マイアミの投資家8人に聞く、米国最南端のテックハブの展望(前編)

サンフランシスコやニューヨークからの集団脱出が、ここ15年ほどで着実にテックハブへと成長してきたマイアミに大きな影響を与えている。私たちは今、マイアミにとって重要な「瞬間」を目撃しているが、多くの人はこれが一過性のブームではなくテック業界の傾向として定着することを望んでおり、そのために努力している。

1月下旬、SoftBank Group International(ソフトバンク・グループ・インターナショナル)は、マイアミで爆発的に成長しているテック業界を対象とした1億ドル(約104億円7000万円)のファンド設立を発表した。この記事で説明されているように、これはマイアミのテックブームが本物であることを裏付けている。この発表に先立ち、ソフトバンク・グループ・インターナショナルはTechCrunchに次のように語った。「ますます多くのスタートアップが拠点を置くようになり、マイアミは、増加する需要に素早く対応できるハブへと急成長している。新興分野であるエルダーテック(高齢者を対象としたテクノロジー)からバイオテックまで、マイアミは、起業家として商機を探す移民やマイノリティに唯一無二の機会を提供している魅力的な投資市場だ」。

パンデミックが変化を促進した。マイアミの住民たちは、サウスビーチに多くの人材が流入し、ひいては彼らの銀行口座も移動してくることを願いながら、新しい住人を歓迎し、彼らが新生活に慣れることができるようサポートした。TechCrunchは、マイアミの現状と今後の展望について、マイアミを拠点とする投資家にインタビューを行った。

前編では、以下の投資家からのインタビュー回答を掲載する。

Marcelo Claure(マルセロ・クラウレ)氏、Softbank Group Intl.(ソフトバンク・グループ・インターナショナル)、CEO

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

ますます多くのスタートアップが拠点を置くようになり、マイアミは、増加する需要に素早く対応できるハブへと急成長しています。新興分野であるエルダーテック(高齢者を対象としたテクノロジー)からバイオテックまで、マイアミは、起業家として商機を探す移民やマイノリティに唯一無二の機会を提供している魅力的な投資市場です。2012年から2018年にかけて、マイアミ・デイド郡のテック部門は40%の成長を遂げました。これは、堅調な成長軌道に乗っていることを示しています。今後数年はこの成長トレンドが続くと予想しています。

さらに、「まず始めること」が最大の難関であることも理解しています。本社機能が集まる都市になるための第一歩は、優秀な人材の確保です。マイアミには、生活費の低さ、ライフスタイル、成長に資する機会など、いくつもの魅力的な側面があります。ラテンアメリカとの文化的な交流が盛んなマイアミは、ラテンアメリカの企業や創業者が事業を米国へとシームレスに展開するための自然な架け橋となる立ち位置にあります。ソフトバンクは、今こそ飛躍のチャンスと考え、マイアミ市場でテック業界のエコシステムを支援することにしました。

マイアミは常に、当社にとって大切な場所でした。当社が50億ドルを投じて設立したLatam Fund(ラテンアメリカ・ファンド)はマイアミで誕生し、本部もここにあります。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

リモートワークが世界中でニューノーマル(新しい常態)として急速に浸透しています。これはつまり、人材と起業に関する地理的な障害がなくなるということです。マイアミには、州所得税がないこと、アートや文化の振興に積極的であること、活発なライフスタイルに適した気候に恵まれていることなど、他の市場よりもはるかに優れた強みがあります。フロリダ州にはテック分野と金融分野の人材が大挙して押し寄せています。2020年9月の発表では、1日あたり1000人がフロリダ州に移転しているとのことでした。これは驚異的な数です。

リモートワークは今後のビジネスを支える基盤の一部となりますが、それでも、企業風土を構築するうえで対面のやり取りに代わるものはありません。企業は、従来型のオフィススペースを多少削減するかもしれませんが、主要な本社機能を置けるコワーキングスペースまたはレンタルスペースを探し続けるのではないかと思います。そのため、全体的にみれば。市内に位置するオフィスの数は大幅な増加傾向が続くと見込んでいます。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

