PwCは1億ドル規模の本気の社員教育でデジタル・ディスラプションを回避する

今、あらゆる業界が頭を抱えていることだが、大手会計事務所もデジタル・ディスラプションの圧力を受けている。しかし、PwCは、次世代の仕事に従業員を対応させるためのデジタル・アクセラレーター・プログラムを採り入れ、積極的に対処している。

PwCの実施方法は、単に新しい教育素材を配って、それでおしまいというものではない。従業員には18カ月から2年の期間が与えられ、新分野に関する学習に専念できるようにしている。その間、従業員は、就業時間の半分を新しいスキルの勉強に割り当て、残りの半分を、実際にクライアントと仕事をしながら新しい知識を試してゆく。

このプログラムの責任者としてPwCのデジタル能力指導を行っているのはSarah McEneaneyだ。コンサルティングを行う企業として、すべての従業員への新しいスキルセットの提供に力を注ぐことが大変に重要であると、彼女は話している。そのためには、従業員と真剣に向き合い、一連の最新テクノロジーに集中しなければならない。彼らが的を絞ったのは、データと解析、自動化、ロボティクス、AIと機械学習だ。

Constellation Researchの創設者で主任アナリストのRay Wangは、大企業では、従業員が将来の技術に対応できるよう準備させるのが大きなトレンドになっていると語っている。「世界中のほとんどの組織が、従業員のスキルの成長に差があることを心配しています。スキルの再教育、継続的な学習、実践的なトレーニングが、景気の回復と才能を巡る戦いによって復活しています」と彼は言う。

PwCのプログラムが形になる

1年ほど前、PwCはプログラムの開発を開始し、最終的には、コンサルティングのスタッフから事務スタッフに至るまで、5万名の全社員が新しいスキルを身につけられるよう、社内でこれをオープンにすることを決めた。ご想像のとおり、これほどの大企業となると、これはまだ赤ん坊が歩き始めたようなものだ。

イラスト:Duncan_Andison/Getty Images

同社はこのプログラムを、上司が受講候補者を選出するのではなく、社員が自主的に受けられる形にした。やる気のある人間を求めたのだ。そして、約3500名の応募があった。これは良好な数字だとMcEneaneyは思った。なぜなら、PwCにはリスクを嫌う文化があったからだ。そしてこのプログラムは、通常の成長路線を捨てて、新しいチャンスに乗り換えようというものだからだ。申し込みがあった3500名の中から、まずは試験的に1000名が選ばれた。

彼女は、もし社員の大多数がこの再教育プログラムに応じたとしたら、およそ1億ドル(約112億円)という莫大な資金が必要になると見積もっている。PwCのような大企業にとってすら、無視できる数字ではない。しかしMcEneaneyは、すぐにでも取り戻せると信じている。彼女が言うように、近代化を目指し、今のやり方よりも、より効率的な仕事の方法を模索している企業は、顧客から一目置かれる。

どのように実施するか

PwCのリスク保証アソシエイトDaniel Croghanは、データと解析のコースを受けることに決めた。会社から新しいスキルを学べるのは嬉しいが、その方向に進むことに心配もある。一番の理由として、一般的に言って、そこが過去を引き継ぐ業界だからというものがある。「会計業界では、そこで職に就き、ひとつの道に乗っかると、みんなもその道を進むようになります。道を外れてしまうと仕事の妨げになるのではないかと思うと、新しい方向へ行くのが怖いのです」と彼は言う。

イラスト:Feodora Chiosea/Getty Images

しかし、そうした心配は経営陣によって軽減されたという。彼らは社員にプログラムに参加するよう奨励し、それによって不利益を被ることはないと保証してくれたからだ。「この会社はこれを推し進めて、業界内で違いを出すことに専念しています。全社員に投資することで、全員にやり遂げて欲しいのです」とCroghanは言う。

McEneaneyはPwCの共同経営者だが、重役会に変更管理を売り込む必要があったという。会社の将来のための長期的な投資だと、真剣に受け入れてもらうためだ。「早期の成功のためには、会社設立以来のシニアパートナーとCEOとその取り巻きから、プログラムの一任を勝ち取ることが最重要の課題でした」と彼女は言う。彼女は彼らに直接報告を上げ、プログラムの早期成功に欠かせない支持と支援を引き出した。

実現させる

プログラムの受講者は、まず3日間のオリエンテーションを受ける。その後は、自分でコースを進んでゆく。他の受講者と協力し合って勉強を進めることが奨励されている。まったくの初心者から、ある程度の知識を持つ人とが一緒になることで、その科目におけるスキルの幅が生まれる。そこが非常に大切なのだ。同じ建物で働いていれば、オフィスを使うこともできる。または、コーヒーショップで会ったり、インターネットでやりとりすることも可能だ。

すべての受講者は、オンライン学習サイトUdacityのナノ学位プログラムに参加し、選択した専門技術に関連する新しいスキルセットを学ぶ。「私たちには、非常に柔軟な文化があります。……自分のため、そして自分たちのために一緒に働くという働き方をしている社員たちを、私たちは信頼しています」とMcEneaneyは説明している。

