スマートロックと、それに連動する不動産管理ソリューションを展開するライナフ。これまでにも、オンラインで物件の内覧を予約し、セルフ内覧ができる「スマート内覧」や、貸し会議室の予約、スマホや電話での入室が可能な「スマート会議室」といったサービスを提供してきた。そのライナフが新たに提供し始めたのが、AIによる音声認識で物件確認の電話に自動応答するサービス「スマート物確」だ。ライナフは9月15日、不動産情報サービスのアットホームとの業務提携を発表。スマート物確をアットホームの加盟・利用不動産店に対して、9月27日より提供開始する。
ライナフ代表取締役の滝沢潔氏によれば、準大手の不動産管理会社の場合、仲介会社から物件の成約状況や紹介可否を確認する電話は、1日600件ほどかかってくるという。現状では管理会社では、問い合わせのたびにExcel表などを確認しながら回答することになるのだが、この業務の負荷を自動音声応答で軽減しようというのが、スマート物確の狙いだ。
「物件名にしか反応しない」独自の音声認識システム
スマート物確では、仲介会社が物件確認専用の番号に電話をかけると自動アナウンスが流れ、物件名を声に出すとAIが音声認識によって物件を特定し、その物件の情報を自動で応答する。
物件確認の自動応答システムでは、すでにイタンジが提供する「ぶっかくん」があるが、滝沢氏は「ぶっかくんでは、電話をかけると、物件名ではなく賃料や部屋番号、専有面積をプッシュ入力することで物件を絞り込んで特定し、物件情報を答える仕組みになっている。スマート物確は、より人の会話に近い形を目指した」と既存サービスとの違いを説明する。「音声で物件名(建物名)を言うと、対象が1室であればその部屋の情報をすぐにアナウンスする。複数の空き物件がある場合は、そこで部屋番号を入力する仕組みだ」(滝沢氏)
物件名を検索の基準とするスマート物確では、賃料などの条件変更があり、仲介会社が把握する賃料と自動応答システムのデータベースの賃料との間に相違がある場合でも、物件を特定することが可能となっている。
実際に、スマート物確の自動音声対応が聞けるデモ番号に電話をかけて、試してみた。アナウンスに従って、サンプルの物件名を声で話すと物件の検索が始まり、約10秒ぐらいで物件を確認する音声が返ってくる。音声でも思った以上にスムーズに検索ができる印象だ。
スマート物確の音声認識システムは、物件名だけを認識する不動産専用のものだという。滝沢氏は「いろいろな音声認識APIを使ってみたのだが、これまでのGoogleなどの音声認識システムでは、日常会話には強いが、固有名詞の認識で弱いことが分かった。そこでオープンソースの音声認識プログラムに手を加え、エンジンを自社開発した」と説明する。
管理会社はスマート物確で、物件ごとに読み上げる回答項目を設定、追加できる。また、営業時間の案内なども設定することが可能だ。
さらにどの物件に、いつ、どの仲介会社から電話がかかってきたかを確認できる受信履歴画面や、問い合わせの多い物件が把握できる、受電ランキングなどの機能も備わっていて、物件の分析やマーケティングに活用することもできる。
スマート物確では、自動音声案内だけではなく、仲介会社がオペレーターと直接話したいという場合には、通話を切り替えることもできる。滝沢氏によると、今回の本格リリースの前にベータ版を実際の業者で使ってもらった例では、半数以上の問い合わせが物件情報の自動音声案内のみで完了しているケースもあるそうだ。ベータ版の不動産会社による導入も進んでおり、9月15日現在の管理物件数は既に10万室を超えたという。
「電話は重要なチャネル」「他社連携さらに進める」
ライナフでは、不動産業界での問い合わせや予約で、いまだに電話は重要なチャネルだと捉えている。「宅配便の再配達や飲食店の予約でも、やはりネットよりも“確実に申し込みできた”という印象が強いのが電話。今後、スマート物確を内覧予約システムのスマート内覧ともつなぎ込み、年内にもリリースする予定だ。これにより、物件の空き状況の確認から内覧予約、現地の開錠と内覧までを、ネット経由に加えて電話でも行えるようになる。さらにスマホへの普及率が9割を超える、LINEとの連動も進めていく」(滝沢氏)
ライナフはスマートロック「NinjaLock」を切り口としてはいるが、以前から滝沢氏が取材で述べているように、“不動産管理”を軸にした不動産テックサービスを提供する姿勢を貫いている。その過程の中で、不動産の物件情報、予約情報、鍵情報を集め、一元的に管理するデータベースを構築してきた。滝沢氏は「これまでの物件内覧、貸し会議室などのサービスに加えて、他社への情報提供も視野に入れている。ホテル業界での予約・在庫管理ASPのようなサービス提供を、不動産の分野で目指している」と話している。また賃貸物件だけでなく、Airbnbやスペースマーケットなどが扱っているような短期の空きスペースの物件、時間、鍵の情報についても、他社へ一括で提供できる仕組みを検討しているそうだ。
今回のアットホームとの提携も、そうした他社への情報提供やサービス連携の一環だと滝沢氏は言う。「アットホームは5万4000店舗の販売網を持ち、また元々ファクトシート(物件情報の図面)の印刷・配布では最大手の企業。不動産情報のネットワーク化を進め、不動産業務の支援サイトも提供しているアットホームとの情報、システム連動を進めることで、業務の効率化、データ化も進み、不動産業界自体が一歩先へ進むと考えている」(滝沢氏)