金融庁に登録済みの仮想通貨交換業者16社が、認定自主規制団体を目指す新団体の設置でこの2018年3月1日に合意した。2018年3月2日、JCBA会長でもあるマネーパートナーズ代表取締役の奥山泰全氏とbitFlyer代表取締役の加納裕三氏が記者会見に臨み、合意について明らかにした。2018年1月末のコインチェックへのハッキングによる仮想通貨NEMの大量盗難事件を受けて業界への規制強化、健全化への取り組みが進んでいる中、いままで遅れていた業界団体による自主規制に取り組む。
新団体の名称はまだ未定。会長にはマネーパートナーズ奥山氏、副会長にはbitFlyer加納氏が就任する。今後1カ月ほどかけて設立手続きを終え、数カ月以内に金融庁認定の自主規制団体となることを目指す。まず登録業者の団体として出発するが「今後登録を目指す団体にも入会してもらうようにする」(奥山氏)としている。
「仮想通貨交換業者」は2017年4月に施行された改正資金決済法(いわゆる仮想通貨法)で定めた概念だ。いわゆる仮想通貨取引所や仮想通貨販売所を日本で営むには、この仮想通貨交換業者として金融庁への登録を済ませる必要がある。金融庁による監督と、金融庁が認定した「自主規制団体」による民間業社団体による自主規制を組み合わせ、健全な仮想通貨ビジネスを展開することが、日本での仮想通貨に関する制度作りの青写真だった。
ところが、法律の施行から11カ月が経過しているというのに認定自主規制団体はまだ登場していない。仮想通貨の業界団体として、奥山氏が会長を務める日本仮想通貨事業者協会(JCBA)と、加納氏が会長を務める日本ブロックチェーン協会(JBA)の2団体が競う形となっていたためだ。JCBAにはbitFlyer、エフ・ティ・ティ、BITOCEANの3社が参加していないものの13社と多くの登録仮想通貨交換業者が参加する。一方のJBAは登録業者の参加社数は3社と少ないが、仮想通貨の法整備へ向けロビー活動を展開していた日本価値記録事業者協会(JADA)を前身とし、法制度やブロックチェーン技術への取り組みでは実績があった。そこでステークホルダーや経緯が異なる2団体を統一するのではなく、既存団体とは別に金融庁への登録を終えた業者16社が新団体を設立する形とした。記者会見では「ここで業界が一つになるターニングポイント」(加納氏)、「既存団体は存続しつづける。各団体の連携も進めたい」(奥山氏)との発言があった。
加納氏は、自主規制に関する取り組みはすでに進めていたと強調する。「日本ブロックチェーン協会(JBA)では従前より自主規制について議論を重ねている。直近では、(1)利用者管理に関する規則。(2)仮想通貨インサイダー情報管理の規則。(3)不公正取引の防止のための取引管理体制に関する規則。(4)注文管理体制に関する規則。(5)仮想通貨交換業に関与する従業員に関する規則。(6)広告等の表示および景品等の提供に関する規則。(7)仮想通貨資金決済に関する規則。(8)セキュリティに関する規則。(9)AML/CFT(マネーロンダリング防止とテロ資金供与対策)に関する規則、それぞれの案を作成していた」(加納氏)。
ひとつの疑問がある。コインチェック事件のようなハッキング被害を防ぐうえで、業界団体による自主規制にはどれだけの実効性があるのだろうか。筆者の問いに対して、bitFlyer加納氏は「コインチェック事件は全容が明らかになっていないので分析はまだできていない。だが業界としてセキュリティを一定程度に高めることが必要だ。セキュリティ基準を作る必要があるが、それについて有識者と議論を進めている。コールドウォレットやマルチシグを活用していく必要があるだろう。PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard、クレジットカード業界のセキュリティ基準)のような既存の基準も見て、セキュリティを上げることができる部分は積極的に導入し顧客保護に努める。認定自主規制団体になると強力な権限を持つことになる。技術的なセキュリティについても(その権限のもと)見ていく事になるだろう」と語った。