消費者が自分のプライバシーデータを企業と共有、その見返りが得られるプラットフォームCadenが3.9億円調達

起業家のJohn Roa(ジョン・ロア)氏は、プライバシーの価値を信じている。2015年にデザインコンサルタント会社ÄKTAをSalesforceに売却した後、ロア氏はヨーロッパの島で数年間「世間から離れる」ことにした。

そして今、同氏はニューヨークに戻り、消費者が自分のデータを企業と共有し、その見返りとして報酬を得ることができるようにするスタートアップCaden(カデン)を立ち上げた。同氏はSalesforceで働いていたとき、長期休暇を始める直前に、データプライバシーの未来に関する論文の形で事業計画を書いたとTechCrunchに語っている。

事業計画を書いたときは「純粋に推論的なもの」だったとロア氏はいう。同氏は、サードパーティのデータ、つまり受動的に収集されたデータを保存する際に、規制によって企業に問題が生じると予想した。そして、ユーザーが自分の個人データを所有し、その使用について完全にコントロールして同意する「プライバシーファースト」の世界へ長期的には移行することを想定していた。

340万ドル(約3億9000万円)のプレシードラウンドでステルスモードから抜け出したばかりのCadenは、そうした世界を構築するためのロア氏の試みだ。このラウンドには、TechCrunchの親会社であるYahoo!の共同創業者Jerry Yang(ジェリー・ヤン)氏が、Starwood CapitalのBarry Sternlicht(バリー・スターンリヒト)氏、Citigroupの元CTO、Don Callahan(ドン・キャラハン)氏、その他のエンジェル投資家とともに参加した。

Cadenの創業者ジョン・ロア氏(画像クレジット:Caden)

同社は自らを「ゼロパーティ」データプラットフォームと呼んでいる。これは、ユーザーが自発的にのみブランドとデータを共有することを意味する。同社の主力製品の1つは、ユーザーが個人データを保存し、そこから導き出される洞察を見ることができる暗号化された「デバイス上の金庫」だ。この機能をロア氏は、Spotifyの「Year in Review」になぞらえたが、より広範な嗜好や行動パターンを網羅している。

Cadenの2つ目の主力製品はLinkと呼ばれるAPIで、ユーザーは自分のメールや銀行などのアカウントに接続し、データを抽出して金庫に保存することができる。ひとたび金庫に保存されると、ユーザーはCadenに保存されたデータの最終的な所有者であるため、いつでも信用する特定の企業にデータ使用の許可を与えたり、あるいは許可を取り消したり変更したりすることができる、とロア氏は話す。

同氏のチームは9カ月前にこの技術に取り組み始め、今後6カ月以内にベータ版のモバイルアプリを市場投入する予定だ。同氏はこのアプリを預金口座に例え「ユーザーは自分のデータに対する報酬をすぐに受け取り始めることができるようになる」と述べた。

米国の大多数の州では、2018年に制定されたカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)と同様の法案が成立、または検討されている。この法律では、消費者は企業による自身の個人情報販売をオプトアウトする権利が与えられている。企業は長年にわたってユーザーに関するサードパーティデータを収集してきたが、監査やコンプライアンスの要件が厳しいため、企業にとってサードパーティデータ収集は「資産というより負債」になっているとロア氏は話す。「ゼロパーティ」のデータは、ユーザーから直接取得するため、より正確で堅牢だと付け加えた。

Cadenは、まず消費者ブランドを引き付けたいと考えている。なぜなら、データへのより良いアクセスによって得られるものが最も大きいからだと、投資家のジェリー・ヤン氏はTechCrunchに電子メールで語った。

「データの収集と保存、洞察の推測、保護、サードパーティデータの購入、そしてそれらをすべて最新に保つためにどれだけの努力とリソースが必要でしょう。Cadenは多くの企業が自分たちでそれをせずに利用できるようなプラットフォームソリューションを作り出しているのです。最初の段階を超え、Cadenは消費者向け企業をしのぐことができると確信しています」とヤン氏はいう。

この分野に進出した企業は、Cadenが初めてではない。Datacoup(データクープ)は2012年に、ユーザーが自分のデータを企業に直接販売できるプラットフォームとして挑んだ。しかしユーザーがわずかな金額しか稼げなかったため、2019年に閉鎖に至った。消費者データは価値を評価するのが難しく、企業はその対価をできるだけ少なくする方法を探そうとする。

ロア氏は、Cadenが優れたユーザー体験を提供することでこうした課題を克服できると考えている。

一般にブランドは、ユーザーにデータを返したがらないが「今は、法律的には返さなければなりません。しかし、その手間を省く必要はありません」とロア氏は述べた。

「Cadenや他社がやっているのは、完全にユーザー主導のプロセスをより合理的なものにする方法を考案することです。ですので、サードパーティにデータを返すよう促す必要はないのです」と付け加えた。

また、直接的な支払いだけでなく、より良いブランド体験を通じて、消費者のために無形の価値を引き出したいと同氏は考えている。

「Cadenを使うことで、あなたの生活が少し楽しくなったり、あなたのためになることがあったり、話しかけられたりする。当社が注力している価値のポイントです。そしてこの点は、同業他社の多くが苦労しているところです」とロア氏は述べた。

画像クレジット:Caden

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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Nariko Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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