ドリームインキュベータ(以下DI)は10月16日、国内スタートアップへの投資を目的とする最大50億円規模の1号ファンド「DIMENSION」を組成したことを明らかにした。
同ファンドでは主にシード・アーリー及びIPO前のグロースステージのスタートアップを対象に、1件あたり数千万円〜数億円の出資を行っていく計画。投資領域はインターネットサービスやディープテック関連を中心に、幅広い企業が対象だ。
主要なLPは初のファンド出資になる秋元康氏のほか、みずほ銀行やあかつき証券など。詳しくは後述するが社内のリソースだけでなく、LPを含めた社外のネットワークも活用しながらスタートアップの成長に伴走するという。
なおこのファンドは専門子会社として設立されたDIMENSIONが運営していくとのこと。今回は同社代表取締役の宮宗孝光氏や、弁護士でありファンドのビジネスプロデューサーも担う下平将人氏に話を聞く機会を得たので、ファンド設立の経緯や特徴などをもう少し掘り下げて紹介していきたい。
累計で150社以上に投資、28社のIPOを実現
そもそもDIとしては2000年の創業以来、ベンチャー投資育成事業という形で約20年近くにわたり国内外のスタートアップへの投資活動を続けてきた。2018年12月時点で累計156社に投資をしていて、28社がIPOに至っている。
DIMENSIONの代表を務める宮宗氏が国内の投資業務を統括するようになった約2年半前からは、シード・アーリー期の企業や若い起業家への投資をより積極的に実施。ギフトECのTANP(Gracia)や給与即日払いサービスのペイミー、買取価格比較サービスなどを展開するジラフなどはまさに20代の起業家が経営するスタートアップだ。
DIのスタートアップ投資は投資先に伴走するハンズオン型。大企業の戦略策定やスタートアップの支援などコンサルタントとして現場経験が豊富な宮宗氏、法律事務所だけでなく社内弁護士としてLINEで働いていた経験もある下平氏を始めとした社内メンバーによる多面的な支援が特徴だ。
たとえば法的に複雑な領域で事業を展開するスタートアップの場合は現行法を考慮したサービス設計や最新情報のキャッチアップが不可欠になる。上述したペイミーが取り組む「給与の前払い」などはまさにその典型例。下平氏は同社の社外取締役を務めるが、グレーゾーン解消制度の活用なども含めて法務の面を中心にペイミーをサポートしてきた。
このような社内リソースを用いた成長支援に加えて、事業を通じて培った様々な業界の大企業とのネットワークを用いたアシストも可能。出資先と大企業の提携やサービス連携など、DIがハブとしての役割も担ってきた。
「繋がり」活かして多面的な支援へ
宮宗氏によるとこの支援スタイルはDIMENSIONでも継続していくとのこと。むしろそれをさらに加速させていくことを考えた結果、今までのような本体投資ではなくファンドを設立することに繋がったようだ。
「ありがたいことに『資金以外の支援が充実している』という観点で出資の相談を頂く機会が増えてきた中で、自己資金だけではそのニーズに応えきれなくなってきたというのも1つの背景。今までと方向性自体は大きく変わらないが、そこを強化してよりスタートアップ投資を加速させていくという意味でも、新たにファンドを作ることを決めた」(宮宗氏)
宮宗氏の話ではファンドとして独立することで、特にLPを中心とした外部企業との連携も一層強くしていきたいとのこと。今回はLPとして秋元康氏がファンドに出資しているが、もしかしたらエンタメ系のスタートアップと秋元氏のコラボレーションも実現するかもしれない。
また「DIがスタートアップへ出資しているイメージを持っていない」起業家もまだまだいるだろうから、投資家としてのブランドを形成していく狙いもあるようだ。
DIMENSIONでは「真摯に経営に向き合う起業家や経営チーム」に対して出資を行い、出資先を一定数に絞りながらフォローオン投資も含めて密にサポートしていく方針。特に今回宮宗氏は1つのキーワードに「連携」を挙げていて、DIの保有する豊富なネットワークも活用しながら、投資先のスタートアップの成長に伴走していきたいということだった。
「起業家やスタートアップはどうしても自分たちの業界で固まってしまいやすい傾向がある。一方で時代を作ってきた起業家達は、例えば孫さん(ソフトバンクグループ代表取締役の孫正義氏)がシャープの佐々木さんの支援を受けて事業を大きくしたように、年配者や他業界の実力者の力も借りながら会社を成長させている。若いスタートアップと大企業を結びつけ、連携を促進できるような役割も担っていきたい」(宮宗氏)
スタートアップ向けの人材紹介サービスも開始
DIでは上述した取り組みの他に投資先を中心としたスタートアップ向けの人材紹介サービス「CAREEPOOL(キャリプール)」も本日よりスタートしている(運営自体はDIが行い、集客やブランディング活動をDIMENSIONが支援)。
最近はVCが投資先の採用を支援する活動がかなり活発になってきているけれど、DIの場合は事業成長や経営支援に関心を持つ学生や若手ビジネスパーソンとの接点が多いことが特徴。新卒採用だけでも毎年数千人単位の募集があり、採用選考試験の受講者やDIの卒業生がスタートアップで活躍するシーンも増えてきているそうで、この繋がりを活かしていく。
DIMENSIONのWebサイトをメディア化してスタートアップに関心がある人向けに「起業家ストーリー」「職種別キャリアガイド」「ベンチャー転職TIPS」などのコンテンツを発信していくほか、対象となる企業を深く理解するメンバーが事業内容やカルチャーを紹介しながら、求職者の転職活動をサポートする計画。運営にあたっては専任のタレントマネージャーも登用する。
実際のところ過去にDIの選考を受けたという人やOBOGに会う機会が頻繁にあり、双方で『実はスタートアップへの転職に興味がある』『こういったスキルがある人を投資先で探している』といった相談をする場面も多いとのこと。CAREEPOOLではこの「緩やかな繋がりを強くして、信頼できる人との輪を回していきたい」(宮宗氏)という。