ソフトバンクは、フィンテックからアグリテック、教育分野に至るまで、さまざまな分野のテクノロジー企業へ投資していますが、とりわけ、これらの分野のデジタルトランスフォーメーションを担う起業家や会社に投資しています。また、そうした起業家が拠点とする都市の勢力図が、昨年大きく変化したことも認識しています。起業家が多く集まる地域は、長い間シリコンバレーとニューヨーク市が二強でした。しかし、今では、ダラスやオースティン、そしてもちろんマイアミにも起業家が多く集まってきています。これにはマイアミ市のSuarez(スアレス)市長のたゆまぬ努力が大きく貢献しています。そのおかげでマイアミはイノベーションとテック産業の最前線に立っているのです。

マイアミで頭角を現しているビジネスの多くが、当社の求める投資対象条件に合致します。当社は、ラテンアメリカ・ファンドを通して、ラテンアメリカ地域に重点を置く企業へ投資しています。VCコミュニティにおける多様性とインクルージョンという積年の問題に本気で取り組むため、黒人やラテン民族、アメリカ先住民の起業家に焦点をあて、1億ドル(約104億7000万円)のOpportunity Fund(オポチュニティ・ファンド)を立ち上げました。これまでのところ、700社以上の審査を実施し、マイアミで台頭しているヘルスケア、SaaS、フィンテック、ゲームなど多岐に渡る分野で約20件の投資を行い、合計2000万ドル(約21億1000万円)を投入しています。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

どの市場でも、その市場ならではの課題に直面するものですが、マイアミ、そしてフロリダ州は全体的に新規参入への障害がはるかに少ない市場です。実績があり多様性に富む地元の専門家たちのネットワークは、企業にとって非常に価値の高いリソースとなります。有名なテック企業やVCがマイアミに移転しており、後に続くよう他の企業にも促しています。

Keith Rabois(キース・ラボイス)氏がそのよい例です。ラボイス氏の今年の抱負は、シリコンバレーからマイアミへの大移動を支援することです。マイアミがテック業界におけるホットスポットであることをアピールする動きが増えています。ソフトバンクはマイアミと深いつながりがありますので、他の企業家をマイアミへ誘致できることをうれしく思っています。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。

Emil Michael氏(エミル・マイケル氏、元Uber(ウーバー))、Shervin Pishevar氏(シェルヴィン・ピシェヴァー氏。元Uberで、Sherpa Capital(シェルパ・キャピタル)の創業者)、Martin Varsavsky氏(マーティン・ヴァルサフスキー氏。元Jazztel(ジャズテル)で、FON(フォン)の創業者)、 Alexis Ohanian氏(アレクシス・オハニアン氏、Reddit(レディット)共同創業者)。

German Fondevila(ジャーマン・フォンデヴィラ)氏、Clout Capital(クラウト・キャピタル)、投資マネージャー

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。マイアミはここ数年、多様な人々を惹きつけてきました。また、最近になってテック業界や金融業界の企業がさらに増加しました。このように集まってきた人や企業が、単なる寄り集まりであることを超えて、どのように発展していくと思いますか。  

私は、2016年にスペインのバルセロナからマイアミへ引っ越してきました。そして、この都市の持つ可能性に気づき、この地に留まることを決めました。まず留意すべきなのは、マイアミのエコシステムまだ形成途中で、発展途上だということです。今後数年の間に、スタートアップシーンにおけるマイアミの存在感はより強くなると思います。より多くの才能がマイアミに移り住み、それによってもっと多くの企業がこの地へ本拠地を移すことを私たちは望んでいます。マイアミは文化的にも豊かで刺激的ですし、他の都市に比べて笑顔にあふれていると感じます。

重要なのは、「誇大広告」に飛びつかないことです。この地は可能性に満ちていますが、だからといって「ローマは一日にしてならず」です。強固なスタートアップコミュニティを築くためには、いくつかの層を積み上げる必要があります。簡単に解決することのできない、さまざま要素を含んだ複数の問題が絡み合っています。これはいわば、長期間にわたるゲームなのです。そのことを理解して期待値を調整する必要があります。マイアミをサンフランシスコやニューヨークと比較する人がいますが、それは滑稽に思えます。30年前のサンフランシスコやニューヨークが、すでに今日のようなスタートアップハブになっていたでしょうか。そんなことはありません。足りないものがたくさんあったはずです。起業家精神を持つ人々は「作られている途中」の場所に引き寄せられるのです。その都市の未来を形作る役割を担うことができて、それが自分自身の未来にもつながるわけですから。

