【レビュー】Urtopiaのeバイクはまるで車輪付きコンピューター

自転車の電動化といえば、これまでは単に「自転車に電動モーターを搭載したもの」を意味していた。上位モデルには、便利な機能がいくつも搭載されているかもしれないが、基本的には「シンプル・イズ・ベスト」とされていた。しかし、中国を拠点とする最新のeバイク(電動アシスト付きスポーツ自転車)ブランドUrtopia(ユートピア)の考えは違う。そのデビューモデルは、これまで見てきた中でも最もハイテク仕様のeバイクの1つであり、そのスペックシートは、次世代eバイクというよりも、まるでスマートフォンのようだ。

例えば、3段階のライディングアシスト機能を備え、推定航続距離は30~80マイル(50~130キロメートル)とされる250Wのハブモーターの他、ドットマトリックスディスプレイ、指紋リーダー、GPS、4G通信(eSIM利用)、車両検知用のミリ波センサー、内蔵アラームなど、数々の機能が搭載されている。

バイク自体は、2021年最も先進的なテクノロジーを備えたモデルであることを隠すことなく、印象的な美しさを放つ。BMW(ビーエムダブリュー)やIKEA(イケア)などでのキャリアを持つMathis Heller(マティス・ヘラー)氏がデザインした、滑らかな曲線とレーシングラインのフレームが特徴的だ。また、すべてのワイヤーをフレーム内部に隠すことで、ステルス爆撃機のような外観を実現している。ユートピアはシティサイクルとして売り込まれており、取り外し可能なバッテリーは目立たないものの、単なる足漕ぎ自転車ではないことは一目瞭然だ。

このバイクが届いたとき、筆者は組み立てるのが不安だった。これまでの経験から、複雑ではなくとも、セットアップのために、それなりの時間と場所を確保する必要があると考えたためだ。しかし実際には、筆者が試したプロトタイプモデルでは、前輪を装着し、ポンプでタイヤに空気を入れるだけで、問題なく使用できた。

画像クレジット:James Trew / Engadget

ガジェットファンにとっての魅力は、間違いなく「スマートバー」と呼ばれるハンドルバーに内蔵されたオンボードコンピューターだろう。ハンドル中央に据えられたドットマトリックスディスプレイは、まさに「未来から来たバイク」という雰囲気を醸し出している。また、ハンドル右側の通常ベルがある位置には、コンピューターをいくつかの方法で操作するための指紋リーダーがある(デジタルベルでもある)。そして、左側には4方向のDパッド(十字キー)があり、モードや設定を変更したり、バイクの電源をオンにしたりできる(オフにはできないが、これについては後述する)。

スマートな機能が数多く列挙されているが、筆者の試用のために送ってもらった試作機では、そのすべてを試すことは出来なかった。ミリ波センサーのハードウェアは実装されているものの、それを起動する方法がない。また、GPSとeSIMの動作にはコンパニオンアプリが必要だが、これもまだ用意されていない。残念ながら、これらの非常に興味深い機能については、今後の状況を見守る必要があるが、その他のほとんどの機能は正常に動作している。

興味深い機能の前に、パワー、スピード、距離などのeバイクとしての基本的な機能について見ていくと、これまでに筆者が試乗した他のハブモーターバイクと同等であるように感じた。例えば、最近テストしたTenways(テンウェイズ)のシティサイクルは、250Whのバッテリーと250Wのモーターを搭載している。対するユートピアのバッテリーセルは360Whだ。しかし、どちらも250Wトルクベースのブラシレスハブモーター、および同じGates(ゲイツ)製のカーボンベルトを使用している。

バイクの電源を入れると、さらにエキサイティングなことが起こる。スマートバーのスピーカーからは「ビューン」という音が聞こえ、ディスプレイに会社のロゴが表示された後、デフォルトのスピードメーター表示に戻る。一部のサウンドはユーザーが設定できるようになっているとのことだが、それにはサウンドをオフにするオプションも含まれていることを期待する。まず乗る前には、操作方法に慣れておきたいものだ。Dパッドを上下に動かすと、アシスタンスレベルが切り替わる。アシスタンスレベルには「ペダル」「エコ」「コンフォート」「スポーツ」のモードがあり、スロットルモードに相当する「ターボ」モードもある。

