データ活用で映画の多様性を促進するJumpcutがAtomicから資金調達

Jumpcut(ジャンプカット)の創業者であるKartik Hosanagar(カーティク・ホザナガー)氏は、ウォートンスクールの教授だが、10年ほど前、変わった方法で夏休みを過ごした。脚本を書いたのだ。インドを舞台にした同氏の脚本は、プロデューサーの関心を集めたが、初めて監督を務めるインド人の映画へ資金を提供しようとする人はいなかった。

今では、多様なキャストを起用した映画が注目を集めている。2021年、Chloé Zhao(クロエ・ジャオ)氏が有色人種女性として初めて、また女性としては史上2人目にアカデミー賞監督賞を受賞した。また、前回の授賞式では、Bong Joon-ho(ポン・ジュノ)氏の「Parasite(パラサイト 半地下の家族)」が、英語以外の言語の映画として初めてアカデミー作品賞を受賞した。それでも、マッキンゼー・アンド・カンパニーの最新レポートによると、ハリウッドは業界の多様性の欠如により、毎年100億ドル(約1兆1000億円)を逸している

「少数派の声、少数派のストーリーにどのように賭けるのか」。ホザナガー氏は問う。「意識はあっても行動がともなわない。誰もその方法を知らないからです。私がJumpcutを興したのはそのためです。この会社は、私が20年間取り組んできたデータサイエンスと起業家精神が、仕事以外の場で私という人間と出会うことができる珍しい会社なのです」。

ウォートンでホザナガー氏は「AI for Business」プログラムのファカルティリーダーを務めている。同氏は、2016年にweb.comに3億4千万ドル(約374億円)で買収されたYodleの創業者だ。しかし、その次のベンチャーでは、データサイエンスの経験を生かし、表現力の乏しいクリエイターが携わるメディアプロジェクトのリスクを取り除くことで、ハリウッドの同質性に挑戦したいと考えた。

「ビジョンは、グローバルなコンテンツ制作において、よりインクルーシブな時代を築くことです」とTechCrunchに話した。

ホザナガー氏は2019年にJumpcutに取り組み始めたが、米国時間6月10日、Atomicが投資するこの会社はステルスモードから抜け出し、映画における少数派の声を高めるために活動する初のデータサイエンス主導のスタジオとしてスタートする。すでにこのスタジオでは、合計36回アカデミー賞にノミネートされたLawrence Bender(ローレンス・ベンダー)氏(「Pulp Fiction(パルプ・フィクション)」「Good Will Hunting(グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち)」)、エミー賞受賞プロデューサーのShelby Stone(シェルビー・ストーン)氏(「Bessie(ブルースの女王)」「The Chi」)、ショーランナーのScott Rosenbaum(スコット・ローゼンバウム)氏(「CHUCK(チャック)」「The Shield(ザ・シールド ルール無用の警察バッジ)」)などのパートナーを得て、12のテレビや映画のプロジェクトが進行中だ。

Jumpcutは、Y Combinatorをモデルとしたアプローチで、新しい才能をバイヤーやプロデューサーとペアリングする。まずアルゴリズムを使い、YouTube、Reddit、Wattpadなどのプラットフォームから何十万ものビデオをスキャンし、有望な才能を探し出す。このアルゴリズムは、幅広い分野から絞り込みをかけ、常に新しい視聴者を獲得しエンゲージメントを高めるクリエーターを見つけ出す。そして、Netflix、BuzzFeed、CBS、ソニー、WarnerMediaのアドバイザーや出身者を含むJumpcutチームが、誰とつなげるべきか見極める。

ホザナガー氏は、このアルゴリズムの成功例として「The Expanse(エクスパンス)」や「Shadowhunters(シャドウハンター)」などの番組に出演している女優のAnna Hopkins(アナ・ホプキンス)氏を挙げた。ホプキンス氏はカメラの前で成功を収めているが、執筆活動もしたいと考えている。

「私たちは彼女の短編映画をいくつか発掘しました。アルゴリズムがそれらを割り出した理由は、人々がコメントで『心温まる。良い意味で』とか『ティッシュをちょうだい』などの強い感情的な反応を示したからです」とホザナガー氏は説明する。ホプキンス氏は作家として広く知られているわけではないため、脚本を売り込んだテレビネットワークを通じてJumpcutが見出したのだと同氏は思っていたが、そうではなかった。「私たちは『いえ、私たちのアルゴリズムがあなたを見つけたのです』と話しました」。

Jumpcutがクリエイターを見つけた後は、10万人以上の潜在的な視聴者を対象にアイデアのA/Bテストを行う。その過程で、データサイエンスにより、そのアイデアが売れることを出資者に証明することができる。

「構想としては、クリエイターが従来のハリウッドエージェンシーに見い出されるのを待つのではないということです。クリエイターがトップエージェントにアクセスする必要があるなら、また旧来のボーイズクラブに戻ってしまうからです」とホザナガーは話す。「私たちは、そうしたプロセスの多くを自動化し、ハリウッドのエージェンシーが見つけてくれるのを待つのではなく、視聴者の心に響くすばらしいストーリーを作っている人たちを発掘しています」。

クリエイターは、幅広い視聴者に受け入れられるアイデアを思いついたら、インキュベータープログラムであるJumpcut Collectiveに招待される。このプログラムで、アーティストは6週間かけてコンセプトからピッチまでアイデアを発展させる。次に、Jumpcutがプロジェクトを制作パートナーやバイヤーとマッチングする。

これまでに、Jumpcutは3つのインキュベータープログラムを開催した。ホザナガー氏によると、現在進行中の12のJumpcutプロジェクトのうち、9、10のプロジェクトがインキュベーターから生まれたものだ。例えば、あるプロジェクトでは現在、ディズニーのアジア太平洋部門と提携して制作を進めている。

Jumpcutは、今回のシードラウンドでの調達額を公表していないが、Atomicが唯一の投資家であることは認めた。

ホザナガー氏のこのプロジェクトには、かつての教え子であり、BuzzFeedの元プロダクトマネージャーであるDilip Rajan(ディリップ・ラジャン)氏と、Super Deluxeのオリジナル担当SVPを努め、CBSにも在籍したWinnie Kemp(ウィニー・ケンプ)氏が加わった。ケンプ氏は、ネイティブアメリカンが主役の初の番組「Chambers」や、耳の不自由なクリエイターとキャストを起用した初の番組「This Close」の制作総指揮を担当した。調達した資金のほとんどは、インキュベーターを運営するプロダクト側のエンジニア、データサイエンティスト、プロダクトマネージャー、クリエイティブ側の制作幹部などの給与に充てられる。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:映画資金調達Jumpcut多様性

画像クレジット:Jumpcut

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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