アップロードした契約書のリスクをAIが瞬時にレビューしてくれる「LegalForce」。これまでTechCrunchでも何度か紹介してきた同サービスが、ついに本日正式ローンチを迎える。
開発元のLegalForceは4月2日、昨年8月からβ版として提供していた同サービスをアップデートし、本日より正式版として提供することを明らかにした。
契約書のリスクを1秒で提示、AI搭載のレビュー支援サービス
LegalForceは契約書の「自動レビュー機能」を軸に、「条文検索機能」や「文書レコメンド機能」、「件数レポート機能」などを通じて法務担当者の業務効率化をサポートするサービスだ。
同サービス上にWord形式の契約書をアップロードした後、契約書の類型と自社の立場を指定すると「不利な条文がないか」「欠落している条項がないか」を約1秒でチェック。リスクのある部分については確認すべきポイントとともに修正文例を表示する。
これまで人力で各ポイントを抽出するとなると、Excelなどでチェックリストを作って突合作業をするか、全てを頭の中にインプットしておく必要があった。この作業をソフトウェアに任せることで、抜け漏れをなくすとともに作業時間の短縮を見込める点がLegalForceの特徴だ。
昨年11月に紹介した時点では業務委託契約など5類型に対応していたが、正式版では13類型まで拡大。使える幅も広がった。
そして自動レビュー機能と同様に以前から搭載されていたのが、キーワードによる「条文検索機能」だ。これは自社で作成したひな形や過去にアップロードすることで“自社の契約書データベース”を作成できるというもの。
例えば「損賠賠償」と検索すれば、データベース内から損害賠償に関連する条文を一覧で表示できるため、毎回のリサーチ業務を効率化することに役立つ。
この機能も前回よりアップデートされて「LegalForceライブラリ」が新たに追加。ここには法律の専門家が作成した約100点のひな形が収納されていて、社内ライブラリと同様に特定の契約書や条文を参照したい場合に活用できる。
このような法務担当者の契約書に関する業務を、ブラウザを開かずに“Word上で”実行できるのがLegalForceのユニークなポイント。アドイン機能を使うことでWordから同サービスを起動することが可能なため、担当者は「メールで送られてきたWord形式の契約書をWordで開き、そのままレビューまで完結させてしまえる」というわけだ。
LegalForce代表取締役CEOの角田望氏によると、この機能が現場の担当者にはものすごく刺さっているそう。1台のPCを使ってブラウザとWordの契約書ファイルを何度も行ったり来たりするのは担当者にとって負担が大きいため「テクノロジーの利点を活かしつつ、現場の手間を極力省く」ことを重視した結果、このような仕様に行き着いたのだという。
似ている契約書を自動抽出し、差分表示できる機能も追加
上述したような既存機能のアップデートに加え、昨年末から新たに搭載された機能もある。
今見ている契約書と似ている契約書を自動で抽出して、両方の差分を表示する「文書レコメンド機能」もそのひとつ。社内のライブラリに膨大な契約書が蓄積されていたとしても、その中から最も近しい契約書を見つけ、内容を比較した上で重要なポイントをレビューできるようになった。
「典型的な利用シーンとしては過去に似たような契約をしていた取引先などと、また新たな契約を結ぶような時。『以前と何が変わっているのか』を把握するのが重要だが、これまでは自分の記憶ベースでしか似ているものを探せなかった。LegalForceの場合は自然言語処理の技術を用いて自動で探すことができるので、担当者が交代していたり、忘れてしまっていても問題ない」(角田氏)
そのほか、各担当者がどんな契約書を何件レビューしたのかを可視化する「件数レポート機能」や、レビューの基準をコントロールできる「ポリシー制御機能」なども追加。これらの機能を搭載した正式版は月額10万円〜提供する計画だ(ユーザー1人分。追加ユーザー1人あたり2万円)。
今後はPDFや英文の条文検索への対応も
昨年8月のβ版ローンチから約7ヶ月、角田氏によるとこれまでレビューにかけられた契約書は8000件を突破。それに伴い契約書のレビュー精度も上がってきていて、まだまだ類型によって異なるものの「9割5分くらいまでに上がってきた類型も増えてきている」という。
β版の利用企業社数は約240社。7割が上場企業もしくはその子会社と規模の大きい企業が中心で、すでに正式版の導入が決定している企業も40社ほどあるそうだ。
「特に(契約書への記載が)ないものをきちんと検出してくれる部分に対して利便性を感じてもらっている。全て人力で対応していた時に比べてレビュー時間が半分になり、レビューの質も上がったなどの声も複数頂いた。その反面、レビュー精度に関して『間違えますよね』という反応が一定数あったのも事実。その精度を改善してリリースしたのが今回の正式版だ」(角田氏)
今後の展望としては、引き続きLegalForceの軸であるレビュー精度の向上に取り組みつつ、春から夏頃にかけてPDFファイルや紙ベースの契約書(OCR機能)、英文の条文検索への対応などを順次進めていく方針。平行してWordアドイン機能のアップデートも行う予定だ。また中長期的にはレビュー以外の領域へのサービス拡張も考えているという。
「これまでテクノロジーとは無縁に仕事をしてきた法務の現場を、テクノロジーを活用してサポートしていきたいという思いは初期から変わらない。本来やるべきことがもっとあるのに、定型的なオペレーション業務が忙しくて手が回らないというのが多くの現場で共通する課題だ。それを解決するプロフェッショナル向けのツールとして提供していきたい」(角田氏)
LegalForceは森・濱田松本法律事務所出身の2人の弁護士が2017年に創業したスタートアップ。弁護士としての経験に京都大学と共同で研究開発を進める自然言語処理技術を統合して、法務担当者の契約書レビュー業務を支援するサービスを開発してきた。
同社は2018年4月に京都大学イノベーションキャピタルなどから8000万円を、11月にジャフコなどから約5億円(1月には同ラウンドの追加調達として4000万円を調達したことも発表)を調達している。