「3Dプリンター」というフレーズを耳にすると、普通の人はプラスチック製のアクセサリーやおもちゃ、ハードウェアのプロトタイプまたは人工装具といったものを作る機械のことを思い浮かべるだろう。しかし3Dフードプリンターを開発しているBeeHexは、この度シードラウンドで100万ドルを調達し、最初の製品となるピザプリンターの「Chef 3D」をローンチしようとしている。
当初BeeHexは、地球から長期間離れることになる宇宙飛行士が、バラエティー豊かな食事を楽しめるようなフードプリンターを開発しようとしていた。しかし共同ファウンダーの4人(Anjan Contractor、Chintan Kanuga、Jordan French、Ben Feltner)は、既に地球上に存在する市場に向けて、当初のコンセプトを作り替えることにした。彼らのプリンターは材料をあちこち動かさなければいけないので、プリント方式は従来のアディティブ・マニュファクチャリング(AM)方式ではなく、空気圧式を採用している。
長期的には、複数の3Dプリンターをつなぎ合わせて、その場でお客さんの要望に合った軽食や料理を作れるようなシステムを開発していきたいとFrenchは話す。将来的には、お客さんがアプリ上で食べたいものを選ぶことができるようになったり、もしかしたらネットにつながった医療機器やフィットネス系のウェアラブルデバイスから受け取ったデータを使って、BeeHexのプリンターがお客さんの健康上のニーズに沿った料理を作れるようになったりするかもしれない。
今回のラウンドでは、フードオートメーションの専門家であるJim Groteがリードインベスターを務めていた。彼はピザチェーンDonatos Pizzaの創業者で、2013年にはCBSの番組「Undercover Boss」にも出演していた。さらにGroteは、1960年代後半から調理をスピードアップする機械の開発を行っており、製造された機械は自らの名前を冠したGrote Companyを通じて販売している。これまでには、「Peppamatic」という可愛い名前のついた、自動でペパロニをスライスして並べる機械などが開発されている。
BeeHexの共同ファウンダーでCEOのAnjan Contractorによれば、同社は今年中にChef 3Dをソフトローンチし、まずは食品企業数社と共にパイロットプロジェクトに取り組んでいく予定だ。さらに、最近BeeHexはR&D拠点をオハイオ州のコロンバスに移転した。この街の経済開発に取り組んでいるColumbus2020によれば、コロンバスには170社近い食品・飲料製造企業が拠点を置いており、特に製パン所の数が多いという。
「企業は顧客ひとりひとりの要望に沿った商品を提供したいと考えていますが、それを実現するために必要な従業員のトレーニングにはそこまで時間を割きたくないとも考えています」とContractorは話す。BeeHexのChef 3Dのような機械があれば、特にスタッフが特別なスキルを身につけなくても、企業は作りたての美味しいピザを提供すると同時に、例えば子どもには、お気に入りのキャラクターの形をしたものを、セリアック病の人にはグルテンフリーのものを、といったように個々の顧客のニーズを満たすことができる。
先述のJim GroteはTechCrunchに対し、BeeHexは販売ボリュームのあるピザチェーン(特にDominosやLittle Caesars、PizzaHutなどの大手チェーン)だけを相手に3Dプリンターを開発したとしても、長期的に利益を生み出し続けるできるかもしれないと語った。市場調査会社Packaged Factsの調査では、ピザレストランの市場規模は世界中で年間430億ドルに達するとされている。
さらにGroteは「ピザの次は、他のさまざまな食品にもBeeHexのテクノロジーを応用できる可能性があります。彼らは、作るのがとても難しい生地まわりの技術をマスターしているので、ピザ以外の焼き物の分野に進出してもうまくやっていけるでしょう」と話す。また、買い物客にその場で食べ物を提供したいと考えている小売やレストラン、さらにアミューズメント施設やフェスティバルを運営している企業も、従来の方法ではなく、3Dプリンターを使ってピザを焼くようになるかもしれないと彼は付け加える。これまでのやり方でピザを作ろうとすると、かなりのスペースと労力が必要になるのだ。
BeeHexの製品はまだ一般には販売されていないが、量産前のプロトタイプはFood Loves Tech 2016やオハイオ州立大学のホームカミングデーといった展示会や催し物でお披露目されている。次にChef 3Dの登場が予定されているのは、3月27〜29日にラスベガスで開催されるInternational Pizza Expoだ。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)