VRスタートアップ企業のクラスターは今日、エイベックス・ベンチャーズ、ユナイテッド、DeNA、Skyland Venturesおよび個人投資家らからシリーズAラウンドで2億円を資金調達したことを明らかにした。これでクラスターの累計調達額は2.6億円となる。過去のラウンドで投資しているVCにはEast Venturesも含まれる。Skyland Venturesは今回追加投資しており、新たにエイベックスやDeNAが投資家として加わった形だ。エンタメ系コンテンツを持つエイベックスや子会社にネットアイドルのライブ配信サービス「SHOWROOM」を持つDeNAとは事業シナジーを見込む。
クラスターについては、過去にTechCrunch Japanでもお伝えしている通り、リビングやオフィスの打ち合わせスペースなどをVR空間上に3Dで再現して場を共有するサービス「cluster.」を提供する。ユーザーはVRデバイスを使うか、通常のPCを使って、このVR空間に「入る」ことで利用する。別地点から入ってきているほかの参加者と音声や身振りによるコミュニケーションが可能だ。今日正式ローンチしたclusterには10弱の部屋が用意されていて、誰でも無料で利用できる。また、clusterには有料・無料のチケット決済システムが実装されていて、オンライン・イベントにも活用できる。
clusterの特徴は多くの同時接続が実現できることのほかに、きわめてシンプルな3Dモデルで表現されるアバターを使った他のユーザーとのインタラクションができることが挙げられる。アバターは比較的簡素なポリゴンで表現されている。これは意図的なデザインチョイスで、仮想空間内で実際に交流することを考えたときに重要なのは「精巧な3Dモデル」ではないというのがクラスター創業者の加藤直人CEOの考えだそうだ。
「FacebookのSpacesはインタラクションがありません。例えばVR空間にあるペットボトルには触れない。これが3Dモデルだと触れるのです。会うとか集まるといった体験を提供するにはインタラクションが重要です」
想定しているのはアイドルや声優のファンイベントだが、どの程度本人に似た3Dアバターを用意するのだろうか?
「テレプレゼンスで実際に会っているような感覚を得るためには、3Dモデルがどれだけクオリティーが高いかよりも、どれだけインタラクションが可能かのほうが大切なんです。人間そのものじゃなく、キャラクターだけでも明確にコミュニケーションは成立する、というのが私の大きな仮説です」
「ひきこもりを加速する」を会社のスローガンに掲げる加藤CEOは、アイドルのファンは生身の人間そのものではなく、キャラクターに恋しているのではないかと、さらに踏み込んだ仮説を語る。「アイドルもキャラクターだと思っています。キャラクター文化の一環だと思っているんです」(加藤CEO)
数少ないポリゴンでアバターを表示するのは、帯域やクライアントの処理性能の制約を考えるとエンジニアリング上のテクニックなのかもしれないが、実際には「それで十分」ということらしい。一方で、今回調達した資金は、VR空間やアバターをリッチにしていくコンテンツ制作に使っていくという。3Dモデルはコンテンツもノウハウも流用が効くため、ここで差別化をはかり、そのことでコミュニティーを育てていきたい考えだ。
2次元のカメラ映像や音声を使った従来の「テレプレゼンス」とは一線を画すVR空間ソーシャルサービスとして、ユーザーが納得するものが作れるのか、あるいは実際にチケット代を払って「VR空間に会いに行く体験」を作っていけるのか。エイベックスという強力なコンテンツパートナーと、DeNAというオンラインコミュニティービジネスで知見を持つパートナーを得たことでクラスターは良いスタートラインに立ったと言えそうだ。