フィンテック系ユニコーン企業TransferWiseが設立6年で黒字化

黒字化を果たしたユニコーン企業ほど珍しいものがあるだろうか? ロンドンを拠点に送金サービスを提供しているTransferWiseは、設立から6年が経過し、遂にこの度”利益を生み出している”状態に到達したと発表した。なお、以前TechCrunchでも報じた通り同社の評価額は11億ドルにのぼると言われている

具体的な数字を見てみると、月々の売上額は800万ポンドに達すると彼らは語っており、ランレートは1億ポンドに到達する勢いだ。また昨年には前年比で150%成長しており、今年の成長幅も同じくらいになると言われている。さらに月々の送金総額は10億ポンドにのぼり、ユーザーはTransferWiseを使うことで、1日あたり150万ポンドの為替手数料を節約できていると同社は話す。

参考までに、TransferWiseの2016年3月期の通期売上は2780万ポンドで、税引前損失が1740万ポンドだった。2017年3月期の業績はまだ発表されていないが、本日の黒字化のニュースを考えると、2016年3月期に比べて税引前損失額はかなり減っていることが予想される。

また、同社はこれまでに合計1億1700万ドル(約9100万ポンド)を調達してきた。主な投資家としては、Andreessen Horowitz、Peter ThielのValar Ventures、Sir Richard Branson、そして最近株主に加わったBaillie Giffordが挙げられる。

「設立からたった6年で損益分岐点に達したということが、私たちのビジネスを支える基盤の強さを物語っています」とTransferWiseの共同ファウンダーでCEOを務めるTaavet Hinrikusは声明の中で語った。「しかし黒字化はスタートに過ぎません。私たちがこれまでに築いてきたユニークなプラットフォームを使って、今後新時代の金融サービスを顧客に提供していくのが楽しみです」

“新時代の金融サービス”というのは気になるポイントだ。というのも、私は彼らがTransferWiseブランドのもと、現状の外国送金サービスを超えて新たな機能やサービスを開発していくと考えているからだ。

電話での取材中、Hinrikusは新しいサービスの詳細には触れなかったが、突っ込んで聞いてみたところ、追加の資金や規制対応が必要になる銀行ライセンス取得の「予定はない」と語った。つまり、しばらくの間TransferWiseがチャレンジャーバンク化することはないということだ。

とは言いつつも、もしも彼らにその気があれば、すぐにでも導入できそうなサービスはいくつかある。まずPayPal傘下のVenmoやBarclays Pingitのサービスのように、同じ国に住むユーザー間でのP2Pペイメントであれば、TransferWiseのインフラを持ってすれば簡単に実現できるだろう。また、海外でも使える為替手数料の安いデビットカードを同社が既に提供していないのも不思議だ。

もしも彼らがデビットカードの発行をはじめるのであれば、RevolutやHinrikus自身も投資しているカード統合アプリCurveをはじめとする、MasterCardの安い為替手数料を利用したサービスと直接競合することになる。

しかしHinrikusに言わせれば、100万人強のユーザーを抱え、信頼度の高い強固なブランドを築き上げてきたTransferWiseの方が、現状のサービスと近い位置(もしくはギリギリのライン上)にある新しいサービスを提供する上で有利なポジションにいる、ということなのだろう。確かに同社は設立当初から、TransferWiseブランドと素晴らしいプロダクトの確立にたっぷりと時間をお金をかけてきた。

競争が激化する中、外国為替はコモディティ化しつつあるとも言える。そこで私は、Hinrikusに過去6年間のTransferWiseの成功にとって、ブランドとプロダクトのどちらが大切だったかを尋ねてみた。すると彼は「それは究極の質問ですね」と答え、いつも通り一旦話を止めて言葉を選びながら「実際にはプロダクトがブランドをつくると考えています。素晴らしいプロダクトがブランド化しない状況の方が考えづらいですからね」と語った。

この点に関連し、彼はイギリスの海外送金市場におけるTransferWiseのシェアは10%程度だと語っており、確かに未だ4大銀行が同市場の約80%を占めているという話もある。しかし見方を変えれば、海外送金という分野ではTransferWiseが大手銀行の半分のシェアを握っているとも言え、既存のプレイヤーがこの状況に気付かないわけがない

「周りを見ると本当にたくさんのフィンテック企業が存在しますが、そのほとんどは従来の銀行を介して自分たちのプロダクトを販売しています」とHinrikusは付け加える。「フィンテック業界では、グローバルに活躍するような企業が今後数社しか出てこないだろうと私は考えており、TransferWiseはそのうちのひとつになれると思っています」

余談だが、先日HinrikusがTechCrunch宛に送った初めてのピッチメールのコピーをツイートしていた。6年以上前のこのメールが、フィンテックユニコーン企業の最初のメディア露出と売上に繋がったのだ。その後彼らが大きく成長し、現在では700人強の従業員を抱え、遂に黒字化を果たしたというのは感慨深いものだ。

Steve O’Hear(@sohear)
テック系メディアの記者の中で、恐らく一番初めにTransferWiseに関する記事を書いた私ですが、その記事が彼らにとって初となる1000ポンドの送金に繋がったという話を聞きました。

Taavet Hinrikus (@taavet)
@sohearあなたが最初の記者でしたし、いつもそのことをありがたく思っています。添付画像のメールがその証拠です。CC@andruspurde

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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