【編集部注】執筆者のAlex WilhelmはCrunchbase Newsの編集長で、VCに関するTechCrunchのポッドキャストEquityの共同司会者でもある。
設立からかなりの時間が経ち、その間にエンタープライズ向けサービスへのピボット、そして2つの新たな信用枠の獲得を果たし、これまでに大金を調達しながらも再度コスト削減に努めているDropboxが、ようやくIPOに向けて動き始めたかもしれない。
ロイターによれば、クラウドストレージサービス(恐らくDropboxは「エンタープライズ向けプロダクティビティソフト」という情報も追加してほしいと考えているのだろうが)を提供する同社は、「年内のIPOに向けて、引受人を探している」ようだ。
さらに同記事は、DropboxのIPOが「Snap Inc以来、アメリカのテック企業としては最大級」になる可能性があり、情報源については「本件に詳しい情報筋」としている。私たちはロイターの報道内容の中でも、特に引用した箇所に注目している。というのも、ここにはタイミングと規模という、IPOに関して私たちがもっとも気にかけている情報が含まれているのだ。
もっと簡単に言うと、私たちはいつ今年が終わるか知っているし、SnapのIPOについても知っているので、もし全てがロイターの記事通りだとすれば、DropboxのIPOのタイミングは実質的にどちらかに絞られたことになる。
だが、恐らく人々の関心は収益と評価額に向いているだろうから、まずはその話をしよう。
収益、キャッシュフロー、上辺の利益、本当の損失
TechCrunchでは、Dropboxが今年の春に発表した業績に関連して「Dropbox really wants us to know its finances are healthy(Dropboxは健全な経営状況をかなりアピールしたいようだ)」と題された記事を公開した。
会社が健全な状態にあるというのは素晴らしいことだし、特に何か言うべきこともない。ちょうどいいので、去年から今までに発表(自主的かどうかは別として)されたDropboxのマイルストーンを確認してみよう。
- 2016年7月:フリーキャッシュフローがポジティブに
- 2017年1月:「ランレートが10億ドル達する勢いに」
- 2017年3月:新たに6億ドルの信用枠を獲得
- 2017年4月:EBITDA(株式報酬費用も勘案)ベースで黒字化
そして今月に入って、DropboxはIPOに向かって動き出したと言われている。
各マイルストーンを確認したのは、読者の皆さん(そしてこの記事を書いた私自身)を退屈させるためではなく、他の企業と比較する上で重要な点を洗い出すためだ。その結果、良くも悪くもBoxが上場企業の中ではDropboxのベンチマークとしてふさわしいことがわかった。次は収益や評価額を比較するため、収益の質について考えたい。
企業価値はどのくらいなのか?
Dropboxの10億ドルという収益額は直近12ヶ月のものではない。彼らの正式なコメントは次の通りだ。「Dropbox is proud to announce that our business has surpassed $1 billion in revenue run rate(Dropboxのランレートがこの度10億ドルを突破したことをお知らせします)」
同社のコメントには、通常SaaS企業が収益を表すときに使う言葉が入っていない。それは月間ランレート(MRR)と年間ランレート(ARR)だ。
しかしDropboxは、コメントを発表したブログポストの中で、自分たちの業績を数十億ドルのARRを誇るSalesforceなどのSaaS企業と直接比較していたため、この10億ドルという数字をARRと解釈しても問題ないだろう。
それでは、今年の第1四半期にDropboxが10億ドルのARRを達成したと仮定しよう。つまり、私の脳がきちんと動いていれば、第1四半期のランレートは2億5000ドルだったということになる(非公開企業の情報は限られているので、ここではかなり大雑把に計算している。しかし、少なくともDropboxは真実を伝えているとしよう)。
これでDropboxの指標が揃った。四半期収益が2億5000万ドルでフリーキャッシュフローはポジティブ、さらにEBITDAベースで黒字、というのが同社の現状だ。
次は直近の四半期(2017年4月30日締め)における、Boxの業績を見てみよう。
- 収益:1億1700万ドル
- 営業・フリーキャッシュフロー:共にポジティブ
- EBITDA:ネガティブ
Dropboxよりも規模の小さなBoxだが、フリーキャッシュフローはDropboxよりも早いタイミングでポジティブになり、前年比での成長率は30%を記録している。Dropboxの成長率に関する情報は手元にないが、同社の数字の多くはBoxのものに近いため、成長率も同じくらいの水準と考えることにする。
では、Boxの収益の質はどうなのか? 直近12か月の収益をもとにした同社の株価売上高倍率は5.73だ。また、今年の第1四半期の収益を4倍にしたものを年間収益と仮定した場合、株価売上高倍率は5.2となる。将来的な収益を割り引いて現在価値を求めると、この数字はさらに下がるが、そこまではしないでおこう。
いずれにしろ、これでかなり比較しやすくなった。先述の通りDropboxの成長率はBoxとほぼ同じだと仮定し、Boxの株価売上高倍率である5.2と、Dropboxの10億ドルという(仮定上の)年間収益を使ってDropboxの評価額を算出すると……約52億ドルということになる。
さらに、DropboxはBoxと違ってEBITDAベースで黒字のため、Dropboxの評価額はここから上がる可能性がある。また、もしもDropboxがBoxを上回るスピードで成長すれば、投資家はさらにDropboxの評価額を吊り上げるだろう。そして最後に、Dropboxは長らくフリーキャッシュフローをポジティブに保ってきたため、バランスシート上もBoxを凌駕しているかもしれず、これはIPO時の時価総額に良い影響を与えるだろう。
実際どうなるかはこれからの様子を見守っていくしかないが、一部のテック株が史上最高額に近い値をつけている中でDropboxが上場を狙っているということは注目に値する。まさにブームといったところか。その一方で、結局直近のラウンドよりも低い評価額がつくという可能性ももちろんある。
ここで冒頭の問いをもう一度見てみよう。
さらに同記事は、DropboxのIPOが「Snap Inc以来、アメリカのテック企業としては最大級」になる可能性があり、情報源については「本件に詳しい情報筋」としている。私たちはロイターの報道内容の中でも、特に引用した箇所に注目している。というのも、ここにはタイミングと規模というIPOに関して私たちがもっとも気にする情報が含まれているのだ。
そしてSnapのIPOの規模については、Forbesが以下のように報じている。
Snap Inc.は売り出し価格17ドルで水曜日に上場し、時価総額は236億ドルに達した。人気メッセージングアプリSnapchatの開発元である同社は、2億株を発行し、2014年以来最高額となるIPOで34億ドルを調達したと言われている。
SnapのIPOは規模が大きすぎるため、Dropboxの上場のシグナルとなる評価額の上限値はハッキリと見えないが、現時点の情報でできることはこのくらいだ。情報量が増えてくれば、さらに細かな分析ができるようになるだろう。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)