私たちはまた、もっと頻繁に集って話し合いの場をもち、より計画的にマイアミの成長を支えていく必要があります。マイアミに移住した当時、私は創業者でした。衝撃的だったのは、マイアミのエコシステムではお互いに協力し合う人があまりいないということでした。みんながそれぞれ自分のことをしているように見えました。私は常々、何らかの形の「スタートップ協議会」を設けるべきだと考えてきました。関連性の高い、適切なステークホルダーたちが集まり、組織的に動いてマイアミの強みを活用するのです。Francis Suarez(フランシス・スアレス)市長の近年の活躍は素晴らしいですが、スアレス市長がシグナルに含まれるノイズを識別できるよう、彼をサポートする存在が必要だと思います。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。 

私はここ数年、リモートワーク、具体的には労働力の分配という考え方と、それを支えるインフラを支持してきました。リモートワークとはパジャマ姿で自宅から働くか、もしくはカリブ海のどこかのビーチで仕事をすることだと人々は考えています(実は両方とも経験があるのですが)。人々は柔軟性を求めており、それを避けて通ることはできません。私たちはついに、産業革命型モデルの組織から、知的労働者タイプの組織へと変容しようとしているのです。

マイアミからオフィスが全て消え去るとは思っていませんが、ダウンタウン周辺のオフィスの密度と、都市開発の手法は変わっていくと思います。コワーキング型スペースの人気が再燃し、より広く普及していくでしょう。人々は仕事をするためにオフィススペースへ行きますが、いつも同じ会社の人と一緒にいるわけではない、というだけなんです。通勤時間を短縮するため、住宅地の周辺地域へ均等に広がっていくことでしょう。拘束時間の減少が、生活における幸福感の向上につながり、それが生産性へと還元されるようになります。

スタートアップではチームが各地に分散しているのは普通のことです。しかしながら、都市の垣根を越えて投資するという習慣が根付くには長く時間がかかります。多くの投資家は創業者が同じ都市にいることを好むのです。そういった意味で資本分散が一般化するまでには時間がかかります。投資家は群集心理によって動くものです。そのため、何人かのトップ投資家が公の場で現状に疑問を投げかけてやっと、変化が生じ始めます。Founders Fund(ファウンダー・ファンド)のキース・ラボイス氏がマイアミに拠点を移したことが、最近の良い例です。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

当社が新しく設立した6000万ドル(約62億9800万円)のファンドを通して、ラテンアメリカやフロリダでシリーズAの資金を調達する創業者と手を組んでいく予定です。また、機会があれば、シードラウンドの案件にも参加します。   

当社は製品主導型の企業に注目することが多いと思います。「二番煎じ」の製品を作ろうとしないだけではなく、正真正銘の知的財産や付加価値を有する製品またはビジネスモデルを持つ企業を発掘するのは、刺激的な経験です。主に、SaaS、エンタープライズソフトウェア、不動産テック、フィンテック、インシュアテックに注目していますが、これら以外の企業に対してもアンテナを張っています。最終的には優れたチームと提携できればと思っています。

マイアミには、数社だけ名を上げるのはフェアではないほど数多くの素晴らしいチームがあります。個人的に心が動かされるのは、応用AIとAIインフラ、決済とeコマースのイネーブルメントなど、未来の働き方を可能にするコラボレーションツールへの投資です。また最近では、消費者サブスクリプションについてもっと知りたいと思うようになっています。SaaSのリカーリングモデル(継続収益モデル)とB2Cビジネスが持つ巨大市場を融合させる手法に勢いを感じています。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

テック関連かどうかは問わず、有能な人材の獲得と資金調達が主な課題だと聞いています。マイアミへ人が流入していますし、リモートワークでの雇用がトレンドですから、人材確保はこの先障害ではなくなっていくでしょう。ここ数年の間に、より多くの大手企業がフロリダ州南部に支店を設け、それによってより広範囲でスタートアップの発展段階をサポートできるようになりましたから、以前より資金調達状況は改善されています。私はこの傾向がこの先も続いていくと見込んでいます。

