SpotifyのCEOがライブオーディオコンテンツを次の「Stories」だと有望視

ライブオーディオエクスペリエンスは、Storiesがそうだったようにメジャーなプラットフォームすべてに受け入れられるだろう、とSpotifyのCEOであるDaniel Ek(ダニエル・エク)氏は米国時間4月28日の決算会見で投資家に話した。Spotifyはこのほど、ライブオーディオアプリのLocker Roomを買収した。スポーツやカルチャー、そしてもちろん音楽などを中心にさまざまな種の新しいライブオーディオを展開するのにLocker Roomのテクノロジーを使う予定だ。

同社は録音されたコンテンツである音楽とポッドキャストを流すことを専門としており、ライブのソーシャルネットワーキング分野の経験はほぼないことから、Locker RoomがどれくらいSpotifyの現在のサービスに馴染むのかについて投資家らは興味ありげだった。

業界の多くがすでに検討していることを反映して、ライブオーディオをすべての人に広く受け入れられる新しい機能としとらえている、とエク氏は述べた。同氏はそれを次の「Stories」と呼んだ。StoriesはSnapchatによって人気になった機能だが、徐々にどのプラットフォームにも登場した。

「Storiesと変わりません」と同氏は述べ、ライブオーディオに関する自身の考えを説明した。「Storiesは今日、Spotify、もちろんInstagram、Snap、その他も含め数多くのプラットフォームのフォーマットで存在しています。ですので、私は本当にライブオーディオを魅力的な機能としてとらえています。そしてクリエイターは、求めているインターラクションのためにベストなファンとの親和性を持てるところで従事すると考えています。これは、Storiesがこれまでにいかに機能してきたかにかなり似ています」。

言い換えると、各プラットフォームは特定の種のライブオーディオクリエイターを引きつけるかもしれず、Spotifyは音楽とカルチャーの領域に可能性を見出している。カルチャーに関してはポッドキャストへのこれまでの大規模投資のおかげだ。

ライブオーディオへの関心はパンデミックの最中に湧き起こった。人々は家に閉じ込められ、従来のネットワーキングやカンファレンスのような大型イベントは禁止となった。しかしそれは、世界がコロナ後の世界へと向かうときに将来性がないということにはならない。

もちろん、排他的な招待制が次の大きなものに参加することを求めている、見極めたネットワーカーたち(と人気にあやかろうとする人たち)を引きつけたことで、Clubhouseはライブオーディオ分野において関心を集めた功績が認められている。しかしTeslaの創業者Elon Musk(イーロン・マスク)氏、FacebookのCEOであるMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏、俳優から投資家に転向したAshton Kutcher(アシュトン・カッチャー)氏、Drake(ドレイク)、Oprah(オプラ)、その他たくさんのビッグネームのセレブゲストなどの利用でアプリの人気が高まるにつれ、他のテック企業も注目し始めた。ほどなくして、多くがClubhouseのクローンを作っていた。

今日ではFacebook、Instagram、Reddit、Twitter、Discord、Telegram、そしてLinkedInですらさまざまな開発段階にあるライブオーディオの計画を持っているか、サービスを提供している。

ただし、ゼロから始めるのではなく、Spotifyは買収した。もともとはスポーツを論じる場だったLocker Roomのおかげで、Spotifyはより多くのプロのアスリートやライター、ミュージシャン、ソングライター、ポッドキャスター、そしてリアルタイムの会話をホストしたい「その他のグローバルボイス」に対しライブオーディオを間もなく利用できるようにする。Locker Roomのサービスは「Spotify Greenroom」としてブランド変更されるとエク氏は会社のポッドキャストで述べた。

この買収が発表されてから初めての四半期決算会見で、投資家はSpotifyが話し言葉のオーディオが音楽ストリーミングよりもおもしろいと信じているかどうか尋ねた。

エク氏は、話し言葉のコンテンツがフォーマットの進化として今後くるものの始まりにすぎないことを説明した。

「多くの人が媒体にある機能で従事し始めるにつれ、あなたはより多くのプロのクリエイターが加わるのを目にし始めます。ですので、おそらくまず話し言葉のコンテンツで始まると考えています」とエク氏は述べた。「しかしSpotifyに関して具体的にいうと、ファンへの語りかけからリスニング・パーティーの開催、他の多くのことに従事したい多くのミュージシャンがいると考えています。というのも、ミュージシャンにとってSpotifyプラットフォームでは、当社の売上高モデルベースに基づくだけでもエンゲージメントが売り上げ機会への意義ある転換につながることが明らかだからです」。

Spotifyは、800万人超のクリエイターから受け取った最多のリクエストが、ファンとつながる手段をより多く持ちたい、というものだったと明らかにした。ユーザー3億5000万人超というSpotifyのリーチを考えたとき、ライブオーディオはその性質上、ミュージシャンにとってファンとつながるかなり直接的な方法となる。

別の言葉でいうと、投資家の質問が暗示したように、ライブオーディオは音楽ストリーミングにとってシナリオではない。1つのことが他のことに絡んでいるループ以上のものだ。そして明らかに「ライブ」は単にチャットではなく、音楽を意味し得る。

例えばアーティストが販促したいアルバムがあるとき「ファンとしてあなたは他の消費者よりも早く体験できるかもしれません」とエク氏はほのめかした。本当だろうか?

アーティストはまた、曲作りに関する自らの考えについて話すためにライブオーディオを使うこともできる。これはすでに利用できる「Behind the Lyrics」の統合と類似している。

「コンテンツの質によるところが本当に大きいと考えています」とエク氏は話した。「800万人のクリエイターに目を向けると、世界でベストなストーリーテラーがプラットフォームにいます。究極的にはそれが人々が聴くものであり、大切なのはそういうことです」。

しかし 難しいものになりそうなのが、ライブコンテンツのモデレーションだ。会話はあっという間に常軌を逸することがあるため、ライブオーディオはどの企業にとってもまったく新しい課題だ。そして自由な言論と誤情報や不適切なコンテンツの取り締まりの間の線引きに関するSpotifyの立場はまだ少しはっきりしていない。例えば同社のトップポッドキャスターJoe Rogan(ジョー・ローガン)氏は最近、もし若くて健康なら新型コロナウイルスのワクチンを接種しないようリスナーにアドバイスした。Spotifyはこの特異な論争について意見を述べるのは却下した。しかし同じポッドキャストから過去の40超のエピソードを削除した。ブレットプルーフ(完全無欠)コーヒーとその健康への効果についてのエピソードなど、削除されたものの一部はさほど規則に反していないようだ。

ライブオーディオに進出する前に、Spotifyはクリエイターのコンテンツに関する価値を最初に固めたいかもしれない。ライブセッションが決められた範囲外へと飛び出しときに何が起こるのかについて、注意深い、最悪のケースを想定したシナリオも必要だろう。

ライブオーディオに関してエク氏が楽観しているにもかかわらず、AppleやAmazonのようなライバルからの増大するプレッシャーのために成長が減速する兆しがあるとして、Spotifyの株価は決算報告の後に大きく下げた。Spotifyは第1四半期に有料購読者を300万人増やしたが、予想されていた月間アクティブユーザー数には届かず、通年のガイダンスも下回った。同四半期の売上高は21億ユーロ(約2760億円)で、前年同期比16%増だったが、2020年第4四半期に比べると1%減となり、懸念を生んだ。しかし、もしSpotifyが統合をうまくこなせば、ライブオーディオは将来、ファンにもっと頻繁にSpotifyを利用しようと思わせるかもしれない。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Spotify音声ソーシャルネットワーク

画像クレジット:Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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