Watsonは密かに聞いていた…、複数人のチャットの様子からオススメ店を提案するアプリ

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2月18日に日本語版APIを6つ公開したIBMのWatsonだが、Watsonを使って新しいアプリやサービスを生み出そうというハッカソン「第2回 IBM Watson日本語版ハッカソン」の決勝戦が昨日、東京・汐留にあるソフトバンク本社で開催された。ぼくは審査員の1人としてデモデイに参加したのだけど、AIやチャットUI、音声によるインタラクションを使ったアプリケーションの応用について、いくつか目を引くものがあったので紹介したい。

ちなみに、ここでは「AI」と書いたけど、ハッカソン主催者の1社である日本IBM自身はWatsonのことを話すときに「コグニティブ」(認知)という言葉を使っている。人間と同じように情報から学び、自然な対話から相手の意図を酌むことを指しているそうだ。どんな用語を使ったところで、これは「クラウド」なんかと同様に多数の要素技術を含んだアンブレラタームだ。だから、どうしてもモヤッとした印象が残るのだけど、今のところ具体的には以下のようなAPIが使える。注目は、人間が話しかけたときに、それが何の話題であるかなどを分類する「自然言語分類」(NLC)、機械学習を使った「検索&ランク付け」(R&R)あたりだろう。店員との対話で買い物をするようなインターフェイスが実現できる。

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「AIに聞く」ではなく、「隣でAIが聞いている」

ハッカソン最終日のデモデイで、応募46チームから決勝に残った5チームがアプリ(サービス)を披露した。このうち、ぼくがいちばん面白いと思ったのは、まだ設立まもないスタートアップ企業である「ブライトビュー」のグルメコンシェルジュアプリだ。

今まで「AI+チャット」といえば、検索のように、ユーザーが明示的にクエリ(質問)を投げて、それに対して膨大なデータから関連性の高いものを提示するというのが最も基本にある構図だった。「女の子を口説くのに適したおしゃれなイタリアンでワインのおいしいお店を教えて」というように。1月末に資金調達を発表しているグルメQ&Aサービスの「ペコッター」は、まさにそういう感じだ。

ブライトビューは、これとは違うアプローチだ。

どこで何を食べるのかを複数人でチャットしながら相談することはないだろうか? 少しずつ各人が嗜好やその時の気分をシェアし、場所のリクエストを出すようなチャットだ。ブライトビューが実装しているアプリでは、こうした複数人のチャットを解析して、タイミングよく飲食店をリコメンドするというサービスだ。ポイントは、明示的に「どこかいいところない?」と聞くのではなく、タイミング良く「こんなのどう?」とポンポンとAIが提示してくれるところだ。さらに、「予約して」というキーワードに反応して、予約までしてくれるようになるのだという。面白いのは、予約を迷っていることは言葉遣いやタイミングから読み取れるので、その場合に「お安くしますよ」と割引クーポンを提示するようなことも可能だということ。送客は自明なマネタイズ方法だが、クーポン提示をオプションとして店舗側に対して課金もできるのではないかと考えているそうだ。

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みんなのチャットを実はこっそりWatsonが聞いていて、ほどよいタイミングでアイテムをオススメする。これを実現するために「スルー機能」を実装している。あまり全ての会話に反応したらウザいと言ってリムられるだろうし、何かを提示すべきタイミングで何も発言がないと「使えねぇやつ」となってしまうだろう。

開発したブライトビュー創業者に話を聞くと、この辺のチューニングはまだこれから。果たして人間が「なんだ気が利くじゃないか」と微笑むレベルの実装が可能なのかどうかは、まだ分からない。ただ、複数人のチャットをひっそりと聞いていて、あれこれ情報を持ってくるというアプローチは、あまり聞いたことがなくて、いろんな応用がありそうだと思う。実際、ブライトビューではグルメコンシェルジュ以外にも、旅行にも同様のやり方が使えそうだと検討した経緯があると話していた。具体的な実装面では、店舗アカウントによる1対1トークや、ユーザーごとの嗜好の蓄積もするそうだ。

心疾患の突然死を防ぐ「心臓MRI自動診断」をWatsonで

5チームの中で優勝したのはシステム開発会社のメディアマートのチームが作った「心臓MRI自動診断」だった。心臓MRIといっても馴染みがない人が多いだろう。それもそのはず。早期に心臓とその周辺の疾患を発見できるこの診断ができる医師や技師は不足しているのだそうだ。

MRIはX線による撮像があるCTスキャンと違って、秒間10枚といった高速な映像化ができる。近年、拍動する心臓の立体映像を得ること自体は比較的容易になっている。MRIという設備自体は普及しているので「検査」は可能だ。だが、それを見て心肥大や血栓の兆候などを見つける「診断」ができる医師が不足しているのが現状。

メディアマートが作ったのは、Watsonの画像解析と機械学習のAPIを使ってMRI撮影画像を放り込むというもので、心臓画像診断の専門家である寺島正浩医師による「教師あり学習」によって、Watsonに専門医のノウハウを教えたというもの。実際には画像解析といっても陰影を見つけるようなものだけではなく、性別や年齢、各種血液のデータなどを組み合わせた診断が必要になるそうで、デモは、まだ実装の第一歩ということだそうだ。

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開発したメディアマートのチームによれば、2014年の日本の死亡者数上位はガンの37万人を筆頭に、心疾患19万人、脳血管疾患13万人が上位となっている。心疾患のうち7割は突然死で、この突然死は避けられる。心臓MRIで事前に危険な状態であることが診断できるからだ。

寺島医師のような専門医がいない病院に対して、心臓MRIの診断をWatsonで提供できれば、この診断に対して病院は3〜5万円の診断料を取ることができる。メディアマートでは初年度1億円、3年で15億円ぐらいのビジネスになるだろうとデモでは話していた。もし実用化できれば突然死の悲劇を大幅に減らすことができるのかもしれない。

ハッカソンデモデイの発表では、このほかにも、VRデバイスと音声対話を使った旅行先案内サービス「こまち」(開発はクレスコ)や、ユーザーの時間的余裕や嗜好を考慮して寄り道スポットを提示してくれる「りこなび」(開発は日本情報通信)、「スマートシティコンシェルジュ」(伊藤忠テクノソリューションズ)などがあった。

投稿者:

TechCrunch Japan

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