日本のVC・エンジェル投資家が予想する2018年のスタートアップ・トレンド(後編)

2018年、テック業界を取り巻く環境はどう変化するのか——昨日に引き続き、毎年恒例となっている企画の後編をお送りする。本企画ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家を中心にして2018年の業界予想アンケートを実施。その結果をとりまとめている。

アンケートの内容は「2017年に最も盛り上がったと感じる分野、プロダクトについて(150文字以内、自由回答)」「2018年に盛り上がりが予想される分野やプロダクト(可能であれば企業名なども)について(600文字以内、自由回答)」の2つ。アンケートの回答順にご紹介する(敬称略)。なお各VCから回答を得ているとはいえ、キャピタリストは通常カバー範囲が決まっている。各回答が必ずしもそのVCを代表する意見ではないことはご了承頂きたい。(前編はこちら

セールスフォース・ベンチャーズ

Japan Head 浅田慎二
2017年の振り返り:全体的に2017年は、B2Bスタートアップの資金調達件数と金額がメインストリーム化した印象。その中でも、古い産業をDisruptするB2B SaaS(貿易、物流等)の資金調達が活発な年だった気がする。
2018年のトレンド:AIへのハイプ(過熱感)がようやく収束し、2018年は実用的なAI/ML/DLをベースとした問題解決型SaaSが生まれてくる事を期待したい。そして、AIのSI案件が実は、良質データが無いと運用フェーズに移行できないという問題が多数発生している事から、米国の弊社投資先Crowd Flower社のような、「データクレンジング as a Service」が日本でも急速に立ち上がってくると予想。

他には、Product AnalyticsのSaaS (製品のUIUXに対するユーザ満足度可視化SaaS。USのAmplitude社)や、ID管理SaaSのOkta(見事2017年にIPO)のように、IT部門が統合管理する形態のセキュリティSaaSとして、CASB(Cloud Access Security Broker。USのNetskope社やSkyhigh Networks社)のスタートアップが、日本からも出てくるのではないかと注目している。そして引き続き、生産性向上系の代表格セールス&マーケ系SaaSや人事法務労務系SaaSも新たに多少増えつつも、顕在プレーヤーの優勝劣敗が進む年となるだろう。

グロービス・キャピタル・パートナーズ

パートナー/Chief Strategy Officer 高宮慎一
2017年の振り返り:2017年はブロックチェーン、AIなどの新技術のテクノロジービジョン=テクノロジーが機能的に何が実現できるか見えてきた年だった。象徴的なのはバズワード化したICOで、ブロックチェーンという技術を応用した仮想通貨は、貨幣の機能的側面が純度高く実現でき、ICOにおいてはコミュニティ作りや資金の担保ができると提示された。
2018年のトレンド:2018年は、新技術に市場課題が結びつき、応用先とビジネス化が見えてくる、テクノロジービジョンがビジネスビジョンに昇華される年になる。新技術の中でも、特にAI、ブロックチェーンのビジネス化は進むと予想する。

AIは、完全に自律的に課題解決するまでには至っておらず、法制度と人の心の受け入れ態勢も整っていない。よって過渡期的ではあるが“半人力AI”=人をAIが補完する形でビジネスモデルに内包されていくだろう。そして、市場観点では、 既存のやり方の負が大きいが故に半人力AIでも十分に価値が出せる領域からビジネス化が進む。具体的には、『最適化』:コールセンター・CS業務、稼働率ビジネスのダイナミックプライシング、SCM、『マッチング』:人材採用、婚活・出会い、『関係性抽出』:コンテンツのパーソナライズ、コマースのレコメンド、ヘルスケア業界の診断などだ。

ブロックチェーンは、ICO乱発の中から、真にブロックチェーンの必然性がある課題の最適な解決策となっている領域が見えてくるだろう。一方で、投機的過熱感の中で、社会問題化する懸念もある。業界自ら襟を正し、当局と連携しつつ自主規制や法制度の整備が急務だ。

