シードアクセラレーターのMOVIDA JAPAN(MOVIDA)が、運営体制を新たにする。これまで、チーフアクセラレーターとしてインキュベーション事業を担当し、同時にMOVIDAから分離したベンチャーキャピタルファンドであるGenuine Startups(Genuine)の代表を務めていた伊藤健吾氏が、Genuineでの投資事業に専念する。MOVIDAについては、これまでもインキュベーションプログラムの運営に携わってきた嶋根秀幸氏が後任となり事業を進める。今後はプログラムも刷新してスタートアップの支援を続けるとしている。
ちょっとややこしいので、まずはMOVIDAとGenuineの関係を説明しておく。もともとMOVIDAは2011年に第1期となる「Seed Accelerationプログラム」を開始。以後半年に1回の周期でプログラムを実施してきた。プログラムの参加者や、プログラムには参加していなくともMOVIDAが開催する起業家向けのイベント「MOVIDA SCHOOL」に参加する起業家などに、転換社債で最大500万円までの資金を提供してきた。
当初、この投資は孫泰蔵氏率いるMOVIDAグループの資本で行われてきた。だが、2013年以降は伊藤氏の会社であるケイマン法人のGenuine Startupsがゼネラルパートナー(GP)となり、外部投資家からも資金を集めたファンド「Genuine Startups Fund」を設立。MOVIDAの投資先も新ファンドに移管する形で、ファンドの独立性を高めている。孫泰蔵氏はあくまでLPという形でファンドに出資している。
Genuineでは、2014年に入って30社以上に出資しているそうで、これまでのMOVIDAでの実績と合わせると約50社に資金を提供していることになる。そこで課題になってくるのは、投資先への支援体制だ。「投資を受けてさらなる成長を目指す1社1社に対して、事業開発の支援や次の資金調達などのフォローアップに十分に時間をかけられなくなる」(伊藤氏)ということで、同氏はGenuineでの投資および投資先の支援事業に注力することにしたのだという。「今までやりきれてなかったことをちゃんとやる。意外にいいものを持っているのに、安売りするというか価値を伝えてない起業家も多いので、それを伝えていく」と伊藤氏は語ってくれた。ただ、これまでプログラム開始時から育成に携わってきた伊藤氏が、まだ上場、売却といったイグジットのないMOVIDAから離れるのは少し残念な気もする。
一方でMOVIDAでは、プログラムを見直して文字通り創業期の起業家の支援に注力していく。「これまでやってきたMOVIDA SCHOOLも、講義から実践的な勉強会に一新する。数カ月のブートキャンプ形式でプロダクトを完成させるところまでやる。もし投資が受けれないのであれば、なぜできないのかも理解させて、徹底的にブラッシュアップをする」(嶋根氏)。SCHOOLの開催時間もこれまでの水曜夕方から午後7時に変更し、広く起業家、企業志向の人材を集めていく。また、育成と投資の機能を完全に分けることから、MOVIDAのプログラム参加者であっても、500万円の投資が受けられる“確約”はなくなることになる(一方でGenuineやその他のファンドから、「500万円」という枠にとらわれない出資を受けることも可能になるが)。
MOVIDAから出資を受けている中には、TrippieceやBeatroboのような億単位の調達をしているスタートアップも居るが、中には次の調達ができず、事業の継続を諦めたケースもある。「どのスタートアップも手応えはあったが、果たして1社1社に500万円を渡すかは悩みどころだ。スタートアップのエッセンスを伝え、プロダクトを考えるところ伝えて、突き抜けているスタートアップを作りたい」(嶋根氏)。ただ前述の通り、出資が前提ではないプログラムとなることで、起業家にとっての魅力がどう変化するのかは、正直分からないところだ。
さてそうなると気になるのは、投資事業を行わなくなり、管理報酬やキャピタルゲインを得られなくなったMOVIDAのマネタイズだ。同社はスタートアップの支援を続ける一方で、企業の新規事業支援にも挑戦していくのだそうだ。すでにヤフーと共同で「スター育成プログラム」を展開しているが、このプログラムのように、企業内の人材育成や社内インキュベーションといった領域での事業展開も準備しているという。すでにいくつかの引き合いもあるそうだ。実はこういった企業の新規事業支援・企業マインドをもった人材の育成といった分野は、一部のベンチャーキャピタルやスタートアップを支援する企業が事業として取り組みはじめているという話を聞いている。