BNPLが続々と

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。

みなさんこんにちは。私はAnna(アナ)。今現在、当然の権利である短い休暇を楽しんでいるAlex(アレックス)記者の代わりに今回の記事をお届けする。The Exchangeも1週間お休みしたが、ニュースは止まることはない、では始めよう。

先買い後払い(BNPL、Buy Now, Pay Later)スペースは、フィンテックの中でもっともホットな業界の1つだ。少なくとも2020年8月にSquare(スクエア)がオーストラリアのAfterpay(アフターペイ)を買収するために、驚異的な290億ドル(約3兆1900億円)を費やすと発表して以来そうなったということができるだろう。しかし、今週はその状況に本当に火がついて、報道価値のあるBNPL関連の発表が続々と行われた。詳細を見てみよう。

最大のニュースは間違いなくPayPal(ペイパル)が日本のPaidy(ペイディ)を27億ドル(約3000億円)で買収するという決定だったが、Amazon(アマゾン)がMaxLevchin(マックス・レブチン)氏のAffirm(アファーム)との契約を結んだこともも大きな動きだった。米国を拠点とするAmazonの買い物客が50ドル(約5500円)以上の購入で後払いが可能になるこの機能は、BNPLが主流になりつつあることを示す明確な兆候ではないだろうか。

関連記事:米PayPalが日本のペイディを3000億円で買収、アジアで「BNPL」後払い市場に参入

そして、それは世界をリードする電子商取引市場(eコマース)のほんのひと握りのプレイヤーだけに限った話ではない。最近のラウンドに反映されているように、世界中のBNPLスタートアップが成長しているのだ。例えばヨーロッパに焦点を当てたScalapay(スカラペイ)は7億ドル(約769億円)の評価額で1億5500万ドル(約170億3000万円)を調達したが、一方コロンビアのAddi(アディ)はシリーズBを7500万ドル(約82億4000万円)拡大して合計1億4000万ドル(約153億9000万円)にしたことを公表した。

AddiのMary Ann Azevedo(メアリー・アン・アゼベド)氏はTechCrunchに対して「いまやBNPLはどこにでもあります。ラテンアメリカも例外ではありません」と書いてきた。だが、これは同じモデルをコピーアンドペーストしたものではない。市場が異なればニーズも異なり、重要な内容の調整につながる。その中で主なものは?BNPLは必ずしもeコマースと同義ではないということだ。

実際のところ、Addiのパートナーには実店舗も含まれている。これは、eコマースは急速に成長しているものの米国と同じレベルにはまだ達しておらず、それでも分割払いはすでに行われている市場では理解できる現象だ。しかしそれはまた、eコマースや小売を超えたBNPL自身の自然な拡大としても起こっている。

サンフランシスコを拠点とするスタートアップのWisetack(ワイズタック)は、この流れの良い例だ。同社はHVAC(空調システム)の修理から配管までをカバーする訪問型ホームサービス企業たちに、BNPLサービスを提供している。Wisetackはこの非常に断片化された業界に対して、業界特化型SaaSプロバイダーのHousecall Pro(ハウスコールプロ)やJobber(ジョバー)などと組んでプロを取り込むことで、巧みにアプローチしている。ああ、それから同社は4500万ドル(約49億5000万円)を調達したばかりだ

小売を超えて拡大するBNPLに特に見られがちなのは、より大きな支払いに広がっているということだ。例えばWisetackのCEOであるBobby Tzekin(ボビー・ツェキン)氏によると、サービスベースの企業に対する購入価格は平均4000ドル(約44万円)から5000ドル(約55万円)になるという。BNPL企業にとってはエキサイティングな話だ……だがその一方で、この新しいセグメントをすでに調査中の規制当局からの監視が、強化される可能性もある。

BNPLは無利子かつクレジットカード決済の代替手段として捉えられているが、公的機関や消費者保護団体は、顧客による過剰支出やリスクの過小評価を助長する可能性があるとの懸念を表明している。

この懸念は英国EUでの規制の強化につながり、そのことはBNPL大手Klarnaの(クラーナ)の「あり得るが差し迫っていない」IPOに影を落とす可能性がある。CrunchbaseによればKlarnaはこれまでに37億ドル(約4066億円)を調達している。同社がAffirmの跡を追って公開することは論理的だが、タイミングは重要だ。

関連記事:後払い販売(Buy-Now-Pay-Later)が英国で規制対象に

非常に多くの資金がこのセクターに流れ込み、統合もすでに行われているので、注目し続けておけば間違いなくおもしろいだろう。

Factorial、WaveそしてSPAC

The Exchangeは今週休止していたものの、TechCrunchとExtra Crunchで消化すべき話題はたくさんあった。以下に私の注意を最も引いたものを並べる。