Draper Nexus Ventures

Managing Director 倉林陽
2017年の振り返り:Big Data Analytics & AI分野。価値あるInsightの提供を実現して事業拡大をする企業が出てきており、弊社投資先のCylance(Cyber Security)やNauto(自動運転)等でも業績の急拡大や大規模調達が続いた。
2018年のトレンド:過去7年ほど一貫してCloud/SaaS推しだが、日本においてもSansanやマネーフォワードといった成功事例によって認知が広がり、近年はSaaSスタートアップの質も数も右肩上がりの印象である。

その中でも、昨年に引き続き特にIndustrial Cloudに注目している。伝統的商習慣の残る業界に対して、SaaSやMobile、Big Data Analyticsといったテクノロジーで変革を起こすスタートアップに可能性を感じる。

日本においてもカケハシ(ヘルスケア)、オクト(建設業)、サークルイン(国際物流)、atama+(教育)等、業界の課題について深い知見を持った経営陣が、UI/UXに優れたアプリケーションを提供し差別化を実現している。今後も様々な業界でこうした事例が出てくることを期待したい。

アイ・マーキュリーキャピタル

代表取締役社長 新和博
2017年の振り返り:「動画」。LIVE配信、動画メディア等、 スマホで利用する動画サービスの大型調達が相次いだ。また、ある種の社会現象となったAbemaTV、LINEによるFIVEの買収に代表されるように、VCの投資テーマだけではなく大手企業が本腰を入れて取り組むテーマになってきた。
2018年のトレンド:2018年に短期間で盛り上がるトレンドとして予想するのは、以下の通り。
1.「ライブ配信サービス」の乱立。プレイヤー間でのプロモーションや配信者獲得の競争が激しくなり、既婚の視聴者は配信者に対する精神的浮気がバレて家庭不和になる。
2.「スマートスピーカー」の一般家庭への普及。当面のキラーアプリは音楽と天気で各社とも大差ないと思われるが、日本語認識精度と通話機能が勝負の分け目になると予想。(2017/12/8発売のClova FriendsはLINE通話機能を搭載)
3.メルカリの”プラットフォーム化”による「シェアリング・エコノミー型サービス」の勃興。ニッチな市場でもメルカリからの集客と資金の支援を得ることで手堅く立ち上げることが可能になる。
4.東京五輪をターゲットにした「訪日客向けサービスEC」、特に飲食店や交通手段は需要が大きい。弊社投資先が運営する厳選飲食店の予約・決済サービス「Pocket Concierge」はインバウンド向けビジネスが平均年率3倍以上の成長を遂げている。
5.「ブロックチェーン」技術を活用したビジネスのキラーコンテンツが見つかるまで、数多くのブロックチェーン・スタートアップが登場する。

iSGSインベストメントワークス

代表取締役 代表パートナー 五嶋一人
2017年の振り返り:2016年もバズワードが幅を利かせた年でした(なんちゃって◯◯)。
Fintech、Helthtech、仮想通貨、オープンイノベーションetc.・・・。ベンチャーキャピタルの立場からは、注視するべきポイントは多かったものの、特定の新しいトレンドは案外なかった気もします。
2018年のトレンド:引き続き「インターネット+デバイス」「インターネット+リアルのサービス・ヒト・モノ・場所」といった「インターネット+α」領域が、より活発になると予想します。2018年はその中でも農業や製造業に関連する領域が、より活性化すると考えます。この文脈で地方スタートアップの台頭も期待します。

事業分野としては、日本は世界最先端の超高齢化市場であることから、へルスケア分野で日本発世界で活躍する企業が現れることを期待しています。

また、政府の「日本再興戦略 2016」で重点領域とされているスポーツ分野は、ヘルスケア分野とのクロスオーバーがある「Doスポーツ」を中心に成長が予想されます。

ライブエンターテイメント分野は、インターネット上のサービスやコミュニティ、さらに新しいテクノロジーとの連携を深化させ成長を続けると考えます。

事業分野やプロダクトではないですが、「サービスのサブスクリプション(月額課金)」に加えて、ファイナンスリースやオペレーティングリーズといった金融を活用した「モノのサブスクリプション」の成長が始まると考えます。

ほとんどの企業にとって、人工知能や動画、暗号通貨などは「ツール」であって、事業そのものではありません。これらのツールを活用してどのような価値を創造するのか、どのようなユーザー体験を提供するのか、という事業としての「本質」が、より強く求められるようになるのでは。

