環境コンサルティングなどを行う東大発の環境移送企業イノカは1月6日、人工的にサンゴ礁の海を再現した閉鎖系水槽において、サンゴの抱卵時期のコントロールに国内で初めて成功した。自然界では1年に1度と限定的なサンゴの抱卵を人為的に導くことが可能となり、20年後には70〜90%が消滅すると心配されているサンゴ礁保全に貢献することが期待される。
イノカでは、水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係性など、多岐にわたるパラメーターのバランスを取りながら、IoTデバイスを用いて特定地域の生態系を自然に限りなく近い状態で水槽内に再現するという同社独自の「環境移送技術」により、完全人工環境下でサンゴの長期飼育を行っている。今回の実験では、沖縄県瀬底島の水温データをもとにして、自然界と時期をずらして水温を同期させることで、サンゴ(コユビミドリイシ)の抱卵時期をコントロールすることに成功した。
このサンゴは、イノカの水槽で2年以上飼育されているもので、2021年8月時点では抱卵は確認されていなかった。今回の抱卵は、黒潮流域の生態系に関する調査研究を行っている黒潮生物研究所の目崎拓真所長も画像データから確認を行った。
サンゴ礁は、海の表面積のわずか0.2%ながら、そこに海洋生物の25%が暮らしているという。また、護岸効果や漁場の提供、医薬品の発見など人間の社会生活に重要な役割を担っている。その経済価値は、WWFの報告によると、50年間で約8000億ドル(約92兆円)とも推定されている。この実験が進み、サンゴが、ハツカネズミやショウジョウバエのように何世代にもわたる研究調査が可能なモデル生物に加われば、サンゴの基礎研究が大きく進み、サンゴの保全に寄与することが考えられるとイノカでは話している。
今後は、完全人工環境下での今年中のサンゴの産卵に向けて、実験が継続される。