九州大学(戸田裕之主幹教授、王亜飛特任助教)は2月7日、岩手大学、京都大学、高輝度光科学研究センターと共同で、高強度アルミニウム合金に脆弱化をもたらす水素に対処し、さらなる高性能化をもたらす手法を確立したと発表した。これにより、20世紀初頭からあまり進んでこなかったアルミニウム合金の高強度化が大きく発展することになる。
金属に水素が入り込むと、「水素脆化」という現象により強度が低下するという。アルミニウムも水素脆化の影響を受ける。水素を取り除くことができれば強度は増すが、水素はもっとも小さな元素であるため、その存在の可視化や解析は極めて困難であり研究は進まず、1900年代初頭から飛躍的に強度を増した鉄鋼に対して、アルミニウムの進化は鈍かった。
そんな中、同研究グループは2020年、大型放射光施設SPring-8で3D画像を連続的に撮影する4D観察と、スーパーコンピューターによる原子シミュレーションにより、水素脆化を引き起こしているのがナノ粒子であることを突き止めた。このナノ粒子には、アルミニウム内のほとんどの水素が集まっていた。その水素の集中によりナノ粒子は自発的に崩壊し、アルミニウムが破壊される。アルミニウムから水素自体を取り除くことはきわめて難しい。そこで研究グループは、ナノ粒子よりも水素を引く付けやすいものを添加することを考え、研究を進めた。その結果、意外にもアルミニウム、鉄、銅という平凡な元素を含むミクロ粒子に、水素を強力に引きつける力があることがわかった。
この「水素脆化防止剤」を導入すると、ナノ粒子に引きつけられた水素は、94.5%から34.6%に減少した。しかし、今度は大量の水素を引きつけたミクロ粒子が水素脆化を引き起こすのではないかと疑問を抱いた研究グループは、再び4D観察によりミクロ粒子の破壊挙動を確かめたところ、水素脆化防止剤による破壊は見られなかった。
特に航空産業では、アルミニウムに代わって炭素繊維複合材料が使われるようになっているが、製造・加工・修理のコストと信頼性の面から、軽量で高強度なアルミニウム合金への期待は高い。この手法を用いることで、アルミニウム合金はより強くなり、より薄く延ばすことも可能となり、利用価値は高まる。
また、リサイクルされたアルミニウムの場合、どうしても鉄が混入しアルミニウムの性能を落とすという課題がある。そのためにアルミニウムのリサイクルが拡大しない要因になっているという。しかしこの研究成果を応用して、「リサイクル時に増える有害な鉄を有益な水素脆化防止剤として活用することで、高強度なアルミニウムのリサイクルを促進する効果も期待されます」と研究グループは話す。
現在は、アルミニウムの水素脆化を防ぐさらに有効なミクロ粒子を探すべく、原子レベルの大規模シミュレーションによる探索を進めているとのことだ。