有害コンテンツと戦うAIプラットフォーム開発のSpectrum Labsが1000億円超を調達

米国大統領選挙を40日後に控え、米国人の目はネット上の会話に集中している。同時に、人々の判断を惑わそうとネットで拡散される本物そっくりの偽動画やフェイクニュースや誤解を招く広告にも強い関心が寄せられている。

だが政治的発言は、もちろん、インターネット利用者が制作したコンテンツを悪用し、有害な結果を引き起こそうとする目論見の一手段に過ぎない。米国時間9月24日、AIでそうした行為全般に対処しようというスタートアップが資金調達を発表した。

Spectrum Labs(スペクトラム・ラボズ)は、コンテンツのモデレーション、追跡、警告を行い、さらには、嫌がらせ、ヘイトスピーチ、暴力の扇動、その他40種類の有害行為を、英語の他数カ国語で阻止するためのアルゴリズムと一連のAPIを開発し、1000万ドル(約10億5000万円)のシリーズA投資を獲得した。同社はこの資金を用いてプラットフォームの拡大を計画している。

このラウンドはGreycroftが主導し、Wing Venture Capital、Ridge Ventures、Global Founders Capital、Super{set} が参加している。現在までに同社は1400万ドル(約14億8000万円)を調達した。

Spectrum Labsが有害な政治的発言と戦うようになったのは偶然ではない。

CEOのJustin Davis(ジャスティン・デイビス)氏によれば、このスタートアップは、2016年の前回の大統領選挙の余波の中で創設された。そのとき、彼と、マーケティング・テクノロジー畑出身の共同創設者で現CTOのJosh Newman(ジョシュ・ニューマン)氏は、オンライン上のあらゆる有害コンテンツとの戦いを支援する何かを作りたいと感じていた。それは、選挙の行く末ばかりでなく、インターネットやそれ以外の場所で毎日繰り広げられ、固定化されてきた大きな仲違いにおいても大きな役割が果たせる。ちなみに、2人の共同創設者と9名ほどの従業員は、みなKrux(ク kjラックス)での、そしてKruxを買収した後のSalesforce(未訳記事)での同僚だった。

「私たちは、みんなでそこに介入する方法を探りました」とデイビス氏。「自分たちのビッグデータの経験を生かしたいと考えたのです」。Kruxは、マーケターのためにオンラインコンテンツを分類し、キャンペーンの効果をより正確に測定する事業を専門としていた。「世界の役に立つためにね」と。

現在Spectrum Labsは、Riot Games(ライオット・ゲームズ)をはじめとするゲーム業界の大手、Pinterest(ピンタレスト)などのソーシャルネットワーク、Meet Group(ミート・グループ)などの出会い系サイト、メルカリなどのマーケットプレイス、DTCブランド、さらには社内の会話をトラッキングしたいと考える企業など幅広い分野の顧客を有している。

同社の主要プラットフォームはGuardian(ガーディアン)と呼ばれ(ロゴはよく似ているが同名の新聞とは異なる)、必要に応じてダッシュボードの形態になる。また、内部システムに統合して単にサービスのセットとして使うこともできる。

利用者はこの技術を使って、既存のポリシーの確認や検査をしたり、ポリシー改善の手引として利用したり、またはこれをフレームワークとして新しいサンプルを作り、コンテンツのトラッキングが上達するようラベリングしてモデルのトレーニングを行うこともできる。

コンテンツのモデレーションのためのツールは、もう数年前から出回っているが、たいていのは人の言葉を単純に補完したり、キーワードを検出するといった程度のものだ。今なら大量の誤検出が心配される。

最近になって、人工知能がその作業をパワーアップしてくれたのだ、ソーシャルメディアやチャットが一般に大人気となり、ネット上の会話が飛躍的に増加したこともあって、その登場には相当待たされた。

Spectrum LabsのAIベースのプラットフォームは、現在40種類以上の有害な行為を検出できるよう設定されている。嫌がらせ、ヘイトスピーチ、詐欺、いい顔をして人につけこむ、不法な勧誘、人の個人情報をさらすなどの行為のプロファイルを、世界の研究者や学会の意見を元にあらかじめ用意していたのだが、さらに多くのデータをウェブから取り込みつつ洗練を重ねている。

有害な行為を止めようとAIを活用しているスタートアップは、他にもある。たとえば今年になって、やはりソーシャルメディアでの会話に焦点をあてたSentropy(セントロピー)というAIスタートアップが資金調達(未訳記事)してステルスモードから姿を現した。L1ght(ライト)もネット上の有害コンテンツに立ち向かう事業に資金を調達(VentureBeat記事)した。

実際に注目すべき点は、善なる戦いをビジネスとするスタートアップの台頭だけではない。そんな企業を支援したいという投資家が現れたことだ。大儲けできるスタートアップとは言えないかもしれないが、長い目で見て社会を良くする努力であることに間違いはない。

「ジャスティンとジョシュには根性と立ち直る力があり、それが独創的なリーダーとチームをまとめています」と、GreycroftのベンチャーパートナーAlison Engel(アリソン・エンゲル)氏は言う。「しかし投資家として私たちは、体系的問題を解決するには資金が必要であることも承知しています。彼らを支援しなければなりません。それを成功させるためには連帯が欠かせません。プラットフォームを統合するのです。その多くはデータに起因する問題なので、そこを頑強にすることです。次にそれを支える人、そして3番目に資金です」。

「スタートアップ投資家の間で潮の流れが、そして投資先の選択が変化してきている」とエンゲル氏は感じている。「投資コミュニティーの支援を求めるなら、コミュニティーが発展して栄えることを望むなら、私たちは、そこにおける自分の価値体系は何かを考えることが重要です。私たちは、より大きな公益の一部となるプラットフォームに投資する必要があります。そうすれば、投資家もそこに関与するようになります」と締めくくった。

画像クレジット:Towfiqu Photography / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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