マイアミは、あらゆる人を惹きつけて楽しませる魅力を持つ都市です。私は人々に「マイアミの好きなところを一つだけ選ぶとしたらどこですか」と尋ねるのが好きです。マイアミには、面白い背景や経歴を持つ、非常に賢い人々がたくさんいるのですが、そういう人はおそらくWet Willies(ウェットウィリーズ。凍ったカクテルで有名なバー)で飲んだり、シャンパンを片手にゴージャスなライフスタイルについて語ったりはしていません。移住直後は特に、マイアミについての先入観を持たないようにすることをお勧めします。心をオープンにして、良い面も悪い面も両方受け入れる心構えが必要です。私はここに移住してきたばかりの人と知り合い、マイアミのありのままの姿を紹介するのが好きです。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。

スタートアップのエコシステムが発展途上である他の場所と同じく、マイアミにも重要な役割を担っているプレイヤーが大勢います。The Knight Foundation(ザ・ナイト・ファウンデーション)、Miami Angels(マイアミ・エンジェルス)、CIC(シー・アイ・シー)、Refresh Miami(リフレッシュ・マイアミ)、Wyncode(ウィンコード)、 Next Legal(ネクスト・リーガル)、PAG Law(ピー・エー・ジー・ロー)、The LAB(ザ・ラボ)、Secocha Ventures(セコチャ・ベンチャーズ)、Animo Ventures(アニモ・ベンチャーズ)、Las Olas VC(ラス・オラス・ベンチャー・キャピタル)、The Venture City(ザ・ベンチャー・シティ)をはじめとする数多くのステークホルダーが、マイアミのエコシステムの発展に尽力することを表明しています。私は、あまり「目立たない」企業ほど、関係を築く価値がある場合が多いことに気付きましたので、他の都市から移住してきた方は特に、表面的なグーグル検索を超えたリサーチを行うようお勧めします。

Tigre Wenrich(ティグレ・ウェンリッチ)氏、LAB Ventures(ラボ・ベンチャーズ)、CEO

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

最近のバズりは1999年と非常によく似ているように思います。あの時はむしろラテンアメリカからの移住者が多くて、カリフォルニアからの移住者はそれほど多くなかったですけどね。私もまだここには住んでいませんでした(メキシコに住んでいました)が、マイアミが「シリコン・ビーチ」になりつつあるという報道がヒートアップし始めて、たくさんのスタートアップが多額の経費をかけてリンカーン・ロードにオフィスを構えるようになったことは覚えています。2000年にインターネットバブルが崩壊した後、そのうちの大半が廃業したか、もしくは、非常に成功していたけれどマイアミではビジネスを展開していなかったMercadoLibre(メルカドリブレ)のように、ラテンアメリカへ戻りました。

私は用心深い楽天家なのですが、今回は違います。大手VCが州税を節約するためにマイアミに移転してくることは大歓迎ですし、スアレス市長が大変活発にマイアミを宣伝してきたことに拍手を贈りたいと思います。地元コミュニティの発展に寄与していきたいと積極的に公言している人もおり、大変素晴らしいことだと感じています。しかし、マイアミがいずれテックハブになると私が確信している理由は他にあります。

私が楽観視している本当の理由は、過去8年から10年の間に、地元のテックコミュニティがゆっくりと、だが着実に成長を続けてきたことにあります。今では、非常に大きなテック企業(例えば、Chewy(チューウィ)、Magic Leap(マジック・リープ)、Reef(リーフ))がいくつもフロリダ州南部に拠点を置いており、地元の人材プールが大きく拡充され、Google(グーグル)、Facebook(フェイスブック)、 Uber(ウーバー)のような大手テック企業の重要な支社や、他分野の大企業(JetBlue(ジェットブルー)、Blackstone(ブラックストーン)など)もマイアミにテック関連の支社を開設するようになりました。そして最も重要なのは、イグジットを成功させることによって得た資金を投資し、新しいスタートアップの良き指導者となる起業家が、今は少なくても着実に増えていることです。

