ソフトバンク出資の保険販売LemonadeがIPO申請

住宅所有者と賃貸者に保険を販売するLemonade(レモネード)が米国6月8日、新規株式公開を申請した。SoftBank(ソフトバンク)やSequoia(セコイア)の部門、General Catalyst(ゼネラル・カタリスト)、Tusk Venture Partners(タスクベンチャーパートナーズ)などからかなりの資金を調達しているLemonadeが発表した業績は急発展中のインシュアテック市場に光を当てるものだ。インシュアテック市場はここ数四半期、かなりの資金を引きつけてきた。

TechCrunchは2019年初めにインシュアテック業界を特集(未訳記事)した。なぜ保険マーケットプレイスがそんなにも多くの資金を、しかも急速に引きつけているのかについてだ。Lemonadeはフルサービスの保険プロバイダーという点で、保険マーケットプレイスとは異なる。

実際、フォームS-1にはこう記載されている。

テクノロジー、データ、AI、現代的なデザイン、行動経済学を駆使することで、当社は保険をより手軽で手の届きやすいものに、そしてきめ細かく、社会的インパクトのあるものにしていると確信している。そのために、米国と欧州で全額出資の保険会社と垂直統合された会社を設立した。フルテクノロジーが会社を支える。

Lemonadeは、保険をより良いビジネスに、そしてより良い消費者プロダクトにするテクノロジーを持っているとうたっている。そそられるものだ。保険はみんなのお気に入りの商品というわけではない。保険のマージンが少なければ、素晴らしい。もしLemonadeがそのプロセスで具体的に純利益を生み出せたら二重に素晴らしい。

数字を見てみよう。LemonadeのIPO資料を紐解くと、同社は保険からいくぶんかの利ざやを稼ぐことができるが、営業コストをカバーできるには程遠い。この資料は、Zoomの驚異的な儲けの多いデビューよりもVroomの益のない上場を(未訳記事)思い起こさせる。

数字

申請書類によると、Lemonadeは1億ドル(約108億円)のIPO規模を想定している。この数字は不正確だが、方向性としては使える。この一時的な目標額が示すのは、同社が5億ドル超(約539億円超)ではなく、1〜3億ドル(約108〜323億円)の上場での調達を目指そうとしている可能性が高いことだ。

これまでにプライベートキャピタルで4億8000万ドル(約517億円)が投じられたLemonadeは、調達額を倍増とまではいかなくても増やそうとしている。そうした資金でLemonadeはどうしたいのか。まだ損失が出ているなら、損益の改善だ。同社が提供したチャートを詳しく見てみよう。

まず申請の最初にあった3つの棒グラフだ。

総計上収入保険料(GWP)は、販売した保険プロダクトから予想される売上高のトータルだ。想像できるかと思うが、Lemonadeが時間の経過とともにより多くの保険プロダクトを販売すると仮定すればこの数字は大きくなる。

2つめのチャートは、GWPの結果に比べて同社が正味ベースでいくら損失を出しているのかを詳細に示している。これは回りくどいメトリックで、あまり力強いものではない。LemonadeのGWPは2018年から2019年にかけて倍以上になった。しかし同社のGWPのドルあたりの純損益はずっと少ない。これは芳しくない営業レバレッジを意味する。

最後のチャートはよりポジティブなものだ。同社は2017年に徴収した保険料よりも多くの保険金を支払った。そして2019年までに保険プロダクトで利ざやが出るようになった。ここで示されているトレンドラインは堅調で、2018年から2019年にかけて急激に改善している。

そしてこのグラフもある。

好調に見える。誇るべきものとして現にマイナスのままである調整後のEBITDA利ざやの改善はユニコーンそのものだ。しかし2020年はアニマルスピリットが見られ、おそらくこれが投資家の追従を引き起こす。

とにかく数字を見よう。下に主な収入源を示した。

まずいくつかの定義。正味経過保険料とは何だろう。Lemonadeによると「総計上収入保険料(GWP)の経過した分で、再保険契約のもとにサードパーティの再保険者に引き渡された経過分を減じたもの」だ。販売前のソフトウェアの売上高のように、保険料収入は「通常、保険契約の経過比例となる」。

2つの数字が同社の売上源だ。2つの合計はかなりの成長を見せている。2018年に2250万ドル(約24億円)だったのが、2019年には6730万ドル(約73億円)と199.1%増えた。直近では、同社の第1四半期決算で、2019年の売上高が1100万ドル(約12億円)だったのが2020年には138.2%増の2620万ドル(約28億円)になった。ゆっくりした伸びではあるが、収穫不足の公開市場に成長を示すには十分だろう。

次は損失について取り上げよう。

欠損

利ざやについては少し厄介なので後で取り上げる。ここで問題になるのは、支払い能力に比べてLemonadeのコスト構造が耐えがたいものであることだ。損金は2018年に5290万ドル(約57億円)だったのが、2019年には1億850万ドル(約117億円)に増えた。直近では、2160万ドル(約23億円)だった2019年第1四半期の損金は、2020年第1四半期に3650万ドル(約39億円)に膨れ上がった。

実際のところ、Lemonadeは時間の経過とともに損を重ねるばかりのように見える。なので、同社はどのようにして成長しながらそのような大きな損失を出しているのだろうか。ここにヒントがある。

ごちゃついているが、理解は可能だ。まず営業収入が、我々が以前目にしていたGAAP売上高メトリクスといかに異なるかを見よう。営業収入はnon-GAAPの数字で、「正味資産運用収益を加える前、再保険者に引き渡された経過保険料を差し引く前の総売上」を意味する。

そうした点を別にすると、真に関心が向けられるのは調整後の粗利益だ。これは「正味資産運用収益を除外し、純損失や損害調査費、繰延新契約費、クレジットカード処理費用など他の売上コストを減じた総売上」と定義されている。つまり売上総利益を意味するが、実際のところはそうでない。うんざりする。Lemonadeがすでに調整していることを考えると、同社が第1四半期に540万ドル(約5億8000万円)しか生み出せていないのは特筆すべきだろう。

同社の第1四半期3カ月間のGAAP売上高が2620万ドル(約28億円)だったのを思い出そう。なので同社の粗利を調整すれば、売上総利益率は20%をほんの少し上回ることになる。

それが何だろうか?同社の出費はかなりのものだ。比較的利ざやが少ない売上をあげるための販売やマーケティングに第1四半期だけで1920万ドル(約21億円)を費やしている。より正確に表現すると、Lemonadeは2020年第1四半期のGAAP販売とマーケティングの28%をカバーするだけの調整後粗利益を生み出した。

いずれにせよ、同社は2019年にSoftBankから3億ドル(約323億円)を調達し、キャッシュは十分にある。実際、2020年第1四半期末時点で、「キャッシュと短期投資で3億400万ドル(約327億円)」ある。営業活動によるキャッシュバーン(1940万ドル=約21億円)を長期間維持できる。では、なぜ上場するのか。

Extra Crunchに書いたように、IPOマーケットが成長株にオープンであることをVroomが示し、そしてソフトバンクは勝つ必要があるからだ。投資家がどのような反応を示すかは今後を待つとして、このIPOは上場のタイミングを図ったもののようだ。誰がそのことについて怒ることができるだろうか。

画像クレジット: dem10 / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。