最近、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development)のジェンダーが生徒の学業成績およびライフスタイルに与える影響を詳細に調査した結果を発表している。この調査は15歳の生徒を対象としており、学業成績にはその年齢で受験したテストの結果を用いている。
このレポートによれば、全体的には学校に滞在する時間、読書の成績など多くの面で女子生徒の成績は男子を上まっていたものの、成績上位同士を比較すると女子は依然として科学と数学で男子に大きく差をつけられていることが明らかとなった。OECDはこの理由を検討しているが、中でも重要なのは、数学能力に対する自信の自己報告に現れているが、男子に比べて女子が自信のなさが目立つことだろう。女子は男子に比較して、数学に関連する課題の解決に不安を強く抱く傾向が見られる。
「数学の問題を解こうとするときとても不安になります」、 「数学で悪い点を取りそうで心配です」というような文章に対する同意の率が女子は男子より高い。こうした科学、数学に対する自信のなさが、学業成績に影響を与え、最終的には女性がSTEM(科学・テクノロジー・工学・数学)系の職に就く機会を奪っていると考えられる。
女子がこうした不安を抱くようになるのはいつごろからだろうか? Verizonがジェンダー差別撤廃のために製作したビデオはこの点についてたいへんよい資料だ。女性はきわめて幼い頃からSTEM分野を追求することを妨げるような圧力を受ける。ある調査によれば、女性は12歳を境として数学や科学を嫌うようになり、この分野で男子と同等の成績を挙げることを期待しなくなる。そして成績の不振をその分野における自己の能力の欠如に求めるようになるという。
全米学力テスト(NAEP=National Assessment of Educational Progress)の結果によれば、科学と数学における女子と男子の成績の年齢と共に広がる傾向を見sている。そしてこの傾向が顕著に現れ始めるのが9歳から10歳までの間だ。
国際教育到達度評価学会(International Association for the Evaluation of Educational Achievementfound)などによって実施された標準化されたアチーブメント・テストでも同様の結果が現れている。科学と数学における男子と女子の成績は第4学年から差が開き始め、高校の最終学年まで女子は男子に離されていく一方だ。
こうした結果から、9歳から12歳までの教育はその後の女性の一生に非常に大きな影響を与えていることが分かる。高校では女性は化学、物理、数学などで高等教育を受ける道を自ら放棄するようになる。STEM系課程への進学を放棄することはSTEM関連の職に就くチャンスを放棄することに等しい。この点に関しては自分の体験から説明することができる―私は高校時代、科学と数学の上級科目を選択した数少ない女性の1人だった(私は微積分、物理、科学の上級コースを取っていた)。
小学生の女子にSTEM科目への興味を抱かせるには?
重要な問題は、女子の科学、数学分野での成績の低下と自信の喪失を防ぐために小学校教育でわれわれは何ができるのかだ。 9歳から12歳という決定的な時期に教育者はどういう努力を払うべきなのか?
