個人で使えるモジュール状の炭素回収デバイスをHoly Grailが開発・試験中、巨大プラントの時代は終わる

2年前にカリフォルニア州マウンテンビューで生まれたHoly Grailの創業者たちは、炭素の回収という特大サイズの問題をミクロな技術で解決しようとしている。

これは、発電所や工業施設などの大規模な集中排出源から二酸化炭素を回収することを目的とした米国内外の数十のプロジェクトとは異なるものだ。Holy Grailの共同設立者であるNuno Pereira(ヌーノ・ペレイラ)氏は、このアプローチによってコストが削減され、許可や資金調達の必要性がなくなるとTechCrunchに語っている。

Holy Grailの前途には長い開発と試験の段階が待っているが、その考え方は著名な投資家とシリコンバレーの創業者たちの関心とお金を捉えた。Holy Grailは最近270万ドル(約3億円)のシード資金をLowerCarbon CapitalとGoat Capital、Stripeの創業者Patrick Collison(パトリック・コリソン)氏、Charlie Songhurst(チャーリー・ソングハースト)氏、Cruiseの共同創業者Kyle Vogt(カイル・フォークト)氏、Songkickの共同創業者Ian Hogarth(イアン・ホガース)氏、Starlight Ventures、および35 Venturesから調達した。従来の投資家であるDeep Science VenturesとY Combinator、そしてCruiseが買収した自動運転車のVoyageの共同創業者であるOliver Cameron(オリバー・キャメロン)氏らも投資に参加している。

ペレイラ氏によると、その炭素回収デバイスはまだプロトタイプで、サイズや稼働時間など、多くの具体的な問題がまだ残っているという。空気から低コストで二酸化炭素を分離することは、難解なものだ。同社はその技術の特許を出願中であり、使用している素材をはじめ、あまり細部を話せないようだ。しかしそれでもペレイラ氏は、炭素回収に関するこれまでとはまったく異なるアプローチの技術だ、と強調している。

「現在の技術は複雑すぎるものです。基本的に、温度や圧力を利用して炭素を回収するためコンプレッサーや煆焼炉など多くの設備機器を必要とします」とペレイラ氏はいう。従来の技術はポンプや極低温空気分離器などの部品、さらに大量の水とエネルギーなどさまざまな要素がある。対してペレイラ氏たちが使用するのは、二酸化炭素を固定する化学反応を制御するための電気だ。同氏によると、Holy Grailのデバイスはコスト低減を達成するためにスケールメリットに依存しないという。また、モジュール構造なので、積み重ねたり顧客の要件に応じて構成ができる。

ペレイラ氏が「scrubbers(スクラバー)」と呼ぶそのデバイスは、二酸化炭素の変換(二酸化炭素を燃料に変換すること)ではなく、二酸化炭素を「そのまま」取り出す。説明によると、まだ最終製品の姿は未定ではあるが、Holy Grailのユニットがいっぱいになったら同社が回収するようになるとのこと。ただし、炭素がその後どうなるかは未定だ。

同社は、まずカーボンクレジットの販売を開始する。その際、同社のデバイスを炭素削減プロジェクトとして利用する。最終目標はスクラバーを商業利用する顧客に販売し、将来的には個人にも販売する。そうHoly Grailは、あなたにも自分用の炭素回収装置を買って欲しいのだ。そして、家の裏庭に置いて欲しい。とはいえ、そこまでの道のりはまだ相当長いようだ。

「もはや、私たちはメガトン級のプラントを作ってプロジェクト管理をするという規模では物事を考えません。スクラバーは、消費者プロダクトを作るときと同じような組み立てラインで生産します」とペレイラ氏は語る。

同氏によると、大気中の二酸化炭素量を減らすという大きな問題は、「あまりにも大きな問題」であるため複数のアプローチで解決に取り組むことが必要だという。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Holy Grail二酸化炭素資金調達

画像クレジット:Holy Grail

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hiroshi Iwatani)

投稿者:

TechCrunch Japan

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