グロービス・キャピタル・パートナーズ

ジェネラルパートナー COO 今野穣
2017年の振り返り:基本的に昨年挙げたトレンドどおりだったかと思いますが、特に印象的だったのは、各産業向け・企業向けクラウドサービスです。弊社の投資先で言えば、Yappli社は目覚ましく成長しましたし、HR Tech関連は劇的に増加しました。ビジネスモデルやKPIが標準化されつつあるのも要因として大きいかと思います。
2018年のトレンド:2018年は、「なめらかな社会」に向けた技術とサービスの融合、言いかえれば骨太で必然性のあるユースケースの確立に期待をしています。技術的側面で言えば、「AI」「IoT」「VR/AR」「ブロックチェーン」などの技術がここ数年のトレンドかと思いますが、2018年はプラットフォーマーからの開放などにより、技術そのものがコモディティ化する年になるかもしれません。 その上で個人的に注目しているのは、(1)IoT/AI技術を活用したDMPの構築 (2)ブロックチェーン技術を活用した還元型社会の構築 と言った切り口です。

前者はビックデータ・ソフトウェア/クラウドサービス・オープンイノベーションなどの文脈に乗るでしょうし、後者はシェアリングエコノミー・トークンエコノミー・マイクロペイメント・クラウドファンディングなどの文脈に通じるかと思います。 また非中央集権的性質を持つブロックチェーン技術に対して、どのような統制・管理を自律的に機能させるか、その場合従来のマッチングサービスなどはどのように変容していくのかという点も興味を持って観察しています。 さらに、年々中国をベンチマークするサービスが増加しているのも特徴だと思います。その意味では、個人的には仮想通貨よりもWechat Pay上のデジタル通貨の世界観は待望していますし、中国で既に賑わいを見せるeスポーツは、日本での立ち上がりも時間の問題ではないかと思っています。

プライマルキャピタル

代表パートナー 佐々木浩史
2017年の振り返り:上半期:スマートスピーカー、音声UI、機械学習/AI、無人コンビニ、動画
下半期:ブロックチェーン、暗号通貨、ICO、シェアサイクル、iPhone X、CASH
2018年のトレンド:1. IoT(屋内外問わず)
・ハードウェアはもちろんですが、センサー・データ解析・音声UI等を活用したサービスレイヤーは多分に事業機会があると思います。
・ハードの普及に伴って、セキュリティーや電力といった領域で様々課題が表面化してくると思います。

2.バーティカル×データ×機械学習/AI
データ取得や整理と機械学習/AIの活用によって効率化される産業はまだまだ多いと思います。

3.Deep-Tech、R&D領域
非ネット領域で、最先端テクノロジーを活用したイノベーションを起こすスタートアップへの投資が加速すると思います。
※暗号通貨やICOは他の寄稿者の皆様にお任せします(笑)

サイバーエージェント・ベンチャーズ

取締役 日本代表 近藤裕文
2017年の振り返り:圧倒的に仮想通貨とICOが盛り上がった一年でした。
2018年のトレンド:2018年ですが、引き続きFintechに注目しており、仮想通貨とICO領域は更に盛り上がるため、サービスレイヤーなど周辺の事業に投資したいと考えています。

また、ToCではお金を増やす、お金を送る、お金を換金するなどオンデマンドで提供するところは既存サービスにはない、新たなサービスの登場にまだまだチャンスがあると思っています。

ToBではDLTなどBlockchainの基盤技術周辺のエンタープライズ分野がPOCを終えて、ユースケースを伴って来年以降立ち上がるので注目しています。CAVはシードステージにフォーカスした投資をしていますが、上記領域はシードに拘らず投資検討したいと考えています。

エウレカ創業者、個人投資家

赤坂優
2017年の振り返り:Bitflyer、Coincheck、CASH
2018年のトレンド:・引き続き仮想通貨周辺事業(取引所、ウォレット)
・検索させないサービス(タベリー)
・オンライン店舗とリアル店舗のボーダレス化、D2C
・チャットコンシェルジュ
・民泊予約アグリゲーター

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。