女性のSTEM分野への進出を特に妨げて3つの要因がある思う。
肯定的コネクションを増やす: 神経精神医学の研究によれば、女子生徒が科学や数学を学ぶことに対して幼い頃から多数の否定的なコネクションが植え付けられており、これが女性のSTEM分野への進出を妨害している。
しかしSTEM系職種の雇用者は、採用にあたっていわゆる「ソフト・スキル」、つまりコミュニケーションやネットワークの効果的な利用の技術を重視する。こうした分野は実は女性がもともと強い。こうしたコミュニケーション能力、ソーシャル能力を活かすような肯定的コネクションを増やす強力なロール・モデルは女子をSTEM系エンジニアの道に進ませるために大きな効果があるだろう。チームのメンバーとして活動すること、所属するコミュニティーのために積極的に役立つこと、環境に敏感であること、これらをリーダーシップと結びつけることなども女性が優越する分野だ。
教育者はSTEM系職種が本質的に必要とする能力を女性が高いレベルで備えていることを強調することによって、女性が科学技術職を選び、成功することを助けねばならない。
リーダーシップに関する固定観念を打破する: STEM系科目を選択する(あるいはしない)上で女子が抱く自己イメージは非常に重要だ。 自己の成長を信じる成長的マインドセットの持ち主は固定的なマインドセットの持ち主よりも好成績を残すこと知られている。
スタンフォード大学の教授、Jo Boalerは、調査結果に基いて、成長的マインドセットを発達させた子どもたちは知性は習得することが可能であり、練習によって向上させることができると信じていることを発見した。こういう子どもたちは「努力は重要だ」という思考を身につける。また、課題に挑戦することを好み、失敗にもめげない。周囲からのフィードバックを自己改善のために役立て、他者の経験から学ぶことができる。
残念なことに、われわれの現行の教育システムは、生徒の能力についてきわめて固定的な見方をしている。教育者のマインドセットは最終的には生徒たちへのメッセージとして伝わっていく。われわれはょり多くの女子に、小学生の間に成長的マインドセットとリーダーシップ技術をを培わねばならない。そうすることによって中学、高校で適切な能力を身につける準備となる。
STEM職は他の分野に比べて急成長しており、失業率もはるかに低い
サンフランシスコを本拠とするグループ、Technovationはこうした課題に正面から取り組み、女子学生にSTEM職のクリエーティブな分野を紹介するだけでなく、起業家としてのマインドセットや技術を教えようとしている。
STEMの日常的、実用的な応用面を紹介する: 女子の数学に対するイメージは「複雑で分かりにくく、現実から遊離した退屈なもの」という方向に向きがちだ。こうしたイメージが結局女性をSTEM分野から遠ざけている。そこで数学や科学の日常における応用例を分かりやすく紹介することが重要になってくる。
教育者にはこの面でやることが多いだろう。女子に対し、ハイテク企業のイノベーションが日常生活をどれほど便利にしてきたが、学校で習う数学のコンセプトがやがてSTEM企業に就職する上でどれほど役立つかを詳しく紹介していく必要がある。こうした努力を助けるさまざまな補習ないし課外プログラムがデザインされている。ベイエリアを本拠とするNPO、Kids’ Visionは女子生徒がSTEMに対して否定的な自己イメージを抱くようになる前に、科学やテクノロジーに興味を抱かせるよう多様な努力をしている。
Kids’ Visionでは3年生から6年生までの小学生女子にシリコンバレーのテクノロジー企業を案内している。子どもたちはそこで働くエンジニア女性からSTEM職に就くためにはどういうキャリアパスがあるかを直接説明してもらうが、この生きたロールモデル教育も大いに効果がある。
女性は全米の職の約半分近くを占めるようになった。しかしSTEM職についてみると、女性はわずか25%にすぎない。 STEM労働者は長期的かつ維持可能な経済発展にとって決定的な要因の一つだ。経済はSTEM教育を受けた労働者を必要としている。STEM職の成長は急速なので他分野に比べて給与は高く、失業率も低い。
STEMへの女性の進出は女性にとっても経済にとっても重要だ.
第二に、STEM職の給与レベルは他分野より高い。アメリカ商務省の統計によれば、同学歴の場合、STEM職の女性は非STEM職の女性より20%も高い給与を得ている。.アメリカ商工会議所財団の年次給与調査によれば、アメリカにおけるすべての職の平均給与は3万4570ドルであるところ、STEMプロフェッショナルの給与の平均は7万6270ドルだった。またコンピューター科学者の給与は10万2190ドルだった。STEMへの就職は女性にとって経済にとっても win-winの関係であることが明白だ。
#ILookLikeAnEngineer運動は一つの出発点として非常に役立つだろう。 科学者、エンジニアは「こうあるべき」という固定観念に対して、多様なさまざまな人々が声を上げる、特に差別やハラスメントに直面している女性プロフェッショナルが声を上げることには大きな意味がある。この面では、TechnovationやKid’s Visionなどのグループや運動も女性をSTEMに引き付ける上で有意義だ。
STEM〔科学・テクノロジー・工学・数学〕分野の職に将来もっと女性が就けるようにすることは、人権の擁護や性差別の撤廃という意味で重要であるだけでなく、世界の中のアメリカ経済にとってもきわめて重要な課題だ。われわれは女性の地位改善のためにもっと努力を払うべきだろう。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)