私はこの数週間、デベロッパーと投資家に混じって、急成長中のARKitの世界を体験してきたところだ。関係者がAR時代の到来に興奮する理由はいくつもあるが、その一つがスケールの可能性であることは確かだ。潜在的なARのユーザー数は巨大だ。来月公開されるiOS 11の場合、インストールされた瞬間から誰もが拡張現実を利用できるようになる。今年中にARを使うようになるユーザーは数億人に達するはずだ。これはARの可能性を示すうえできわめて説得力ある数字だろう。
巨大企業も1人か2人のエンジニアのチームもともにクールなARアプリの開発に全力を挙げている。
昨日のデモ・イベントでは多数のARアプリをテストしそのデベロッパーに話を聞いた。近い将来のARアプリについて私なりのイメージを抱くことができたように思う。以下に紹介するのはコンシューマー向けアプリだが、ご覧のようにこのテクノロジーの間口はきわめて広い。デモ・アプリはiOSのARKitでどんなことができるのか興味を抱いているデベロッパー、投資家の参考になると思う。
まずデモビデオを見ていただきたい。最後にいくつか感想を述べる。
Ikea
家具AR: カタログから選んだIKEAのソファーを実物大で現実の場所に置くことができる。 カタログに搭載されたアイテムは2000種類。
Food Network
キッチンAR:家庭のキッチンで手持ちの皿にリアルなカップケーキなどのデザートを載せてみることができる。デザートが気に入った場合、アプリからレシピにアクセスがが可能。
GIPHY World
現実ビデオとGIFによるソーシャルAR: ユーザーはビデオを撮影し、GIF画像を配置して共有することができる。デモでは両親がベビーシッター向けに朝食用食材、与えてよいおやつ、与えてはいけない食材などをGIFで説明している。ファイルを受け取ったユーザーはさらに素材の追加、リミックス、再共有などが可能。
Arise
ARゲーム:: Climax Studiosが開発したゲームでは居間のテーブル(でも何でもよい)の上にリアルな3Dの廃墟を出現させ、その上を主人公のキャラクタ^が進んでいく。ユーザーは通常のゲームコントロールでキャラクターをなるべく遠くまで進ませるよう試みる。
Very Hungry Caterpillar
AR絵本: 記録的なベストセラー絵本、『はらぺこあおむし』 をAR化している。現実の庭にりんごの木などが配置され、りんごを地面に落としてあおむしを誘導する〔この点については後述〕。あおむしはエサを食べると次第に大きくなり最後に美しいチョウになって飛び立つ。絵がキュートである上にターゲットとする子供の発達段階に合わせてコントロールが簡単であり、優れたARアプリだと感じた。
Walking Dead: Our World
AR版ゾンビシューティング: 現実空間にゾンビが登場し、プレイヤーは一人称視点で射撃して倒す。ゾンビの描写はリアルで精細度も高い。プレイヤーはゾンビの攻撃をかわすために素早く向きを変えるなど体を動かす必要がある。iPadでのデモの動きはスムーズだった。
以下は私が興味を感じた点だ。
スキャン:. ARアプリはまず最初に周囲の現実をスキャンして置かれている環境を認識する必要がある。私が見たデモでは、ARKitに環境を認識させるためのスキャニングはアプリごとに独自の手法を用いていた。ただし多くのアプリでは現実世界にARオブジェクトを配置することができる平たい表面を見つける必要があった。アプリが適当な表面を見つけるまでユーザーはカメラをあちこちに向けてみる必要がある。別に難しい動作ではなく、普通は数秒しかかからないはずだ。
ただしユーザーはARアプリのこの特性を知っていたほうがいいだろう。Ikeaのアプリは対話性が高く、ユーザーにまず「部屋をスキャンしてください」と要請する。ゾンビゲームのWalking DeadやFood Network のデザート・アプリでも同様だ。ARKiがオブジェクトを配置できるよう、ユーザーにカメラを動かしてもらうために各アプリともプロンプトやバッジなどを利用し、知恵を絞っていた。
コントロール:ユーザーが選んだ位置にオブジェクトを配置するアプリ以外は画面内にコントロールを配置していない。たとえばAriseゲームの場合はユーザーがカメラを向ける方向を変えることがコントロールの役目を果たす。ユーザーはカメラのアングルを変えることでキャラクターを所望の方向に進ませることができる。画面内にはボタンなどのコントロールはいっさい表示されない。
一方、Very Hungry Caterpillar 〔はらぺこあおむしAR〕のコントロールは視線だ。ユーザーが木の枝のりんごを長く見つめていると、りんごは地面に落ち、あおむしが食べることができる。木の切り株を見つめるとあおむしはその上によじ登って眠る。他のアプリもコントロールはせいぜい1回タップする程度だ。この「コントロール・フリー」ないし「ライト・コントロール」というパラダイムはARアプリのトレンドのようだ。アプリをARに移植したいと考えているデベロッパーはこうした新しいコントロール方式を研究しておく必要がある。
開発期間: いろいろ考え合わせると、非常に短いといっていい。私がテストしたアプリの多くはARKit上で製作ないし移植されるのに 7週間から10週間程度しかかかっていない。ゲームなどアセットが重いアプリはも開発にさらに時間がかかるが、もしすでに非AR版でキャラクターなどのアセットを持っているなら移植はかなりやさしい。たとえばGIPHY Worldアプリには現実空間に3Dで浮かばせることができるGIFファイルが多数用意されているが、ユーザーは何千万も作られている既存のGIFをドロップすることもできる。
「はらぺこあおむし」のAR版を開発したTouch Pressでは既存の「あおむし」のグラフィックスを大きくアップグレードする必要があった。これは子どもたちはARであおむしをあらゆる角度から、かつ至近距離で眺めることになるためだった。同様の理由でIKEAも家具のグラフィックスの精細度、テクスチャーなどをアップする必要があった。しかしARアプリの開発、移植の期間は月というより週や日の単位で計れそうだった。つまり9月月にARKitをサポートするiOS 11が一般公開されると同時に多数のARアプリが登場するはずだ。そしてその後にもっと大量のARアプリの大波が続くことになるだろう。
〔日本版〕デモアプリの作動のメカニズム紹介は原文を参照。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)