NASAは太陽系を探査するための公式計画を要約した報告書を発行した。それはとても楽しく読むことができる ―― もしそれが現実味を帯びているかどうかを気にしないならばだが。月の表面への有人ミッション、月を周回する半永久的な基地、火星のサンプルを持ち帰るミッション…これら全てとそれ以上のものがそこには書かれている…それらが次の10年では実現できないかも知れないとしても。
The National Space Exploration Campaign(国家宇宙探査キャンペーン)は低軌道(LEO:low Earth orbit)や国際宇宙ステーション(ISS)のことは忘れて、次の月へのレースに勝利し、火星への道を描くNASAの包括的プランだ。これは、ある意味では、NASAに太陽系全体への拡大と探査に焦点を当てるよう指示した大統領のSpace Policy Directive-1(宇宙政策指令-1)に応えたものである。これは、幸いなことに、政府が既に長期に渡って追求してきていた良い目標の1つである。
したがって、今後の10から20年の計画は、過去数年に渡って行われていたものと似通っているものに見えるだろう。なにしろこうしたことは、極めて長期間に渡って追求され続ける必要があるからだ。
単純な真実は、たとえ全部が上手く行ったとしても、10年以内に月の表面に人間が降り立つことは、危険であることは言うまでもなく、極めて難しいということだ。私たちは単に「できた」と言うためにそのミッションを行うことはできない。私たちのこれからの月ミッションは、月の周回軌道と、惑星間旅行のための着陸船を活用する長期的な戦略の一部でなければならないのだ。言い換えると、短期的なアポロスタイルの派手な着陸(タッチダウン)に数十億ドルを費やすこともできるし、あるいは数多くの分野で有意義な支配力を発揮するために、長期的なインフラに数十億ドルを投資することもできるということだ。
その目的のために、NASAは野心的だが達成可能な短期的な目標をいくつも抱えていて、そうした仕掛中の目標の向こうに、Lunar Gatewayや月着陸船のような未来のプロジェクトが控えている。結局のところ、もしOrion宇宙船とSpace Launch System(SLS)の計画が遅れる(あるいは期待を上回る)ならば、そうしたシステムを使って、月の軌道上に半永久的な施設を建設し人間を送り込もうとする計画に重大な波及効果が及ぶだろう。
その優先度合いは基本的に3つの計画に沿っている:
1. 商業的取り組みを強化する
NASAは数十年に渡って、例えば国際宇宙ステーション(ISS)への補給任務などの、低軌道(LEO)に向けての打ち上げを行ってきている。いつでも行うことができる準備は整っており、商業的取り組みが引き継ぐ準備も整っている。
「これからの数年のうちに、LEO経済における、NASAの歴史的かつ中心的な役割に取って代わる、幅広い顧客基盤が出現することが非常に重要だ」と報告書には記されている。これからの数年の目標は、有効性や競争力などの研究を行いながら、基本的には資金調達と契約を指揮することである。
この動きに依存する形ではあるが、米国は2025年までにISSに対する直接的な資金注入を中止し、その代わりに商業的プロバイダーに依存できるようにする可能性がある。これは私たちがISSを完全に見放すということを意味するわけではない ―― NASAがただ消耗品と宇宙飛行士の供給をやめるというだけのことだ。
実際には、潜在的にはISSを完全に置き換えることを目指した新しい商用LEO開発プログラムに資金を提供するために、1億5000万ドルが確保されている ―― 少なくともその一部がそのために執行されている。それはほぼ同じ規模である必要はないが、私たちのものであると呼べる軌道上プラットフォームが1機ないし2機あることは良いことだろう。
より一般的な観点から見れば、LEO事業から撤退することで、より野心的なプロジェクトに向かうための巨額の資金とリソースがNASAに与えられることになる。
2. 月を攻略する
月は計画された太陽系探査計画のための、すばらしい足場となるエリアだ。そこは地獄のように環境が厳しい。つまりそこでは火星のような生活環境や宇宙線被曝などのテストを行うことができるのだ。月を覆う地表の下には大量の有用なミネラルがある筈で、おそらくは利用可能な水さえも見つかる筈だ。このことで基地建設が大いに単純化されるだろう。
