部氏は話す。
その具体例として安部氏が挙げたのは、中小企業やBtoB企業向けの新しいマーケティングプラットフォームの開発だ。マーケティングに大きな予算をかけることができる大手企業や一部のBtoC企業とは違い、中小企業やBtoB企業は価格の安いマーケティングツールを求める傾向がある。「価格感が合わず、これまでは『外していた』ような領域だった」と安部氏は話すが、今後は低価格帯のプラットフォームを新たに提供することで彼らのニーズにも応えていく。
「BtoB向けのプラットフォームの利用料金は数万円、極端に言えばタダでもいいと思っている」と安部氏が話すように、BtoB企業向けのマーケティングプラットフォームはフロムスクラッチにとって収益を得る手段ではない。同社は、b→dashを通してBtoC企業のデータは持っている。しかし、今後データと人工知能を活用していくフロムスクラッチにとって、BtoB企業に向けたプラットフォームを用意することで彼らがもつデータを手に入れることの方が重要だということだろう。