今週はビッグプレーヤーの大きなニュースが続いた。
ぴったり合ったパズルのピース
AppleとIBMが、ハード、ソフトで全面提携した。これは、様々な意味で大きな出来事だ。何よりもまず、IBMの著名なモットー “Think” に対抗して、ステーブ・ジョブズが “Think Different” を掲げたあのAppleが、その相手と「同じ」ことをしようとしているのだから。
しかし実際には、IBMはとっくにパソコンビジネスから離れており、現時点でAppleと衝突する部分は殆どない。提携は、Appleが弱いエンタープライズと、IBMが弱いモバイルデバイスを、互いに補完するものであり、両社CEOの言う、「ぴったりと合うジグソーパズルのピースのような関係」という表現がぴったりだ。
それにもかかわらず「意外」さを感じる人が多いのは、Think Differerentの話ともつながるが、Appleの「イノベーティブ」な製品の印象、あるいは憧れからなのだろう。ジョブズの没後、『沈みゆく帝国』と指摘されることもあるAppleだが、この提携こそ、CEO ティム・クックらしさの出た行動の始まりかもしれない。実際に新事業が動き始める今秋に注目したい。
マイクロソフト、大量レイオフを発表
1万8000人の人員削減を発表―うち1万3000人は今年中にレイオフ
こちらは重苦しいニュースだ。かねてから噂されていたMicrosoftの大量人員削減が現実になった。レイオフ対象者1万8000人というのは大変な人数だ。現在同社の従業員数は12万7000人程度とされているので、その15%程度に当たる。レイオフの理由や対象部門は様々だが、最も大きいのはノキア買収に関わる人員だ。約2万人をノキアから受け入れたものの、今回そのうち1万2000人が退職を余儀なくされる。
Microsoftの決定に対しては、政界から厳しい批判が寄せられている。中でもジェフ・セッションズ上院議員は、以前Microsoftが他社と共に、外国人技術者を受け入れやすくするために、ビザ発給の増加を要求していたことを指摘して、「人手が足りないのか、余っているのかどっちなんだ」と不信感を露わにした。もちろん、個別に特定の技術者を雇うことと、余剰人員を削減することを同列には論じられないが、安定雇用という面から見て、Microsoftが非難されるのは仕方ない。ノキアの地元、フィンランドでも政界から批判が出ている。
一方では、IntelとMicrosoftが、PC市場の好転を受け10数年ぶりの高値を記録したというニュースもあった。
Kindle、読み放題プランをスタート
Amazonは、月額9.99ドルで、電子書籍やオーディオブックをいくらでも読めるサービス、Kindle Unlimitedを開始すると発表した。利用者は、60万タイトルに上る書籍を自由に読み、聞くことができる。Amazonは、ビデオでもAmazon Prime Videoという見放題のサービスを提供している。
Unlimitedサービスで読める本は、Kindle本全種類ではなく、いわゆるビッグ5と呼ばれる出版社は参加していないようだ。最近のHachetteに関するニュースをはじめ、出版社とAmazonの確執は続いている。記事にもあるように、Oyster、Zola Booksなどとオンライン書籍サービスは、こうした大手出版社の「アンチAmazon」感情に助けられている面もある。しかし、ビジネスとして成功するかどうかは別の話だ。
ちなみに、日本でも今年4月に、緑風出版などの中小出版社が、アマゾンへの出荷停止を決めたというニュースがあった。
画面の文字がきれいになる
AdobeとGoogleが提携して中国、日本、韓国語用にオープンソースフォントを提供することになった。
Googleは、Chromeブラウザーに関してはWindowsやMacなどのOSが提供するフォントを利用できるが、Android用には自らフォントを提供する必要がある。標準では、Droid Sans Japanese等のフォントが提供されているが機種によっても異なる。このたび公開された日本語フォントは、オープンソースで無料なので、当然Androidでも広く利用されることになるだろう。
ところで、Googleにとって「オープンソース」はもはや必須のキーワードとも言えるので、フォントもオープンソースが当然かもしれないが、かたやAdobeにとってフォントは命ともいえる存在。その両者が手を組んだ点も興味深い。
フォントのデザインそのものはAdobe(の日本支社)が中心となって行い、各国での提供方法やプロジェクト推進はGoogleが指揮をとったそうだ。われわれ日本人にとって大変ありがたいニュースだが、TechCrunch本家でも大きく扱われた。
フォントとは直接関係はないが、Windows版Chromeの文字がきれいになる、というニュースもあった。上にも書いた通り、Chromeの表示に使われるフォントは、OSが提供するものが使われる。一般にMacの方が文字が美しいという声はよく聞くが、ことChromeに関しては「Windows版が特にひどい」ということだったらしい。画面アクセスに古いインターフェースを利用しているため、最近の高解像度画面には不適切だとのこと。以前から指摘はされていたが、ようやくGoogleが重い腰を上げて修正を施すことになった。上に比較した画像があるが、なかなか微妙な違いなので実際に改訂されたChromeでどう見えるのかが楽しみだ。
日本の3D性器アート、アメリカの反響は?
日本で一時期話題になった「ろくでなし子」さん作の、女性性器を型どった「バナナボート」アートが、なんとTechCrunchでも紹介された(「東京のアーチストが自分のヴァギナを3Dプリントして逮捕さる」)。記事を書いたJohn Biggs記者(TechCrunchのガジェット部長)は、「ろくでなし子」の意味を説明したり、日本の文化においては男性の器官はタブーではないとしてサンプルへのリンクを紹介するなどしているが、基本的には情報提のみで個人的意見は述べていない。原文のコメント欄には「バナナボートは全く問題ないが、3Dデータの配布はアートではないからダメだろう」という、実に真っ当な意見が書かれている。
Apple、プログラミング言語Swiftに本腰
先のデベロッパー会議で発表された、iOSおよびOS X共通の新プログラミング言語Swiftは、Appleとしては珍しく「オープン性」を前面に出している。発表以来、デベロッパーには概ね好意的に受け入れられているようだが、このほどAppleは、Swift言語専用ブログを開設した。スタート直後プログ記事はたった1本だけ(現在は3本)だったが、開発コミュニティーの反応は、その内容以上に「Appleの開発者が公開の場で何かを話すこと」の珍しさに驚き、それを評価する声が多数を占めている。ちなみに、7月15日付の記事には、Swift言語の仕様変更も報告されている。現在は、Xcode 6 beta 3というバージョンだが、まだベータ版であり進化を続けている。
完全従量制の自動車保険
従量制自動車保険のMetromileがカリフォルニアにも進出した。従量制(per-mile)とは、その名の通り「走った分だけ」料金を払うタイプの自動車保険だが、走行距離は自己申告やメーターを見るのではなく、専用のハードウェアをプラグインして自動的に測定する。スマホ用アプリも提供され、路上サービス等他の自動車保険サービスにも対応している。
Nob Takahashi / facebook