ユートピアのeバイクは、方向指示を地面に投影する。

画像クレジット:James Trew / Engadget

Dパッドを左右にタップすれば、方向指示が地面に投影される(ライトが点灯しているときは点灯したままだが、左右に曲がり始めると点滅に変わる)。しかし、実際にライトを点灯させるためには、バイクに話しかける必要がある。つまり、手動での操作はできず、音声でのみ操作ができるということだ。

ここからが少しおかしな点だが、ユートピアはプレス資料の中で、音声認識システムは完全には「学習」していないと警告している。しかし、筆者の場合は完璧に動作した。もしかしたら、くもった声のイギリス人でしか学習していないのだろうか。とにかく、ライトを点灯させるには、指紋リーダーに指を置き少し待つと、ディスプレイに顔のアイコンが表示され、Knight Rider(ナイトライダー)のMichael Knight(マイケル・ナイト)のようにコマンドを発することができるのを知らせてくれる。これはすばらしいことだが、それでもやはり、公共の場で自転車に話しかける必要がないように、物理的なスイッチが欲しいところだ。また、特に走行中は風の音などでスマートバーに声が届きにくくなることもある。そのため、ちょっと立ち止まったり、ハンドルに顔を寄せて走ることになるが、どちらもあまりエレガントとはいえない。

現在、音声で操作できるものは、アシストモードの変更、バイクのロック、方向指示、スマートバーの音量変更などだ。これらのうち、音量(とライト)以外は、物理的な操作も可能だ。音声での操作は、ハンズフリーの選択肢を提供する気の利いたアイデアだが、実際には、ボタンを押すだけの操作よりもどれほど便利なものかは疑問だ。

また、必ずしもテクノロジーが行き届いていないと感じる機能としてベルがある。このバイクでは、指紋リーダーに内蔵されており、指紋リーダーを長押しすると音声認識が作動し、短押しすると「リンリン」というデジタル音が鳴る。機能はするのだが、物理的なベルのように反応がよいわけではない。人の後ろから近づいていったとき、自分の存在を知らせたいと思って指紋リーダーを押しても、すれ違ってから0.5秒後にベルが鳴るということもあった。また、ベルを鳴らすために2、3回押してみなければならないこともあった。

画像クレジット:James Trew / Engadget

アラームの使用感についても、少し改善の余地がある。自転車を「ロック」した状態で離れたときに、誰かが動かすとアラーム音が鳴るというアイデアは気に入っている。問題は、ユートピアをロックしている間はいつでもこの機能が働くということだ。基本的に「ロック」とは「スタンバイ」であり、バッテリーを接続するとすぐに自転車がこのモードになることを知るまではこの問題に気づかない。つまり、バッテリーを接続した後、バイクを玄関から運び出そうとすると、アラームが鳴ってしまうのだ。

これを簡単に止める方法はあるが、完全に解決するというわけではない。eバイクの電源を入れれば、アラームは解除される。公正な立場でいえば、これはプロトタイプであるがゆえの不完全さだ。製品モデルでは、指紋センサーやコンパニオンアプリでアラームを無効にすることができるとのことだが、筆者がテストしているバイクでは確認できない。現時点では、バッテリーを取り外す以外にこのeバイクの電源を切る方法はないが、これらの不備が発売までに解消されることを祈っている。筆者はユートピアの担当者にそういった計画について訪ね、その予定であることを確認した。

さて、技術的な話はさておき、実際の乗り心地はどうなのだろうか。座ったときの姿勢は、一般的なシティサイクルのような直立姿勢ではなく、ロードレーサーのような前傾姿勢になる。Velo(ベロ)のサドルはかなり硬く、ゲルクッションが施されているようには見えず、もう少しお尻に優しい方がよいかもしれないが、中・長距離ライドをしても快適だった。最長で11マイル(約18キロメートル)走ったが、まだまだ走れると感じた。

