集団訴訟をプロジェクト化して支援する「enjin」公開、運営会社は6000万円を資金調達

士業の中ではIT活用がなかなか進まないイメージのある弁護士、法務の世界でも、このところ新しいサービスが増えてきた。契約書の作成・締結が行えるクラウドサービス「Holmes」や、AIを使った契約書レビューサービスの「LegalForce」、「AI-CON」などがそれだ。

5月21日にベータ版がリリースされた「enjin(円陣)」もそうしたリーガルテックサービスのひとつ。集団訴訟を起こしたい被害者を集めて弁護士とつなぐ、集団訴訟プラットフォームだ。プロジェクトに賛同する人を集めるという点ではクラウドファンディングのようでもあるし、事件に適した弁護士とつなぐという点ではマッチングプラットフォームのような仕組みでもある。

enjinを運営するのは、2017年11月に弁護士でもある伊澤文平氏が創業したクラスアクションだ。クラスアクションではサービスリリースと同時に、500 Startups Japanと個人投資家を引受先とする総額6000万円の資金調達をJ-KISS方式で実施したことを発表している。出資比率は500 Startups Japanが5000万円、個人投資家が1000万円で、今回の調達はシードラウンドにあたる。

代表取締役CEOの伊澤氏が弁護士となったのは20代前半のこと。弁護士として、いろいろな詐欺事件の相談を受けてきたという伊澤氏は「詐欺事件の多くに共通するのは、1件あたりの被害額はそう大きくないことだ」と話す。

「たとえば社会人サークルなどでネットワークビジネスに勧誘されて、払ったお金が何も返ってこない、というケースはよくあるが、1人あたりの被害額は10万円とか20万円。一方訴訟を起こすとなると、弁護士のほうもボランティアではないので弁護士費用がかかるが、その費用は1件あたり30万円を超える。そうなると、弁護士は被害者を救いたくても事件を受けることができない」(伊澤氏)

消費者庁による2016年の調査(PDF)では、消費者被害で年間約4.8兆円の被害が出ているが、30万円ぐらいまでの少額被害者の多くは泣き寝入りをしているのが現状だ。

伊澤氏は「少額被害者は多いが、それを助けられないのが歯がゆかった」という。そうした中で、法改正をきっかけに集団訴訟の手続きについて調べる機会があり、「集団訴訟にすることで被害者を救えるのではないか」と考えた。

水俣病訴訟に関わった弁護士とも話してみて、集団訴訟では被害者1人あたりの訴訟負担額を激減できることがわかった、という伊澤氏。「30万円の弁護士費用でも、30人集めれば1人あたり1万円にすることができる。被害者にとっても弁護士にとっても、双方にメリットがあるサービスが作れると思った」とenjin開発のいきさつについて語る。

enjinではまず、被害者が集団訴訟プロジェクトを立ち上げて、同様の被害に遭った人にプロジェクトへの参加を募る。一定数の被害者が集まったところで、enjinに登録した弁護士にプロジェクトが紹介され、弁護団を形成することができる。その後は弁護士主導で裁判外、裁判内での解決を目指していく。

6月には直接の被害者だけでなく、被害者以外からの支援が受けられる寄付機能も追加予定。集団訴訟プロジェクトに賛同する人をスポンサーとして、活動することができるようになるという。

また集団訴訟では、被害者が多数いることから事務手続きやコミュニケーションが煩雑になる。そうした事務やコミュニケーションを円滑にするようなシステムの提供も9月に検討しているそうだ。

現在、enjinでは無料でサービスを公開しているが、今後、登録した弁護士からシステム利用料や広告料の形で費用を受ける予定だという(弁護士法上、事件ごとの紹介料という形は取れないため)。

クラスアクションでは今回の資金調達により、集団訴訟に関する情報提供のためのコンテンツ制作や、サービス開発・運営体制の強化を図っていく。具体的にはエンジニアや編集者などの採用を強化していくという。

クラスアクションはenjinの利用が広まることで、これまで泣き寝入りしていた被害者を救い、表に出なかった事件を顕在化すること、さらに事件の顕在化により加害者への抑止力となることを目指している。

伊澤氏は「埋もれた被害にスポットライトを当てると同時に、弁護士に対する(世の中の)見方を魅力的にしていきたい」とも話している。「司法制度改革で弁護士は増加しているが、事件がそれに比例して増えているわけではなく、限られた事件のパイを取り合うのが今の状況。弁護士は儲からない、といったネガティブな見方をなくすためにも、弁護士の仕事を増やしたい」(伊澤氏)

そういう意味では、ニュースが取り上げる以前に、enjinを起点として問題を発信していきたい、という伊澤氏。詐欺事件のほかにも、労働問題、製造物責任、個人情報漏えい、環境問題、夫婦別姓、株主賠償や著作権侵害など広く社会問題を扱い、「何かあったらenjinに来る、というサービスになっていければ」と語った。

写真:前列左から2番目がクラスアクション代表取締役CEO 伊澤文平氏。後列左端は500 Startups Japan代表 James Riney氏。

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TechCrunch Japan

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