Chromiumベースのブラウザの中でも特に関心を集めていたVivaldi(ヴィヴァルディ)。プライバシー重視のパッケージで、パワーユーザーのために構築されたツールであること、ざっくばらんな性格で有名なOperaの元CEOであるJon von Tetzchner(ヨン・フォン・テッツナー)氏が共同設立者かつCEOであるという血筋がその理由だ。現地時間6月9日、Vivaldiチームは、Vivaldiブラウザのバージョン4.0を発表した。その中には、メール、カレンダー、RSSクライアントのベータ版をはじめ、プライバシーに配慮したLingvanex(リングヴァネックス)エンジンの翻訳サービス「Vivaldi Translate(Vivaldi翻訳)」の提供開始などが含まれる。
Vivaldiは以前からウェブメールサービスを提供しているため、メールクライアントとしてのVivaldiは新しい会社ではない。しかし、ブラウザに組み込まれたオフラインのメールクライアントやカレンダークライアントは、これらの組み込み機能がほぼ標準であったNetscape NavigatorやOperaのような初期の時代のブラウザに戻ったような感じがする。フォン・テッツナー氏は、多くのブラウザベンダーはユーザーを特定の方向(自社のウェブメールクライアントなど)に誘導するためにこれらの組み込み機能を廃止した、と主張する。
フォン・テッツナー氏は次のように話す。「私たちは、『ビジネスモデルが私たちの行動を決めるのではなく、ユーザーが何を求めているのかに焦点を当てよう 』と考えました。(内蔵のメールクライアントには)大きな価値があると考えています。私たちのほとんどは電子メールを使用します。メールを頻繁に使う人も、あまり使わない人もいますが、基本的に誰もが1つ以上のメールアカウントを持っています」「だからこそ、優れたメールクライアントを提供したいと考えました。Operaにこのような機能の多くがあったのはご存じのとおりですが、存在しない機能もありました。VivaldiはOperaのギャップを埋め、さらに多くのことを達成しています。(たとえば)Operaにはカレンダークライアント機能はありませんでした」。
Vivaldiメールとカレンダーに関する多くの決定は、Vivaldiチームの趣向に基づいて行われたようだ。例えばVivaldiのメールクライアントでは、Outlookのような通常のフォルダ構造ではなく、フィルタリングシステムによってメッセージを複数のビューに表示することができる。Vivaldiはユーザーによるカスタマイズを重視しているので、従来型の水平表示とワイド表示から自分が使いやすい方を選択することができる。切り替えボタンでメーリングリストやカスタムフォルダにあるメールをデフォルトのビューから除外して、見たいメッセージをコントロールできるのも良い機能だ。また、未開封のメールと未読メールを区別して表示してくれる点も良い。
IMAPとPOPプロトコルをサポートするほぼすべてのメールプロバイダに対応しているのは予想通りだが、Gmailにも対応する。
新しいビルトインカレンダーも、GoogleカレンダーやiCloudなど、標準的なカレンダープロバイダのほとんどをサポートしている。デザイン上の工夫としては、イベントごとに1~2行表示するのではなく、そのイベントのすべてのデータがカレンダーに表示される。フォン・テッツナー氏自身の好みだそうだ。
「これまでとは違うやり方をしているとは思います。ユーザーの反応を注視していきます」「私がカレンダーに求めていたことの1つは、すべてのコンテンツを見られるようにすることでした。現在一般的なカレンダーでは、テキストを表示するスペースはグリッドの大きさで制限されます。でも、そうする必要はありません。グリッドの大きさが揃っている方が見栄えがしますが、機能的には、テキストがより多く表示される方が使いやすいのです」とフォン・テッツナー氏。
フォン・テッツナー氏は、ユーザーをGoogleやMicrosoftから引き抜きたいのは当然だが、代わりの機能を提供するだけでは十分ではなく、もっと優れた機能を提供しなければならないと考えていると話す。
RSSリーダーはまだ基本的な段階で、たとえばフィードのリストをインポート / エクスポートする機能は提供されていない。ここでのアイデアは、エコーチャンバー化(「反響室」のような狭いコミュニティでのコミュニケーションを繰り返すことによって、特定の信念が増幅または強化されてしまう状況)を防ぎ、ユーザーごとにカスタマイズされたニュースの配信を行うニュースリーダーを避けることにある。全体的にフィードリーダーは非常にうまく実装されていて、ローカルのフィードリーダーに必要な機能をほぼすべて提供している。ネットサーフィン中はブラウザがRSSフィードを識別し、URLバーにハイライト表示するので、新しいフィードの購読はとても簡単だ。また、YouTubeをフィード(チャンネル)ごとに購読することもできる(YouTubeではあまり強調されていないが、すべてのYouTubeチャンネルはフィードとして提供されている)。
フォン・テッツナー氏は「フィードでは、(データ)収集を避けることも重要です」と話す。「今のニュースサービスは、ユーザーにより関連性の高いニュースを配信すると理屈をこねながら、あなたが何を読んだかを見て、あなたのプロフィールを構築しています。しかし、私の意見では、ユーザーが特定のチャンネルを購読しているという情報だけで十分だと思っています。私たちが目指しているのは、ユーザーが自分の読んでいるものや購読しているものをコントロールできるようにすることであり、ユーザーの習慣や好みを知ることではありません。私たちには関係のないことです」。
これらはすべて、広告に振り回されないビジネスモデルというVivaldiの基本理念に帰結する。「ユーザーのデータを集める必要も興味もありません」とフォン・テッツナー氏は語る(ただし、ユーザー数や大まかな所在地など、基本的な集計データは集めている)。実際、彼は、ユーザーに関して詳細な遠隔測定を行っても、平々凡々なユーザー製品が仕上がるだけだという信念を持っている。
新しい翻訳機能もその一環で、データはVivaldiのサーバーでホストされ、いずれのサードパーティーサービスとも共有されない。Vivaldi翻訳はLingvanexテクノロジーを使用しているが、それを自社のサーバーでホストしている。結果はかなり良好で、おおむねGoogle翻訳と同等のレベルだ(微妙な差があることもあり、その場合、Google翻訳の方がより正確な翻訳を返すことが多い)。
Vivaldiの新しいオンボーディングフローでは、ユーザーが3つのデフォルトレイアウトから選択できる。ChromeやEdgeのような使用感だけを求めるユーザーのための基本的な「ベーシック」、パネルやステータスバーのようなブラウザの高度な機能を使いたいユーザー向けの「ノーマル」、すべてのツールを使ってみたいユーザーのための「アドバンス」だ。ブラウザに求める要件がユーザーごとに異なることを尊重する機能で、パワーユーザーではないユーザーにVivaldiの導入を促すことにもつながるかもしれない。「アドバンス」ではVivaldi の新しいメール、フィードリーダー、カレンダーの機能がデフォルトで有効になっている。
今のところVivaldiでは利益が出ていない。プリインストールされたブックマークや、検索エンジンとのパートナーシップから多少の収益を得ているが、フォン・テッツナー氏は、Vivaldiが持続可能な企業になるためには、ユーザー数をもう少し増やす必要があると話す。彼はこの考えに満足しているようで、ユーザー1人当たりの収益が比較的低いことにも納得している。「私たちには経験があり、成功したこともあります。当社のような会社の成長には時間がかかります」「私たちが構築しているものをユーザーが気に入ってくれることを願っています。多分気に入ってもらえていると思います。そしてゆっくりと、支払いに必要なだけのユーザーを獲得し、さらに発展させていきたいと考えています」。
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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Vivaldi、ウェブブラウザ
画像クレジット:Vivaldi
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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Dragonfly)