ペダルモードでは、このタイプのハブでありがちなモーターからの気になる抵抗はない。カーボンファイバー製のボディのおかげで、13kg、30ポンドとeバイクとしてはかなり軽量だ。つまり、バッテリーを使用しない場合でも、普通の自転車として機能する。しかし、Dパッドをタップすると、すぐに快適になる。他のeバイクと同様に、ユートピアは地域によってパワーアシストに制限がある。米国モデルでは時速20マイル(時速32キロメートル)に達するまでアシストが働き、EUモデルでは時速16マイル(時速25キロメートル)がアシストの上限となる。

画像クレジット:James Trew / Engadget

3つのパワーモードは、いずれもかなり速く感じられる。つまり「エコ」モードでも、快適に走れるということだ。「コンフォート」モードにすると、目的地にたどり着くまでに必要なパワーがほぼすべて得られ、運動とアシストのバランスが取れる。「スポーツ」モードでは、上限が標準設定されているにもかかわらず、非常に速く感じられる。他の人が近くにいるときは、よい意味できびきびとした操作感が得られるため、よくコンフォートモードに戻していた。

eバイクにすべてを任せ、リラックスして走りたい場合は、ターボモードがある。Dパッドの「上」を長押しすると、軽いペダリングでもすぐに時速20マイル(時速32キロメートル)に達する。レーシングスタイルの外観と前傾姿勢となるシートポジションのため、ほとんど力を加えず快適に走ることができる。

それを踏まえて、航続距離についても触れておく必要があるだろう。ユートピアは、30~80マイル(50~130キロメートル)のアシストが可能だとしている。もちろん、これは地形やどのパワーモードを使用しているかによるため、かなり幅のある推定値となっている。筆者はまだバッテリーを使い切っていないが、10マイル(約16キロメートル)の走行でも、スマートバーのバッテリーインジケーターは、かなり少なくなっているように見えた。これがプロトタイプゆえの特性なのか、単にバッテリーの減りが早いだけなのかはわからない(これについては、最終モデルの出荷までに最終的なファームウェアで改善されるのかどうかは不明だ)。

GPSと4G接続について、ここまで触れていなかったのはそのためだ。筆者にとって興味深いセールスポイントは、ほぼいつでも地図上でバイクの位置を確認できることだ。同社によると、4G接続用のデータバンドルを年間約30ドル(約3400円)で提供する予定とのことだが、万が一、バイクが行方不明になっても、どこにあるか位置を特定できるという安心感を考えれば、かなりリーズナブルといえるだろう。疑問は、スタンバイの状態でGPSと4Gを作動させていた場合、バッテリーの消耗にはどの程度の影響があるのかということだ。残念ながら、この疑問の答えは最終モデルの販売を待つことになる。

ミリ波センサーについても同様の疑問があるが、これも現在はテストできない。

画像クレジット:James Trew / Engadget

現時点でこのeバイクについてわかったことは、乗っていてとても楽しく、軽量なおかげでかなり扱いやすいということだ(筆者はアパートの5階に住んでいるため、小さなエレベーターに押し込めるのはありがたい)。テクノ調のスタイリングは、万人受けするものではないかもしれないが、筆者はとても気に入っている。そして何よりも、たとえ一部の主要な機能がまだ準備できていなかったとしても、これほどまでに先進的なテクノロジーを見ることができたのはうれしいことだ。準備ができればまた試してみたいし、同社と話した限りでは、まださらに何かありそうな気がした。冗談で、スマートバーのスピーカー(このeバイクにはBluetoothが搭載されている)で音楽を聴けるようにすべきだと提案したところ、同社はそういった新機能を提供するために必要なOTA(Over-The-Air、4G接続による)アップデートは可能だといってくれた。

現在、ユートピアはIndiegogo(インディーゴーゴー)で先行予約を受け付けている。そのため、正規の注意事項が適用されるが、筆者が受け取ったプロトタイプが最終モデルに近いことを考えると、これ以上の開発は必要なく、残っている機能の微調整を行うだけのように思われる。予約注文をすると、2000ドル(約22万7000円)で購入することができる。これは、このeバイクの追加機能が有効になっていないとしても、十分に魅力的な価格だ。キャンペーンによると、この価格は、小売店に並ぶときには2倍近くになるとのことなので、このeバイクに魅せられた方には早めに購入する価値があるだろう。

編集者注:本稿の初出はEngadget。執筆者のJames CrewはEngadgetのエディター。

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(文:James Trew、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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