日本流FinTechを目指すマネーフォワードが、みずほFG、三越伊勢丹らから総額11億円を調達

マネーフォワードは、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)と三越伊勢丹グループを始めとする8社から総額11億円の資金を調達した。みずほFGとの間では新たに業務提携を締結し、三越伊勢丹グループとも提携の検討に入っている。

同社がメガバンクや大手百貨店と手を組んだ背景には、同社がここ1年にわたりネット銀や地銀との提携で地道に実績を積んできたことがある。他業種での動きも含めて、同社は既存プレイヤーと手を組む日本流FinTech企業を目指す考えだ。

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マネーフォワードの辻庸介CEO(右)と金坂直哉CFO(左)

まずは事実関係を整理しておきたい。新規の業務提携案件は以下の2件である。

  • みずほフィナンシャルグループとの間で新たに業務提携契約を締結
  • 三越伊勢丹ホールディングスと業務提携の検討を開始

業務提携の具体的な内容は明らかではないが、みずほFGとの間での提携内容として(1)新サービスの共同開発、(2)マネーフォワードの法人向けサービスでの協業の検討、(3)銀行APIの活用促進、の3分野を挙げている。また三越伊勢丹グループとの間の提携内容として、三越伊勢丹グループのカード事業や百貨店事業の顧客に対する新たな付加価値提携の検討を行うとしている。
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資金調達では、次の引受先に対する第三者割り当て増資を実施した。

新たな出資者は次の2社。

  • みずほキャピタルが運営する「みずほFinTechファンド」
  • 三越伊勢丹イノベーションズ

既存株主2社が追加出資する。

  • Fenox Venture Capital
  • 東邦銀行

加えて、業務提携先4社も出資する。

  • 北洋銀行
  • 群馬銀行
  • 福井銀行
  • 滋賀銀行

以上に加え、金融機関からの借り入れを合わせ、総額で約11億円の資金調達を実施した。

メガバンク、大手百貨店の顧客基盤とスタートアップのサービス開発力を組み合わせる

「(マネーフォワードと)メガバンクとの業務提携は今回が初めて」と同社執行役員CFOの金坂直哉氏は説明する。大手百貨店グループとの提携も大きな動きだ。

このような提携に至るまでには「伏線」があった。マネーフォワードは過去1年にわたり、複数のネット銀行や地銀との間で「マネーフォワード for X」といったサービス群を提供してきた。ここでXに入る名前は、住信SBIネット銀行、山口フィナンシャルグループ、静岡銀行、東海東京証券、東邦銀行、滋賀銀行、群馬銀行、福井銀行の各社だ。またこの2016年9月には資金調達サービス「MFクラウドファイナンス」をGMOペイメントゲートウエイ、GMOイプシロンと提携して開始している。

「我々はサービスを作るのが得意な会社。銀行には顧客基盤、サービス基盤がある。相性がいい」(辻CEO)。地銀がスマートフォンアプリを個別に作るのは大変だし、単体の銀行系アプリは利用頻度が低いので導線として弱い。マネーフォワードと手を組むことで、銀行にもマネーフォワードにもユーザーにもメリットがあるという訳だ。

みずほ銀行とは法人向けサービス「MFクラウド請求書」における自動消込機能(2015年7月)、それに給与支払業務の自動化(2016年3月)の2件のサービス連携を実現させている。

振り返ると、同社はここ1年で従来からの「家計、会計」のサービスだけでなく、現実世界のお金を動かす銀行との連携サービスの実績を積んできたといえる。その実績の上に、今回のみずほFG、三越伊勢丹グループとの提携および出資がある訳だ。

金融分野のビッグプレイヤーとの提携について、マネーフォワード代表取締役社長CEOの辻庸介氏は次のように話す。「アメリカのFinTech企業はディスラプト型(既存ビジネスの破壊者)というイメージがあるが、日本では『三方良し』モデルでないと流行らない。日本の金融機関のサービスは充実しているし、そこで足りないものを充実させていくモデルが広がりやすい」。

日本的なFinTech企業として、マネーフォワードは大手企業との提携をテコに、自社のサービスのカバー範囲の充実を図ろうとしてる。調達した資金の使い道については、「開発とマーケティングの人員、それに拠点整備に使う」(辻CEO)としている。

今後登場するサービスの具体的な姿はまだ明らかではないが、例えばマネーフォワード、メガバンク、大手百貨店のそれぞれが持っている顧客情報を有効活用して与信を簡略化したレンディングサービスを想像する人も多いだろう。既存プレイヤーとの協調を重視する日本流FinTech企業のあり方については様々な意見があるかもしれないが、ここはスタートアップならではのサービス開発のスピードとビッグプレイヤーの顧客基盤との合わせ技で、どのような世界が生まれてくるのかを見たいと思う。

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TechCrunch Japan

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