一見ふつうの形をしているiPhoneケースだけど、これはカリフォルニアの隠退した木工職人から提供されたクルミ材を成形して作ったもので、そのよく磨かれた表面はアンティークの高級家具を思わせる。だからピッツバーグのそのメーカー企業Kerf Casesも、とってもクールな会社だ。
ファウンダーのBen Saksは、生涯を木工に捧げてきた。カーネギーメロン大学の仕事をしたとき、手回しのフライス盤を使って初めての木製iPhoneケースを作り、その後6か月でそのデザインを完成させた。2014年に彼は、ピッツバーグのスタートアップ育成事業/施設AlphaLab Gearの専属デザイナーになりその後、そのワークショップTechship Pittsburghで自分の製品を磨いた。今ではピッツバーグのイーストエンドに、自分の工房Kerf Cases社がある。
Saksは、iPhoneとPixelのケースを作っている。お値段は99ドルからで、材はマホガニー、チェリー(サクラ)、メープル(カエデ)などだ。どれも廃材で、Saksは財布やiPadのアクセサリも作っている。
“‘Kerf’は、鋸の刃から取り除いた材の厚さの単位で、通常は1/1000インチのことだ。この木工職人たちの専門用語が、KerfCaseのフィロソフィーを表している。うちの木製のiPhoneケースの精密さも、表しているんだ”、とSaksは語る。“どの木片にもストーリーがある。フローリングの廃材にも、嵐にやられた地元の木の美しい節瘤(ふしこぶ)にもね。そのストーリーの続きを作ることが、うちの木工なんだ。そして人びとを、素材が持つ歴史に結びつける”。
“Kerfはスタートアップではない。これを実現するまでに何年もかかっている。ソフトウェアみたいなスケーラビリティとは無縁だ。スケールしたら、うちのビジネスのいちばん重要な部分を失う。うちは、ゆっくりと、自然の中の生物のように、オーガニックに成長してきた。それは、口コミと、熱心なファンたちのおかげだ”、と彼は語る。
ぼくが試したケースは、深い暗色のクルミ材製で、触ると滑らかでクール、まわりがすべて木だから、スピーカーの音が増幅される。とても軽いし、本来のゴム製のケースよりずっといい。目の見えない木彫彫刻士が作った豪華な象眼入りの木製ケースではないけど、たぶんそれに次ぐものだ。