Mozillaが今日(米国時間5/14)、同社のFirefoxブラウザにHTML5のDRM規格を実装する、とためらいがちに発表した。
インターネット上でストリーミングされる著作権物コンテンツが、このところますます増えているので、権利者たちはFlashやSilverlightなどに依存することなくHTML5本体にDRMが標準的に実装されることを心待ちにしていた。しばらく前にMicrosoftとGoogleは、反対論者も少なくないW3CのEncrypted Media Extensions(EME, メディア暗号化拡張機能)の実装を決め、それにより彼らのブラウザのHTML5がDRMコンテンツを扱えるようにした。
しかしMozillaは一貫して態度を決めず、前CTO(そして短命のCEO) Brendan Eichはブログに強い口調で、HTML5の現在のDRM規格はユーザとデベロッパにとって不利である、と書いた。彼はMozillaがEMEを実装しないという決定はしなかったが、社内の大勢としては、Content Description Module(CDM, コンテンツ説明モジュール)という標準性のないプラグインの実装をHTML5内に必要とするW3Cの規格に反対だった。W3Cはブラウザが用いるCDMを特定していないので、Eichは、“各ブラウザがそれぞれ独自のシステム使うようになってしまう”、と主張した。
本日の発表でMozillaの会長Mitchell Bakerは、この新しいDRMソリューションには、“古いシステムと同じ深刻な欠陥がある”、と認めている。Mozillaから見るとそれは、“個人を保護することと、デジタルコンテンツを保護することとのあいだの、正しい均衡を欠いている。コンテンツプロバイダはシステムの重要部分をクローズドソースにしなければならないので、それはMozillaの長年の基本姿勢に反する”。
Mozillaがそれほどまでに言う規格を、では、なぜ実装するのか? それが、市場の大勢だからだ。MozillaがそのブラウザにEMEを実装しなかったら、いずれユーザはNetflixやHuluなどのコンテンツを見るためにほかのブラウザに乗り換えるだろう。“今の状況としては、MozillaがW3CのEMEを実装しなければFirefoxのユーザは、DRMに縛られているコンテンツを見るためにほかのブラウザに切り替えざるをえない、という段階に来ている”、とMozillaのAndreas Galは書いている。“DRMのない世界やWebが理想ではあるが、ユーザが、自分が望むコンテンツにアクセスするためにはそれが必要なのだ”、という典型的な必要悪説。
MozillaとAdobeのパートナーシップにより、後者がFirefoxにCDMを提供する。AdobeはDRM国のボス的存在だから、このパートナーシップは賢明だろう。Galによると、CDMはサンドボックスの中で実行されるから、ユーザのデバイスを特定する情報を得ることはできず、そのハードディスクやネットワークにアクセスすることもない。
CDMはAdobeが配布し、デフォルトではFirefoxに含まれない。そしてユーザがこれから見ようとするコンテンツによっては、ブラウザがそれを自動的にダウンロードして有効化する。ただしユーザはいつでも、CDMの有効化をoffに設定ができる。
実装の日程はまだ決まっていないようだが、当初はWindows、Mac、そしてLinuxのデスクトップブラウザだけが対象だ。
DRMのようなものをもともと思想的に毛嫌いしている人たちは、Mozillaの決定を敗北とみなすだろう。反対には、当然の理由がある。Eich自身も、昨年こう言っていた、“DRMは次の三つのものに激しく敵対している: ユーザ、オープンソースソフトウェア、そして、自らがDRMベンダではないブラウザベンダ”。
しかし結局のところ、Mozillaとしても、ユーザが減ってもいいとは言えない。見たいコンテンツを見られなければ、ユーザはほかのブラウザへ移るだろう。多くのユーザにとって、WebのオープンでDRMフリーという理想はどうでもよいこと。彼らは猫のビデオや過去の19 Kids And Countingを見たいだけだ。オープンソースを貫いてきたMozillaにとっては不快な状況だが、誰もFirefoxを使わなくなれば、その高邁なミッションも枯渇してしまう。
画像クレジット: Mozilla in Europe; CC 2.0のライセンスによる。
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))