これは決して近年の現象ではありません。むしろ、2012年に私たちがマイアミにThe LAB(ザ・ラボ)を開設した時からずっと続いているトレンドです。コワーキングスペース、アクセラレーター、インキュベーター、学生起業家、コンピューターサイエンスプログラム、コーディングスクールなど、さまざまな組織が提供する起業サポートの増加は、長年にわたるプロジェクトの成果であり、次のシリコンバレーはマイアミだとツイッターマニアが盛り上がるようになりました。

シリコンバレーのようなテックハブは、それぞれの役割を果たすプレイヤーが互いに養い合い、増強し合うコミュニティという基盤があったからこそ成功したのです。昨今、食傷するほど多用されている「エコシステム」という言葉が使われているのはそのためです。20年前、いや10年前ですら、マイアミは、テックハブへと成長するためのクリティカルマスには達していませんでした。1999年の盛り上がりは一時的なものにすぎず、テックムーブメントではなかったのです。しかし現在は、飛躍的な成長への分岐点となるクリティカルマスに近づきつつあります。5年後には、マイアミがテックハブであることは現実のこととして受け入れられ、ハブになり得るかどうかという点は、議論の余地すらなくなると予想しています。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

私はマイアミからオフィスが消え去るとは思っていません。ですが、オフィスの利用の仕方は確実に変化していくでしょう、今後も全面的にリモートワークを続けていける職種も数多くありますが、弁護士、税理士、経営コンサルタント等、サービス業の多くは徒弟制を取っているためZoomなどでその形態を維持していくのは非常に難しいと思います。企業文化も、短期間でしたらリモートワークを通して維持することが可能ですが、新入社員にその文化を伝えることは困難でしょう。また、社会活動への欲求が強く抑圧されてきた反動で、ワクチンが普及し、安全が確認されたら、人々は急速にオフィスへ戻っていくと考えています。

ですが、未来のオフィスは今とは全く違った形になる可能性が高いでしょう。共有スペースやコラボレーションのためのスペースが増えると思います。固定オフィスが割り当てられることはめずらしくなり、週に2~3日はオフィス勤務で、残りの日にはリモートワークというような自由な勤務制度へ移行する人が増えます。このような変化が商用のオフィススペース需要に与える影響についてはまだはっきりしません。マイアミ都心部のオフィス密集地域は苦戦するかもしれませんが、郊外のオフィス需要は増加する可能性が高いです。また、2021年の後半には、コワーキングスペースへの需要が急速に戻ると予想しています。完全なリモートワーカーの拠点としての需要に加えて、通勤時間をかけてダウンタウンの「通常の」オフィスへ通いたくない人々の選択の一つとしての需要も増えるためです。自宅で非常に効率的に仕事をこなせる人もいますが、大半の人にとって自宅は気が散って集中しにくい環境ですからね。

パンデミックによって米国内の完全リモートワーカーの数は不可逆的に増加しました。どこに住んでもいいのなら、マイアミは明らかに魅力的な選択肢ですが、そのせいでマイアミの住宅価格が高騰しています。そのような理由で移住してくる人は地元コミュニティとの結びつきが比較的弱く、長期にわたって居を構える可能性は低いです。マイアミにとって本当の意味で好機となるのは、マイアミに事業拠点を移す企業が増え、それにともなって正規雇用枠が増えることであり、そうなることを目指すべきです。それに成功すれば、オフィス需要が減ることはなく、むしろ増えることでしょう。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

ラボ・ベンチャーズでは、マイアミだけでなく、世界中の不動産テック(不動産業や建築業界に特化したテック企業)に注目しています。

当社は、住宅用不動産の好機、とりわけ好調なシングル・ファミリー・ホーム市場に大きく期待しています。当社が投資する地元企業の中で、最も牽引力のある企業を挙げるなら、Beycome(ベイカム。消費者が自分で持ち家を売買し、本来は何十万円もかかるはずの手数料を節約するのを手助けするオンラインの不動産エージェント)やExpetitle(エクスパタイトル。不動産取引の最終的な決済の完全リモート化を実現した業者)などです。どちらもパンデミックの間にシードラウンドの資金調達を成功させ、堅調に成長し続けています。

