将来の食料不足やタンパク質危機への解決策となる次世代食品として、植物由来のものをベースにした代替肉や昆虫食などの“代替タンパク質”を手がける企業が注目を集めている。
本日3月12日に4500万円の資金調達を発表したエリーもまさにこの領域に取り組む1社。日本に馴染みのある「蚕」を原料としたシルクフードを開発するスタートアップだ。
今回のラウンドにはibis partners、三井住友海上キャピタル、京葉瓦斯の3社が投資家として参加した。エリーはこれまで昨年10月に紹介した東大IPCのインキュベーションプログラムのほか、伊藤忠商事やキリン、大正製薬などが実施するアクセラレータプログラムに参加した経験はあるものの、本格的な外部調達は初めてとなる。
高栄養価の食品として大きな可能性を秘める「蚕」
エリーによると、京都大学との共同研究を通じて蚕にはタンパク質やビタミンといった基本的な栄養素だけでなく、50種類を超える多くの機能性成分が含有されていることが判明したそう。中には希少性の高い機能性成分も多数含まれるため、蚕は高栄養価の健康食品として大きな可能性を秘めているという。
また日本ではかつて全農家の1/3が養蚕業を営んでいたほど馴染みがあるもので、なおかつ「世界的に見ても日本の研究はかなり進んでいる」ことから、エリー代表取締役の梶栗隆弘氏いわく日本の強みも活かせる領域とのことだ。
同社では現在も京都大学や東京大学の研究室とタッグを組みながら蚕×食の切り口で研究を継続中。蚕の持つ機能性成分に関するものだけでなく、食品科学的なアプローチで風味成分を分析したり、蚕に違う餌を食べさせることで栄養分や味をデザインしたりするような研究にも取り組む(一部は今後計画中のものも含む)。
研究開発と並行して1月からは期間限定のリアル店舗「シルクフードラボ」を東京・表参道にオープンした。パテの50%に蚕を使用したシルクバーガーやおやつ代わりにもなるシルクスナック、シルクシフォンケーキなど、各分野の料理人の協力のもと開発したメニューを現地で販売している。
元々は3月末までの予定だったが、5月末まで期間を延長。最近ではシルクピッツァやシルクてりやきバーガーなどの新メニューを追加したほか、Uber Eatsを通じたデリバリーも始めている。僕もシルクスナック(600円)を食べたことがあるのだけど、いい感じに塩も効いていて想像以上に食べやすくどんどん食べてしまった。
ただ現在は顧客の反応を確かめるための試験店舗的な意味合いが強く、さらに表参道という立地も影響してか全体的に「少し値段が高め」だと感じる人もいるだろう。今後エリーでは一般加工食品の規格の商品を開発し、Webなどを始めとしたチャネルで本格的に販売することを計画しているそうで、そのタイミングではもっと安い価格で提供できる予定だという。
シルクフードの社会実装目指す
冒頭でも触れた通り、メディアなどでも“代替タンパク質”に関連する話題が取り上げられることが増えてきたように思う。
海外ではビヨンド・ミート(Beyond Meat)やインポッシブル・フーズ(Impossible Foods)、メンフィス・ミーツ(Memphis Meats)などを筆頭にさまざまな企業が代替肉を手がける。現時点では試行錯誤の段階ではあるようだけれど、米国ではこうした企業の開発した代替肉がマクドナルドやケンタッキーフライドチキン、デニーズなど大手飲食チェーン店で取り扱われる事例も増えてきているようだ。
国内でも日本ハムが3月より「NatuMeat」ブランドで大豆やこんにゃくなど植物由来の原料を使用した商品の展開を開始。1月にニチレイフーズと資本業務提携を締結したDAIZや2018年5月に3億円を調達したインテグリカルチャーなど複数のスタートアップも生まれている。
昆虫食に関しても食用の昆虫を導入する動きが徐々に活発化。EUでは2018年に取引が自由化され、代替タンパク質としての摂取を前提とした制度整備が進み、フィンランドでは大手食品メーカーのファッツェルがコオロギの粉末を用いて作った「コオロギパン」などの事例もある。
コオロギは昆虫食の中でも社会実装が進みつつある分野かもしれない。米国のExoがコオロギ粉末を活用したプロテインバーを開発するほか、良品計画も2020年春を目処に「コオロギせんべい」を無印良品の一部店舗とネットストアで販売することを発表している。
こうした動きはエリーにとっても追い風で、梶栗氏も「特に大企業が昆虫食を取り入れるのはもっと時間がかかると思っていた」と話す。実際エリーの元にも「原料としての蚕」に興味を示した大企業から問い合わせも来るようになったそうだ。
同社では今回の資金調達を機にさらに食品研究および商品開発、マーケティングなどに投資をして、シルクフードの社会実装を目指していく方針。並行して実施しているクラウドファンディングでも実店舗の運営費などを集める考えだという。
「最終的には原料メーカーとしてのビジネスも考えている。そのためにはまず全国の人に食べてもらって『シルクフードありだよね』『昆虫食ありだよね』と思ってもらうことが必要だ。そこで成果を出せれば、食料メーカーや飲食店にも関心を持ってもらい、シルクフードを広げていくことにも繋がる。まだまだ研究開発段階で、フードテックと言えるほど“テック”の部分を確立できている状態ではないが、数年かけてシルクフードをしっかりと世界へ普及させられるように事業を成長させていきたい」(梶栗氏)