最初のプログラムは、12カ月から18カ月のデジタル・アクセラレーター服務期間として提示されたと、Croghanは言う。「この12カ月から18カ月は、プログラムに専念します。期間を変更することもできます。そうしてクライアントとの仕事に戻り、それまで提供していたサービスに新しく覚えたスキルを応用したりも可能です」

このプログラムは始まったばかりだが、ビジネスとテクノロジーの変化の側面を認識するための一歩となる。PwCのような企業は、次世代の仕事に社員が対応できるよう、積極的に対策をしておかなければならない。そしてそれは、すべての企業が真剣に考えておくべきことだ。

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(翻訳:金井哲夫)

CVC運用の課題はガバナンスと事業シナジー実現——PwCが調査レポート発表

事業会社がスタートアップへ投資活動を行うCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)約1年前のレポートだが、ジャパンベンチャーリサーチによれば、事業会社による投資子会社の設立数は2015年に15社、2016年に12社と高い水準で推移している。2017年も3月にPanasonic Ventures7月にToyota AI Veutures10月に日本郵政キャピタル、そして2018年に入ってからは1月にルノー・日産・三菱が共同設立したAlliance Venturesなどといった大型CVCをはじめとしたCVCやファンドの設立は続いている。

日本企業によるCVC設立とスタートアップへの投資は、うまくいっているのか。3月13日、PwCアドバイザリーが発表した調査レポート「CVCファンドを活用したベンチャー企業とのオープンイノベーション」では、CVC関係者が抱える課題の一端が明らかになった。

調査はPwCアドバイザリーが2017年10月、日本国内でCVCファンドの実務に関与する57名から、オンラインによる選択式アンケート調査で得た有効回答をまとめたもの。回答者の所属企業は、売上高500億円以上の規模が半数以上だが、50億円未満の企業も9%ある。

【図1】回答者の所属企業 売上(連結) (n=57)

業種も幅広く、さまざまな業界でCVCへの取り組みが広がっているようだ。

【図2】回答者の所属企業(業種) (n=57)

設立直後は「順調に運用」8割、しかし3年以上経つと約半数に

同調査では「自社のCVCファンドの運用は順調であると思うか?」との設問に、運用1年未満の回答者の81%は「非常に順調」「おおむね順調」と回答している。ところが運用期間が経過するほど、この割合は低下していることが分かった。運用から3年以上経過した回答者の45%は「全く順調ではない」「あまり順調ではない」と回答している。

【図3】「自社のCVCファンドの運用は順調だと思うか?」(運用期間別)
※運用開始前の回答者(n=13)は除く。既に運用を終了した回答者は「3年以上」に含む。

運用面では投資判断への迷いとガバナンスに課題

「順調に運用」と回答したはずの設立直後の担当者にも悩みがある。運用1年未満の回答者では「適正な投資条件で出資できているのか、自信がない」(50%)、「投資担当者の熱意に押し切られ、ほぼ全案件が投資委員会を通過してしまう」(31%)と回答していた。ファンド設立初期では特に、投資判断への迷い、投資判断を監視するガバナンスに課題感があるようだ。

なお案件の選別ができていないことについては、運用3年以上の回答者でも27%と3割近くが課題を感じる結果となっている。ガバナンスを効かせずに案件が通り続けることが、次第に順調な運用ができなくなっていくファンドの割合が増える理由のひとつにもなっているのではないか。

また運用期間が長くなると、今度は成果、とりわけ「シナジー」に関する課題感が強まる。「事業シナジーが思ったほど実現できていない」と回答した割合は、運用1年未満の回答者では0%だったのに対し、3年以上では27%に上った。

【図4】CVCの運用で感じている課題(CVCファンド運用期間別)
※運用開始前の回答者(n=13)は除く。既に運用を終了した回答者は「3年以上」に含む。

「事業シナジーを求める」74%、半数近くは買収までは想定せず

CVCファンド設立の狙いについては、約半数が「事業シナジー」と「財務リターン」の両方に期待する、と回答。「事業シナジーのみ」の回答と合わせると、74%が事業シナジーを求める結果となった。

【図5】CVCファンド設立の狙い (n=57)

一方、投資先への追加出資に関するスタンスについては、「順調にいきそうな会社は、積極的に買収(過半数の株式取得)したい」とした回答者は19%にとどまる。また半数近くの46%が「買収までは想定していない」と回答している。

【図6】投資先への追加出資に関するスタンス (n=57)

PwCアドバイザリー ディールズストラテジーリーダーの青木義則氏は、調査結果に対して以下の通りコメントしている。

「(結果は)目標達成までのストーリーを描き、一貫した戦略のもとでファンドを運営していくことの困難さを示している。海外では、ベンチャー企業に少額出資した後、有望と見込んだ場合は、過半出資により買収し、オープンイノベーションを加速させるといったエコシステムが確立されているが、日本では投資後の出口戦略まで明確に定まっているケースは多くない。(中略)成果を出すためには、投資実行後を見据えた戦略設計や運営体制の構築が急務となる」(青木氏)