建設テックもまた、確実な成長が見込める分野だと考えています。建設現場での労働時間追跡やプロジェクトマネージメントソフトウェア、オフサイトでのモジュール建設など、建設業界が抱える問題への解決法を提供しているいくつかの企業に投資しています。マイアミはそれらのテクノロジーを試すにはとても良い場所なのです。ここでは数多くの建設が活発に行われていて、技術革新に積極的な地元の業界関係者も多いためです。当社はまた、ラテンアメリカにも活路を見出しています。ラテンアメリカ地域のテクノロジーを米国に取り入れ、また米国の新しい革新的なテクノロジーをラテンアメリカの企業が取り入れる手助けをしています。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

他の皆さんが言われている通り、資金と地元人材の調達が(マイアミでの)実質的な二大チャレンジだと思います。ですが、どちらも改善に向かって大きく前進していますね。3つ目を足すとすれば、「詐欺師と変人の温床」というフロリダの評判でしょうか。客観的にみると、マイアミで不正行為に遭遇する頻度は他の場所より確かに高いのですが、文化の多様性とマイアミに浸透している移民精神が、クリエイティブで働き者の人材層を厚くしているのもまた事実なのです。また、マイアミのコミュニティは非常にオープンです。何しろ私たちの大半が元はよそ者ですから、新たな移住者を歓迎する雰囲気が他よりも強いと思います。地元のテックコミュニティはまだ規模が小さいので、何が起きているのかすぐに把握できます。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。   

たくさんの素晴らしい創業者たちがマイアミで重要な役割を担っていますが、あえて名を挙げるとすれば、次の方々でしょうか。

  • Aaron Hirschhorn(アーロン・ハーシュホーン)氏。アーロンはGallant(ギャラント。ペット向け幹細胞バンク事業)を立ち上げ、大手のベンチャー企業から巨額の資金を調達し、テレビ番組Shark Tank(シャーク・タンク)にも出演したことがあります。自身のスタートアップDogVacay(ドッグ・ベイケイ)をRover(ローバー)へ売却した後、数年前にマイアミへ移ってきました。     
  • Andres Moreno(アンドレ・モレノ)氏。経営するOpen English(オープン・イングリッシュ)に加えて、Endeavor Miami (エンデバー・マイアミ)の共同経営者であり、アーリーステージ期のスタートアップ(Longevo(ロンゲボ)とEscala(エスカーラ))に積極的に関わっています。
  • Maurice Ferré (マウリス・フェレ)氏。彼は、Paypalマフィアのマイアミ支部ヘルステック部門担当といったところでしょうか。マイアミではMako Surgical(メイコー・サージカル)を売却し、現在は本当に実力のある数多くのスタートアップに投資したり、相談に乗ったりしています。
  • Jose Rasco(ホセ・ラスコー)氏とJuan Calle(ジョアン・カレ)氏。2014年に.CO(ドットコー)を売却し、現在は、コワーキングスペースbuilding.co.(ビルディングドットコー)をはじめとする多くのプロジェクトに携わっています。
  • IronHack(アイロンハック)のAriel Quinones(アリエル・キノネス)氏。彼はマイアミを拠点としていますが、アイロンハックは欧州のマーケットリーダーで、先月また1000万ドル(約10億5000万円)の資金調達を行ったところです。何か大きな企画があるようです。
  • Felipe Sommer(フェリペ・ソマー)氏とEmiliano Abramzon(エミリアーノ・アブラムゾン)氏。Nearpod(ニアポッド)を設立しましたが、最近になって日々の管理業務からは退きました。彼らは近いうちに何か大きなことをやってくれると確信しています。
  • Marco Giberti(マルコ・ギバルティ)氏。マルコは創業者からエンジェル投資家へ転向した、「ビルダー型」もしくは「ベンチャースタジオ」モデルと呼ばれる手法の先駆者です。彼はLAB Ventures(ラボ・ベンチャーズ)の共同創始者で、イベントテックに関する著書を出版した経歴を持つ、イベントテックの専門家でもあります。
  • 法律事務所:PAG.LAW(ピーエージーロー)。マイアミのスタートアップ企業や、米国に支店や法人組織を持つ、もしくは今後持つことを考えているラテンアメリカのスタートアップの大多数の代理人を務めている法律事務所です。