Factorial(ファクトリアル)とSMB(中小企業)への賭け:スペインのHRスタートアップであるFactorialは、5億3000万ドル(約582億円)の評価額の下で、シリーズBラウンド8000万ドル(約87億9000万円)を調達した。これはそれ自体注目に値するが、Tiger Globalが主導していることでも注目に値する。しかし、私のお気に入りの部分は、SMBにサービスを提供することでお金が得られることに、スポットライトを当てていることだ。

ちょっと宣伝:これは私が数週間前に書いたExpensifyEC-1での重要なポイントでもあった。

TechCrunchのIngrid Lunden(イングリッド・ランドン)記者が指摘したように、Factorialの台頭は「エンタープライズテクノロジーの世界が、ようやく大規模な組織向けに構築されたツールを小規模な顧客向けにライトサイズ(適切なサイズ)で適用することに注意を向け始めた、はるかに長期的で大きなトレンドの一部」なのだ。

通常、ライトサイジングとは、製品の不必要な複雑さを回避することを意味する。多くの場合、既存のエンタープライズ相手の企業ではなく、それのみに焦点を当てている企業が得意としている。そして、それは単なる一時的な流行りではない。各企業がこの先もずっと集中していくことができるセグメントとして理解されているのだ。

資金調達の波:先週の初め、アフリカはこれまでで最大のシリーズAを記録した。モバイルマネーのスタートアップWave(ウェーブ)の2億ドル(約220億円)のラウンドが行われた。評価額は17億ドル(約1868億円)で、今回の調達は、米国とセネガルに拠点を置く同社を、アフリカのフランス語圏における初のユニコーンに変えた。

このマイルストーンに最初に到達したのがフィンテック企業だったことは当然のことだと、Tage Kene-Okafor(タゲ・ケネ=オカフォー)氏はいう。アフリカ大陸ではフィンテックがVC資金の大部分をずっと引き付けてきたからだ。アフリカのスタートアップシーンに関するニュースレターであるSubstack(サブスタック)のThe Big Deal(ザ・ビッグ・ディール)によれば、2021年前半にアフリカのスタートアップに流入したベンチャーキャピタルの48%がフィンテックに投資されている。今回の巨大なラウンドによって、年次集計をチェックするときには事態がさらに偏ったものになっている可能性がある。

より高いレベルから見た場合、これはアフリカのテックセクターが2021年に記録を更新するだろうという予想を裏付けているように思える。これは特に厳しかった2020年以降、より一般的には資金不足の文脈から眺めると望ましい状況だ。

関連記事:2021年のアフリカへのVC投資は史上最高額を記録するとの予測

SPACすべきか、SPACせざるべきか:ブルームバーグによると、Traveloka(トラベローカ)はPeter Thiel(ピーター・ティール)氏のBridgetown Holdings(ブリッジタウン・ホールディングス)とのSPACを介して公開する計画を撤回している公開するかしないかで迷っているのではない:旅行業界ニュースサイトSkift(スキフト)で、Travelokaの広報担当者は公開を「さらなる事業を成長させる願望を抱くカテゴリリーダーとしてのTravelokaにとって、自然な進化です」と説明している。

インドネシアの旅行大手が考慮しているのはその公開へ至る道筋だ。情報筋によれば、SPACが「支持されなくなった」ために、同社は代わりに伝統的な米国のIPOを選択する可能性が高いとブルームバーグに語っている。これらはブルームバーグによる表現で、私の意見ではない。私はそう言い切るにはまだ少し早いかもしれないと思っている。

確かにこの2月によく見かけた「SPAC投資で常に勝つのは、売り手だ、一般投資家はそうでもない」という批判的見出しの中で、規制強化が迫っているのは間違いない。

それにもかかわらず、私の同僚であるRyan Lawler(ライアン・ローラー)記者が、先週大いなる反例を持ち込んできた。Better.com(ベター・ドット・コム)が、SPACのAurora Acquisition Corp(オーロラ・アクイジション・コープ)と「約77億ドル(約8462億円)の投資後評価額」で合併する予定だ。両者のCEOによれば、従来型のIPOは、簡単に業種を分類できる企業にとっては理に適っているという。しかしSPACは、ライアン記者が書くように「他の金融サービス会社と比べて、単に住宅ローンの貸し手と見なされるよりも大きな野心を持つ」Better.comのような会社に適しているかもしれない。

これは例外的なものだろうか?おそらくはそうだろう。しかしそれはまた、SPACがまだプレイするカードを持っているというサインかもしれない。

では今回はここまで。The Exchangeは月曜日から通常のスケジュールに戻る予定だ。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文: Anna Heim、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。