Mailboxのバーチャル行列は、ピーター・モリニューのCuriosityがつまづいた「待ちゲーム」を成功させた


iPhone用のメール受信箱管理アプリ、Mailboxは先週ベータ版が公開され、現在約70万人のユーザーが利用開始の待ち行列に並んでいる。これは、われわれの多くが日に何度も注目しているアプリ画面に表示され、自分の前に何人、後に何人並んでいるかを知らせるカウンターによってわかる。

表向きこれは、Mailboxのサーバーがユーザーからの膨大なリクエストを調整するためのしくみだが、中にはこれを需要を喚起するためのマーケティング策略だ信じる向きもある。あるいは、人間行動の悪趣味な実験だと考える人もいる。どちらかというと私は、Mailboxの開発者たちが本気で、サーバー中心のアプリをダウンすることなく効率よく運用しようとしているのだと信じているが、意図的であれ無意識であれ、Mailboxはこれまで他のアプリがあまり成功してこなかったバーチャル体験の世界で新境地を開きつつある。

Mailboxの待に行列は、多くのレビュアーが高く評価しているアプリ自身とは別に、それ自体が一つの体験である。おそらく現在私が最もよく開くアプリだ(もう一つ似たような変なしくみを持つ開発中のプロジェクを別として)。実際には今このアプリで「する」ことは何もないにもかかわらず、である。アプリを立ち上げる、一方のカウンターが減り、もう一方が増えていく、アプリを閉じる。アプリを繰り返し開いて閉じるというこの単純な行動であっても、私のiPhoneのホーム画面を占める他の90%のアプリ以上に、私を引き付ける力を持っている。

これをピーター・モリニューによるモバイル機器用の耐える練習アプリと比較してみよう。モリニューの新しいゲーム会社22Cansで作られたこのアプリでは、キューブの奥深く隠された秘密があり、アプリの全ユーザーが協力して堀り起こしていくことによって究極の秘密が暴かれる。Molyneuxのゲームには対話性があり、秘密にまみれているためその最終ゴールはよりエキサイティングで、単なる行列に並ぶ体験を再現したものではない。しかし、公開時の記事を書くためにいじって以来、私は数ヵ月間一度もそのアプリを開いていない。

Curiosity公開時にモリニューをインタビューした中で、非常に際立っていて今思えばMailboxの成功を予兆させる話があった。モリニューによると、Curiosityの開発中22Cansのチームが気付いたのは、概してプレーヤーたちは他人が働くところ黙って見ているだけで満足してしまうので、そんな見物人たちを参加させるためのしかけやインセンティブを思いつく必要があることだったという。こうした「アイドリング中」のプレーヤーたちは、アクティブなプレーヤーよりはるかに人数が多いので、Mailboxのバーチャル行列という全くの受動的関与のしかたがこれほどうまくいくのも当然である。

他に行われた実験に “delayed gratification”[先憂後楽]があり、例えばMacHeistの運営チームによるあのすばらしい「The Heist」がその一つだ。面白いのはこのコンセプトがビジネスアプリにも応用されていて、それなりに受け入れられていることだ。たしかに、TwitterやMailboxのApp Storeレビューを見れば、アプリを待たなくてはいけない不条理に対する不満が見られるが、文句を言う人たちがいくら声を上げても、アプリの需要が上回っていることは間違いない。

では、参加型待ち行列はモバイルアプリ開発に不可欠な要素なのか? これをあてにしてはいけない。Mailboxは、公開前の喧伝と優れたデザイン、そして既存のソリューション(=メール)に対して人々が大きな不満を持っている分野に対応するという独自の特徴を合わせ持っていることによる恩恵を受けている。しかし、CuriosityやThe Heistの先例と同じく、Mailboxの事例はソフトウェア開発者がユーザーを引きつけるために先憂後楽アプローチを使う方法に一石を投じたのであり、このことが将来のアプリに対して何らかの悪影響を与えるのかもしれない。

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(翻訳:Nob Takahashi)