Rebecca Danta(レベッカ・ダンタ)氏、Miami Angels(マイアミ・エンジェルス)、常務取締役

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

マイアミに移り住む人の数はますます増えると思います。現在盛りあがっているブームのいくつかは下火になっていくかもしれませんが、それでも、ここに住んで事業を営むことをことを積極的に選択する人が途切れることはないと思います。2020年より以前には、マイアミに住むということは、ライフスタイル面での選択であり、キャリア面では後退だとみなされることがありました。しかし、最近はそのようにみなされることはなくなってきています。今、この街はテック企業と投資家が繁栄する街へと確かな変貌を遂げているところです。数年前に創業したスタートアップが成熟し、拡大に伴って雇用を加速させ、そのうちに、それらの会社の社員たちが独立して自分の会社を興すようになるでしょう。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

Pipe(パイプ)が先日発表したマイクロハブのように、パンデミック後の世界では、ハイブリッドな就労環境が不可欠になると思います。テック関連の業務や企業が100%リモートワークになるとは思いません(多くはそうなりますが)。同時に、100%オフィス勤務かつ週5日の対面業務に戻ることも絶対にないと思います。企業の本社機能をどこに置くか、創業者にはかつてないほどの選択肢があり、社員は仕事のために転居する必要はなくなります。創業者はクオリティ・オブ・ライフと就労環境の整えやすさの点で魅力的な街を選ぶでしょう。そして、マイアミを拠点にすれば、人材を容易に惹きつけることができると思います。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

当社マイアミ・エンジェルスは(アーリーステージのソフトウェア企業であれば)業界を特定していません。マイアミに拠点を置く企業への投資は2013年から始めましたが、マイアミの企業にのみに投資しているわけではありません。マイアミには大規模な学校や医療体制が整っているため、マイアミのエドテック業界とヘルスケアテック業界には常に注目してきました。また当社には、これらの分野に関する地元ならではの専門知識とイノベーションがあり、パンデミックによってその知識とイノベーションにさらに磨きがかかりました。当社は何年にもわたりそれらの分野に重点的に投資してきましたが、それは、その土地ならではの重要な分野に注力することが重要だと信じているためです。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

既にいくつかのマイアミ発スタートアップが注目に値する成功を収めていますが、テック業界のエコシステムとしてはまだ発達途上の段階です。この街にあるスタートアップの大半はまだ小規模で、従業員数は50人以下です。つまり、大半の会社には、プロダクト、デザイン、エンジニアの大型チームがまだ形成されていないということです。地元の大学を卒業した優秀な人材はいますが、マイアミに、20歳そこそこのジュニアエンジニアを毎年採用できるスタートアップが増えない限り、それらの人材は他の都市へ流出するの止めることはできないでしょう。簡単に言えば、プロダクト、デザイン、エンジニアに関する最高峰の人材がまだこの街に集結していないということです。幸運なことに、マイアミはそのような人材を圧倒的に惹きつけることができる場所なのですが、重要なのは、創業者がそれを認識することです。

TC:投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。 

エコシステムの成功は全て創業者のおかげです。ですから、数年前にこの地にスタートアップを設立してマイアミに賭けた創業者たちこそ、特別な注目に値します。彼らは、外部の投資家から反対されながらも、マイアミを信じ、あえてマイアミで創業することを選びました。そのような創業者にはBlanket(ブランケット)のAlex Nucci(アレックス・ヌッチ)氏、WhereBy.Us(ウェアーバイ・アス)のChris Sopher(クリス・ソファー)氏、Rebekah Monson(レベッカ・モンソン)氏、Bruce Pinchbeck(ブルース・ピンチベック)氏、Nearpod(ニアポッド)のEmiliano Abramzon(エミリアーノ・アブラムゾン)氏とFelipe Sommer(フェリペ・ソマー)氏、 Caribu(カリブ)のMaxeme Tuchman(マキシム・タックマン)氏、Addigy(アディジー)のJason Dettbarn(ジェイソン・デットバーン)氏らが挙げられます。また、Kiddo(キドー)のEmma Harris(エマ・ハリス)氏、Kiddie Kredit(キディ・クレディット)のEvan Leaphart(エヴァン・リープハート)氏やDomaselo(ドマセロ)のEmil Hristov(エミール・フリストフ)にも注目しています。 

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:インタビュー アメリカ

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(文:Marcella MaCarthy、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。