残念ながら、人類が最後に月へ足を踏み入れたのは数十年前であり、ロボット着陸船による帰還さえも、数えるほどしか行われて来なかった。だから私たちはそれを正しい方向へ向かわせようとしているのだ。
2019年に始まる商業的な月面着陸船とローバーの計画もある。すなわち着陸ではなく、開発が始まるということだ。これらの努力と成功に基づいて、さらに多くのミッションが私たちの月面に対する基礎知識を向上させるために開始または遂行される予定だ。こうした基礎知識は、ドリルや掘削などへの応用という観点からは、まだほとんど何も知られていないのだ。
一方、Orion宇宙船とSLSは、2020年に初めて軌道上のテストが行われる予定であり、もし全てが順調に進んだならば、数年のうちに宇宙飛行士たち(とおそらくは少量の貨物)を月の周回軌道の上に送り込むことができるだろう。それが証明された後、Orionの変種である貨物宇宙船が、一度に10トンのペイロードを軌道に乗せることができるようになるだろう。
これらは皆、月の周回軌道に乗る宇宙ステーションLunar Gatewayを投入するための前準備に相当するものである。Lunar GatewayはNASAの宇宙飛行士たちが搭乗し、深宇宙へのテストベッドならびに実験室として利用されることになる。彼らは、来年までに体積、質量、材料、技術の基礎を確定しようとしており、2022年までには月の軌道上に最初のコンポーネントを乗せたいと考えている。
3. 皆に、私たちが既に火星にいることを思い出させる
NASAは科学者で溢れている。そして彼らに将来の火星ミッションについて質問したならば、彼らは既に取り組んでいる多くの火星ミッションを激しく指さしながら、熱い言葉を語り始めることだろう。驚くようなことではないが、政府のロードマップは、はるかな未来ではなく比較的近い未来に焦点を当てている。ここでの事実は、火星はすでに優先課題であり、すでに重要なミッションが計画されているが、有人ミッションや基地設置に関しては、何を語っても時期尚早で無責任なものになるということだ。
Insightはすでにルートに乗っており11月には着陸する予定である。またMars 2020 Roverは来年の夏に打上げ予定である。両者は将来のミッションを計画する上で、重要で興味深い沢山の結果を生み出してくれるだろう。Mars 2020は、数年後に計画されている別のミッションで持ち帰るためのサンプルを収集する予定だ。火星の岩石でいっぱいの貨物船で、何ができるか想像できるだろうか?遠くにチームを送り出す前に、それらの試料をまず実験室に送り込んで分析をしたいと思うのは当然だ。
NASAにとっては2024年が、おそらく2030年代の火星有人ミッションについて決定を下すことを約束しているもっとも早い時期である。その段階でも決定されるのはおそらく軌道周回を行うミッションだろう。当然のことながら、そのミッションから得られる信じられないほど貴重な観測と学んだ教訓に基いて、新しいミッションが計画されることだろう。おそらく2030年代の終わりには火星に人間の足跡を残せるのではないだろうか。
それは少々残念だろうか?まあ、商業区間で物事が進行する速さを考えると、それ以前にプライベートな火星ミッションを目にする可能性は高い。しかし、NASAはある種の義務を負っている。それは科学機関であり、納税者からの資金提供を受けている以上、民間企業が選択しないようなレベルまでその仕事を正当化しテストする必要があるのだ。
この報告書は約束されている内容は重いものの、実際の施策と厳密な日程に関しては扱いが軽い。すなわち多くのゴールがまだ遠く「2024年にはっきりする」以上のことは自信をもって明らかにすることができないと思われる。宇宙に関する急速な進歩が見られるこの時代に、そうした遠く漠然としたゴールを持つことは、少々不満かもしれないが、それがこのビジネスの性質というものなのだ。
一方、NASAや業界全体を再編している数多くの商用宇宙産業たちによる、エキサイティングな開発のネタが枯渇する心配はない。もしNASAの慎重なアプローチが気に入らないのなら、宇宙へと自分のミッションで乗り出すことができる ―― 本当に。そう考えるのはあなた1人ではない。
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(翻訳:sako)