事業会社がスタートアップへ投資活動を行うCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)。約1年前のレポートだが、ジャパンベンチャーリサーチによれば、事業会社による投資子会社の設立数は2015年に15社、2016年に12社と高い水準で推移している。2017年も3月にPanasonic Ventures、7月にToyota AI Veutures、10月に日本郵政キャピタル、そして2018年に入ってからは1月にルノー・日産・三菱が共同設立したAlliance Venturesなどといった大型CVCをはじめとしたCVCやファンドの設立は続いている。
日本企業によるCVC設立とスタートアップへの投資は、うまくいっているのか。3月13日、PwCアドバイザリーが発表した調査レポート「CVCファンドを活用したベンチャー企業とのオープンイノベーション」では、CVC関係者が抱える課題の一端が明らかになった。
調査はPwCアドバイザリーが2017年10月、日本国内でCVCファンドの実務に関与する57名から、オンラインによる選択式アンケート調査で得た有効回答をまとめたもの。回答者の所属企業は、売上高500億円以上の規模が半数以上だが、50億円未満の企業も9%ある。
【図1】回答者の所属企業 売上(連結) (n=57)
業種も幅広く、さまざまな業界でCVCへの取り組みが広がっているようだ。
【図2】回答者の所属企業(業種) (n=57)
設立直後は「順調に運用」8割、しかし3年以上経つと約半数に
同調査では「自社のCVCファンドの運用は順調であると思うか?」との設問に、運用1年未満の回答者の81%は「非常に順調」「おおむね順調」と回答している。ところが運用期間が経過するほど、この割合は低下していることが分かった。運用から3年以上経過した回答者の45%は「全く順調ではない」「あまり順調ではない」と回答している。
【図3】「自社のCVCファンドの運用は順調だと思うか?」(運用期間別)
※運用開始前の回答者(n=13)は除く。既に運用を終了した回答者は「3年以上」に含む。
運用面では投資判断への迷いとガバナンスに課題
「順調に運用」と回答したはずの設立直後の担当者にも悩みがある。運用1年未満の回答者では「適正な投資条件で出資できているのか、自信がない」(50%)、「投資担当者の熱意に押し切られ、ほぼ全案件が投資委員会を通過してしまう」(31%)と回答していた。ファンド設立初期では特に、投資判断への迷い、投資判断を監視するガバナンスに課題感があるようだ。
なお案件の選別ができていないことについては、運用3年以上の回答者でも27%と3割近くが課題を感じる結果となっている。ガバナンスを効かせずに案件が通り続けることが、次第に順調な運用ができなくなっていくファンドの割合が増える理由のひとつにもなっているのではないか。
また運用期間が長くなると、今度は成果、とりわけ「シナジー」に関する課題感が強まる。「事業シナジーが思ったほど実現できていない」と回答した割合は、運用1年未満の回答者では0%だったのに対し、3年以上では27%に上った。
【図4】CVCの運用で感じている課題(CVCファンド運用期間別)
※運用開始前の回答者(n=13)は除く。既に運用を終了した回答者は「3年以上」に含む。
「事業シナジーを求める」74%、半数近くは買収までは想定せず
CVCファンド設立の狙いについては、約半数が「事業シナジー」と「財務リターン」の両方に期待する、と回答。「事業シナジーのみ」の回答と合わせると、74%が事業シナジーを求める結果となった。
【図5】CVCファンド設立の狙い (n=57)
一方、投資先への追加出資に関するスタンスについては、「順調にいきそうな会社は、積極的に買収(過半数の株式取得)したい」とした回答者は19%にとどまる。また半数近くの46%が「買収までは想定していない」と回答している。
【図6】投資先への追加出資に関するスタンス (n=57)
PwCアドバイザリー ディールズストラテジーリーダーの青木義則氏は、調査結果に対して以下の通りコメントしている。
「(結果は)目標達成までのストーリーを描き、一貫した戦略のもとでファンドを運営していくことの困難さを示している。海外では、ベンチャー企業に少額出資した後、有望と見込んだ場合は、過半出資により買収し、オープンイノベーションを加速させるといったエコシステムが確立されているが、日本では投資後の出口戦略まで明確に定まっているケースは多くない。(中略)成果を出すためには、投資実行後を見据えた戦略設計や運営体制の構築が急務となる」(青木氏)